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冤罪   作者: はるあき/東西
2/17

処刑方法

明けましておめでとうございます。

今年もよろしくお願いします。

 数日後、王城でランスたちは悪女メッツアの処遇について話し合っていた。ランスの父、この国の王は半月ほど前から隣国の会議に赴き不在であった。そのため代理を任されているランスが又従姉妹であるメッツアを裁かねばならなかった。


 民にメッツアの悪行が広まるのは速かった。舞踏会で箝口令を命じたのにも関わらず、翌日にはほとんどの民が知っており極刑を求めて城に押し寄せていた。

 民たちは悪女メッツアの公開処刑を今直ぐにと望んでいた。メッツアは、恐喝から強盗、誘拐、殺人、違法薬物販売、人身売買など多岐に渡る犯罪の主犯的存在であった。民の怒りは凄まじく、苦しまずに死ぬことを許さなかった。祖母が降嫁した先代王の妹王女ということもあり毒盃をと考えられていたがそれは候補から外さねばならなかった。


「目隠しして絞首刑…」


 メッツアの弟であるナニエルがボソッと呟いた。姉と同じブロンドの髪は艶がなく、青い瞳には深い憂いが見える。姉メッツアと同じ吊眼だが整いすぎた美貌には陰りがあり、冬の貴公子と呼ばれている冷たさが今はない。机に両肘を突き重ねた両手の上に額を乗せ項垂れている姿は悲しみに染まっていた。罪人とはいえ彼はたった一人の肉親を失うのだ。その心中は複雑だった。


「それで民が納得するでしょうか?」


 異を唱えたのは側に立つナニエルの乳兄弟のエタサだ。赤毛の髪をかき上げて茶色の瞳に残忍な輝きを灯す。長身の体からはやっと悪女を裁けるとナニエル(あるじ)の思いと反した喜びと主を最後まで苦しめている怒りで震えていた。


「長く苦しむ刑を望むのでは?」


 エタサは、ナニエルの乳母である母親から、メッツアの魔の手からナニエルを守るため屋敷に帰るなとの手紙を何十通も受け取っていた。

 ナニエルの両親が事故で亡くなった直後に寄宿学校に入れられたナニエルは思い出が詰まる屋敷に八年間一度も帰ることが出来なかった。

 学園に入学するために王都に戻ったものの、この一年間、屋敷から離れた別邸に住まわされ屋敷に行くことも許されていない。もちろん、ナニエル付きのエタサもそうだ。八年間も家族に会えなかった恨みも強い。もちろん他の理由も十分にあるが。


「じゃあ、八裂きか、火炙りだなー」


 場違いなほど軽い口調のハミルの声にナニエルが顔を歪める。幼い頃は仲が良かった姉が長く苦しむ姿を見たくない。見たくないが罪状を考えるとやむを得ないのも分かる。


「止めて下さい。いくら罪が重いからって長く苦しむなんて」


 クーイラサが憐れみの籠った声で懇願していた。ピンクブロンドの髪が軽く揺れている。緑の瞳は悲しみに溢れていた。

 八年前に前ウェットダン公爵夫妻が馬車の事故で亡くなった。幼い二人の子供の後見人に夫人の弟であるタナビタ子爵がなったことにより、クーイラサはウェットダン公爵家の屋敷で暮らしている。片親でもいるクーイラサを妬んでメッツアが虐めを始めたと推測されていた。


「クーイラサは優しいな」


 ナニエルと同じブロンドの髪のサライスは、そっとクーイラサの肩に手を置いた。その空色の瞳は愛しそうにクーイラサを見つめている。少し垂れ目で柔和に見える顔はナニエルと対とある春の貴公子と呼ばれていた。

 クーイラサは庇護欲を誘うとても可愛らしい容姿をしている。見掛けに関わらずとても芯が強い女性だと分かっていても、つい甘やかし守ってあげたくなる雰囲気も持っていた。いや、サライスは一生をかけてクーイラサを守っていくつもりだ。


「だが、罪は罪だ。償わなければならない」


 サライスの深い青の瞳はクーイラサを虐めたことを許しはしないと誓っていた。


「じゃあ、目隠し無しの絞首か斬首。一瞬で終わるけど、それまでの恐怖は半端ないと思うぜ」


 ハミルは栗色の髪を掻き上げた。そのトパーズの瞳は面倒臭いと語っている。騎士らしく精悍とした顔も煩わしさを隠していなかった。

 ハミルは同年のランスとメッツアとは幼い頃からの知り合いで幼馴染ともいえる存在だ。なのにメッツアの刑を提案する口調は軽く淡々としていた。


 ハミルの軽い口調がナニエルを更に追い込む。メッツア(あね)が幼い頃仲良くしていた男友達にさえ軽く刑を提案される存在となってしまったことに。


 まだ一言も発していないランスは集まった五人をゆっくりと見渡した。精巧に作られた像のように整った顔には何の感情も見えずただ五人を観察しているようだった。そしてブロンドの髪は煌めき、一度閉じて開いた青玉の瞳は強い意思の光を放っていた。


「メッツアの助命を願う者たちがいる」


 その場にいた者たちは、まず聞き間違いかと自分の耳を疑った。


「メッツアの助命を願う者たちを別室に招いてある。話を聞きに行くが、お前たちはどうする?」


 ランスがもう一度言ったので聞き間違いではなかった。


「はあ、じょめい、ですか?」


 間抜けな声で問い返したのはサライスだった。


「メッツア様の呪縛から抜けられない方が見えるのですか?」


 クーイラサが震えながら問いを口にする。


「分からぬ。本人たちの意思なのか、背後に誰かいるのか。それも確かめに話を聞く」


 彼らは、悪女メッツアの助命を願う者たちがいる部屋に移動した。 

お読みいただきありがとうございます。

皆様にとって良い年でありますように。

12月31日23時に1話を投稿済みです。

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