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冤罪   作者: はるあき/東西
14/17

ランス

 ランスにはお気に入りの女の子がいた。

 ウェットダン公爵家の長女メッツアだ。

 吊眼がきつく見えて可愛くないというが、ランスを呼ぶ声は可愛くコロコロ変わる表情は見ていて飽きなかった。

 メッツアが又従姉妹という立場も良かった。血の濃さはほどよく地位も容姿もランスに釣り合いが取れていた。

 ただランスには強力なライバルがいた。


「お父様が許してくれなかったの」


 メッツアが街に出掛けた時、乞食の子供がいたらしい。お腹を空かせて食べ物を乞う姿に同情し、金貨を渡そうとしたのを父親のウェットダン公爵が止めた。


 困っている者は沢山いる。全員助けられないから止めておくように。


 ウェットダン公爵の言うことは正論だ。街では二日に一回、決められた場所で炊き出しをおこなっている。大量に作っているがそれでも集まってきた者全員には当たらない。助けられる人数は決まっていた。


「では、そんな者が少なくなるように頑張るよ」


 ランスが慰めるようにそう言うと横から口を出す者が必ずいた。


「お、俺は犯罪者がいなくなるように頑張る!」

「じゃあ、私もランス様のお手伝いが出来るように頑張る!」


 メッツアがそう言ったことで口を出してきたハミルの肩がガクッと落ちる。ハミルの思いが伝わっていないことにホッとしながら、ランスはメッツアに優しく笑いかける。


「みんなで頑張ろう」


 幸せな時間だった。あの時までは。



「メッツアがサライスと婚約?」

「ああ、サライスを公爵とするにはそうするしかない」


 父である国王から聞かされたことは最悪な内容だった。ランスはもっと早く自分の思いを伝えておけばと後悔した。そして、メッツアが幸せにならなければ幾ら従弟でもサライスを許さないと誓った。


 婚約者が決まったからメッツアがランスたちと距離を置くようになった。それは仕方がないとランスたちも諦めた。だが、サライスの態度だけは許せなかった。

 だから、ランスは何度もサライスにメッツアに優しくするように注意した。ランスが注意すればするほどサライスはメッツアに素っ気なくなっていった。だからメッツアのためにサライスを注意するのも我慢した。ランスが注意するからサライスがメッツアに冷たくするのかもしれないと思ったからだ。


 ウェットダン公爵夫妻が亡くなり、夫人の弟であるタナビタ子爵バベラがメッツアたちの後見人になった。城で聞くタナビタ子爵の評判は良くランスはホッとしていた。信頼出来る大人がメッツアの側にいてくれる、と。

 それが間違いだと気付いたのは数年経ってからだった。


 聞こえ出したメッツアの悪い噂。ウェットダンの屋敷に行くサライスに聞いても出てくるのはメッツアの従妹の名前ばかり。直接訪ねたくてもサライスが邪魔をする。


 年を重ねる毎に増える公務。時間を作りメッツアの噂を調べたいのに何処からか聞き付けてきたサライスが邪魔をする。


 学園に入ってもよそよそしいメッツア。真夏でも首が隠れた長袖のドレス。ハミルがその姿を睨むように見ている。ランスも同じだ。メッツアが一言言ってくれたら、ランスもハミルも動くのに。


 二年が経ち、サライスたちが入学してきた。

 ランスはサライスの態度に殺意が湧いた。側に置くメッツアの従妹を心の中で阿婆擦れと罵った。


「父上、やはりサライスは公爵には相応しくありません」


 ランスはサライスの態度を()()国王に報告した。そして、タナビタ子爵が後見人としての役目を全く果たしていないことも。


「この一年様子を見る」


 この答えにもどかしさを感じながらもランスは引き下がるしかなかった。


 公務で行けなかった学園の報告を聞く度にイライラした。好戦的なツーリニ国の対応で国王は忙しく、ランスに国内の公務が回ってきていた。日に日に学園に通えなくなってきている。学園に行けば、サライスや阿婆擦れから聞かされるメッツアの悪い話。阿婆擦れがいない所でサライスを諌めるが聞く耳を持たない。

 そうこうする内にランスたちの卒業式が近付いてきた。


「メッツアと婚約破棄だと」

「ああ、クーイラサがメッツアが関わった犯罪の証拠を持ってきた。こんな女を公爵夫人にさせられない」


 ランスは思わず吹き出しそうになった。サライスは自分と婚姻する者が公爵夫人となると思っていることに。公爵になるには身分も教養も足りていないことに気がついていない。


「卒業を祝うパーティーで宣言など。公衆の面前で行うことではない」

「そうでもしないと父上が諦めてくれない」


 サライスの言うことは一理あった。カンタス大公は息子を公爵にすることを諦めていない。メッツアとの婚約を公式な文書で解消しても難癖を付けてくるだろう。

 仕方なくランスは折れることにした。だが、これだけは守ってもらわなければならない。メッツアに犯罪者の名が付かないようにしなければ。


「クーイラサに対する態度のみだ。犯罪に関しては調べてからでしか公表できない」


 ランスは考えた。サライスとの婚約を破棄させることで犯罪にメッツアの名が使われることを抑制できる。犯罪の調査のためとして城で保護することが出来る。メッツアを助けられるかもしれない。


 だが、サライスは究極のバカだった。卒業を祝うパーティーでメッツアが犯罪を行っていたと公表し、裏が取れていないのに証拠もあると宣言してしまった。慌てて箝口令を出したが、数日中には広まってしまう。

 ランスでは庇いきれない状態にされてしまった。阿婆擦れと喜ぶサライスを睨み付けてしまうが浮かれている二人は気が付かない。

 

 どうにかメッツアを救う手がないか探すが、次の日にはメッツアの罪を知った民が城に押し寄せてきた。誰かが話したにしては早すぎる。最初から王都中に広まるようにされていたとしか考えられない。誰が? と考えるが公務が答えを出す時間を与えてくれなかった。

 民の極刑を望む声を無視出来なくて、メッツアは処刑されることが決まってしまった。調べ直せば救えるかもしれないのにその時間さえも作れない。

 公務が忙しいと処刑方法を決めず延ばしていたら、メッツアの助命を望む者が現れた。

 ランスにとってはメッツアを救えるかもしれない最後のチャンスだった。

お読みいただきありがとうございます。

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