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冤罪   作者: はるあき/東西
11/17

婚約

「な、何で今そんな話を? 昔の辺境の話なんて関係ないだろ」


 頬を押さえたサライスが訳が分からないという目でランスたちを見ていた。

 ランスはサライスを見て諦めたように小さく息を吐いた。


「ハミル、騎士団は?」

「動いている。この数年、タナビタ子爵と接触していた者はほとんど確保していると思う」

 

 その言葉にクーイラサがビクっと反応し、ハミルを信じられないという目で見ていた。その緑色の瞳を見開いて。


「い、いつから調べて?」

()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 ランスがはぁ。と呆れた息を吐いた。


「ほとんど十年前からじゃないか」


 クーイラサは掠れた声で呟いた。


「そ、そんな前から………」

「なっ! そ、そ、そんな前からなら」


 クーイラサの声を掻き消してサライスが叫んだ。


「分かっていたんじゃないか! クーイラサに私が騙されていたって!」


 ギロリとハミルはサライスを睨んだ。


「おかしい、とは思っていた。メッツアがそんなことするはずがないからな。けど、証拠が中々掴めなかった」


 ゆっくりとハミルはまだ床に座り込んだままのサライスに近づいた。サライスは両手も使って床を必死に後退った。怖い。冷笑を浮かべて近づいてくるハミルがもの凄く怖い。


「それに何度も言ったよなー。クーイラサ(こいつ)より婚約者のメッツアを大切にしろ、て。メッツアと向き合って話をしろ、て」


 ハミルは膝を折り、サライスと視線を合わせてゆっくりと口を開いた。


「ランス様も何度もお前に言っていたのに無視したのは………、サライス様じゃん」


 サライスは顔色を無くして目の前にいるハミルから逃げようと視線を彷徨わせて、ランスを縋るように見た。


「サライス、ハミルの言う通りだ。お前は聞かなかった。何度諌めても。数年前から、お前がクーイラサを選ぶのならタナビタ子爵となることが決まっていた」


 サライスは一瞬唖然として、ガッと起き上がるとランスに詰め寄ろうとしたが近衛兵に止められた。

 クーイラサも音の鳴らない悲鳴を上げて茫然としている。


「な、ぜ…?」

「何故、私がタナビタ子爵に!」

「当たり前だろう。メッツアとの婚約はお前を公爵とするためのものであった。それを台無しにしたのに何故公爵になれると思っていた?」


 大公位は一代限りのものであった。カンタス大公の母親は城仕えの平民の召使いであり、サライスの母親・大公妃は没落した男爵家の令嬢であった。だから、後ろ楯となれる(ちからのある)家の令嬢と婚姻することで公爵位を与えることになっていた。


「クーイラサはメッツアの従姉妹だ」

「ああ、母方のな。王族の血を引くのはメッツアたちの父親、亡きウェットダン公爵だ」

 

 ランスの答えに意味が分からないとサライスは首を横に振る。


「メッツアは私たちの又従姉妹、王族の血を引く者。だから、メッツアと婚姻したのなら王族の血も濃くなり公爵位に相応しいと見なされた」


 サライスは嘘だと呟きながら何度も首を横に振る。

 

「そ、そんな、はなし、は、き、いて、い、ない」

「ああ、していない。聞いていたらメッツアを大切にしたか?」


ランスの言葉にサライスは目を游がせた。婚約を継続したがメッツアを大切に出来たかと問われると………。


「だから、言わなかった。クーイラサに夢中なお前がメッツアを蔑ろにするのは分かっていた。それから、ハミルの言う通りタナビタ子爵も後見人の役目を果たせてなかった。責任を取らせ爵位返上をさせ、代わりにサライス、お前に与えることになっていた」

「そ、そんな! お父様は忙しくて…」


 クーイラサの言葉にランスは冷たい眼差しを向けた。


「クーイラサ、お前のせいでもある」


 自分のせいと言われたクーイラサには心当たりはない。父親の足を引っ張るような真似をしたことはなかったはずだ。


「メッツアの婚約者に近づく娘を諌めなかった。メッツアの後見人なら諌めて止めさせなければならなかった」


 クーイラサは息を飲んだ。サライスと恋仲になったことが原因だと思わなかった。


「そ、そんな! 人を思うのは自由だわ」

「そ、そうだ! その通りだ」


「それで?」


 ハミルは聞いた。


「それで、あんたたちは何かしたの?」


 サライスは何を聞かれているのか視線を彷徨わせる。


「価値のない娘を選んでも公爵として認められるような努力はした? サライス様の隣に立つためにメッツア以上の教養と礼儀作法を身に付けようとした?」


 価値のないと言われてクーイラサは唇を噛んだ。勉強も作法もメッツアと比べられたら雲泥の差だった。けれど少しも学ぼうとはしなかった。


「父上には話した。けど、許して貰えなかった」


 弾かれたようにサライスは答えたが、ハミルは鼻で笑った。


「話しただけ? で、メッツアには?」

「何故メッツアなんかに!」


「姉上はお前を公爵にするために()()()()()()()()()()()!」


 ナニエルはサライスに詰め寄って叫んだ。


「姉上には沢山の縁談がきていた。隣国の王族からも。姉上は相手を選べる立場だったのに」


 サライスは初めて聞く話だった。メッツアとの婚約は知らないうちに決まっていたことも気に入らなかった。だから、メッツアは喜んでサライスとの婚約を受けたのだと。


「カンタス大公のゴリ押しで決まった婚約だ。サライスを公爵にしたいから、と。メッツアの意思など関係なく」


 ランスの言葉にサライスはこの婚約が本当に自分のためだったことに目を見開く。


「なのにお前は婚約が決まった時からメッツアを無視していた。メッツアは幼馴染である私とハミルから距離を置くようになったのに。婚約者のお前に悪いから、と」


 ランスの声に滲み出る怒りにサライスは後退る。そんなことは知らない。誰も教えてくれなかった。


「じゃあ、じゃあ、何故、メッツアとの婚約破棄を許した!」


 サライスの叫びにランスとハミルは顔を見合わせた。

 

「メッツアの名をこれ以上使わせないため、メッツアを保護するため、だ。お前のためではない」


 ランスの言葉にサライスは卒業を祝うパーティーの時にはもうランスたちから見捨てられていたことにやっと気がついた。


「やっと理解したところで話を戻していいか」

お読みいただきありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[一言] 何故公爵家の血縁である父方の親類や一門が後見人じゃないのかが謎 公爵家の血が入っていない母方の親類が出てくる位なら王家から人を出せば良かったのにね。
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