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冤罪   作者: はるあき/東西
12/17

入れ替り

「やっと理解したところで話を戻していいか」


 ハミルは紙の束をペラペラとまた捲った。


「タナビタ子爵は確かにキワサハ伯爵領を留守にしていたが、フイカラサ辺境領には行っていなかった。友好国であるユーハニア国を訪問していた」


 ハミルはランスに一枚の紙を渡した。国境の入出国記録だ。そこにタナビタ子爵バベラの名がはっきりと書かれていた。


「フイカラサ辺境領にいたタナビタ子爵は偽者だったということか」


 ランスの言葉にハミルは頷いた。


「恐らく。タナビタ子爵を乗せたのは各国を巡る行商の馬車だった。助けた()()()()()()()()を降ろした後隣国に渡り諸国を渡り歩き昨年この国に訪れた。タナビタ子爵を訪ねて元キワサハ伯爵領に来たためこの話を聞くことが出来た」


 ランスは慌ててハミルに問いかけた。


「ハミル、今、親子と言わなかったか?」


 ハミルはペラリと紙を捲りながら、首を縦に振った。


「馬車に乗せたタナビタ子爵は金髪の緑の瞳の幼い娘を連れていたそうだ。で、調べたらフイカラサ辺境領で辺境伯に処刑された女性の夫と娘が行方不明という記録が出てきた」


 ハミルは眉を寄せているランスに一枚の紙を渡した。

 ランスはそれを走り読むと重い息を吐いた。そして口を開いた。


「クーイラサ、ユーハニア国のライマカ伯爵を知っているか?」


 友好国ユーハニア国とは貴族間の交流も盛んに行われている。キワサハ伯爵領と取引があってもおかしくはない。


 クーイラサは首を縦に振る。名前は聞いたことはある。キワサハ伯爵と交流があり頻繁に文のやり取りをしていたと聞いていた。


「お祖父様と付き合いがあったと……」


「十三年前キワサハ伯爵領にライマカ伯爵令息が短期間であったが静養で滞在していた。クーイラサと仲が良く、その後もキワサハ伯爵を通して文を交わしていた」


 クーイラサはあっと声を上げると慌てて口を開いた。


「ええ、よく覚えています。と、とても優しい方で………」

「それだけか?」


 ランスの言葉にクーイラサは首を傾げる。それ以上答えようがない。年齢も容姿も知らないのだから。


「あの大火事がなければ、ライマカ伯爵令息とクーイラサの婚約話が出るはずだった。お互いの手紙の中だけの話で親であるライマカ伯爵、タナビタ子爵にもまだ話していなかったらしいが」


 クーイラサは顔色を無くして固まった。口を開くが声が出ない。幾ら考えても適切な言葉を探せなかった。


「令息が手紙を保管していた。確かに十年経っている。だが、婚約を結ぼうとしていた相手を忘れるか?」


 ランスの問いかけにクーイラサは弱々しく首を横に振るだけだ。


「ハミル、ライマカ伯爵令息は?」

「今、タナビタ子爵と会っているはずだ。滞在中の話やクーイラサの手紙に書いてあったことを聞いてもらうことになっている」


 クーイラサはガクッと肩を落とした。父ならのらりくらりと言い逃れが出来るかもしれない。けれど、自分はもう無理だ。何も思い浮かばない。


「ラ、ランス様、ではこのクーイラサは?」


 ナニエルは従姉妹と思っていた相手が違うことに驚きを隠せなかった。


「恐らくキワサハ伯爵の双子の兄の孫だろう。キワサハ伯爵の血筋だが廃嫡され貴族籍はないから平民の娘となる」


 ランスの答えに愕然としたのはサライスとエタサだった。自分たちがチヤホヤした娘が学園に通う資格もない平民の娘だったことに。


「本物のタナビタ子爵とクーイラサは?」

「あの大火事で亡くなった、いや殺されたとみていいだろう。焼け焦げて性別さえも分からない遺体が幾つもあったと記録がある」


 ナニエルは茫然とした。確かに血の繋がりはあるのかもしれない。だが偽称された身分に騙されてたった一人の家族(あね)を罪人とし見殺しにしてしまった。何故簡単にクーイラサを信じてしまったのか、何故姉を信じ続けられなかったのか、たった一人の肉親だったのに。悔しくて堪らない。


「タナビタ子爵バベラはキワサハ伯爵領の跡継ぎとして申し分ないと評価を受けていた。その真面目な態度からウェットダン公爵家の後見人に相応しいと判断された。まさか入れ替わっていたとは……」


 ランスが苦々しく呟く。城での評価が高く他に適任者がいなかったため母方ではあったがタナビタ子爵がメッツアたちの後見人と認められた。それが間違いであったとはその時、誰が分かっただろうか。


「今、その大火事とウェットダン公爵夫妻の事故も調べ直している」


 ハミルの言葉にランスは深々と息を吐いた。


「夫人と会えば弟でないことが分かる。余罪は多そうだな」

「ランス様、私は、私はどうなるんだ?」


 ランスは冷たい眼差しをサライスに向けた。こんな小者に構っている暇などない。


「サライスとクーイラサ? この娘をメッツアが入っていた場所、地下牢の最奥へ入れておけ」

「ランス様、何故? 私は王族だ!」


 サライスが叫ぶ。クーイラサは反論する気力もないのか項垂れたままだ。


「その理由さえも分からないからだ。取調べの時は出してやる。取調べ官が病気になると困るからな」


 ランスの指示に二人の近衛兵がサライスの腕を掴み引き摺るように連れ出していく。クーイラサは片腕を取られ、大人しく従っていた。


「離せ、私はカンタス大公の息子だぞ! 不敬罪で訴えるぞ」

「サライス、王族として無様を晒すな。これでもメッツアが受けた仕打ちを思ったら優しいほうだ」


 ランスの言葉にサライスは一瞬固まり、おかしい、間違っていると叫びながら扉の向こうに消えていった。

お読みいただきありがとうございます。

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[一言] 〉「ランス様、何故? 私は王族だ!」 メッツアも王族の血を引いてるんだなぁ。これが。
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