[短編]密室のトーク
※「なろうラジオ大賞3」応募作品です。(使用ワード「密室」)
ピロリン♪
【僕のことを覚えていますか?】
私が夜一人で部屋にいると、スマホのSNSに知らないアカウント名からメッセージが来た。
ピロリン♪
【初めて貴女を見たのは、今から3ヶ月前のことでした】
「なにこの一人語り。キモッ」
ポップアップ通知がうっとうしかったので、私はトークルームを開いてみた。
その途端、シュポッと吸い込まれるような通知音がした。
【やっと開いてくれましたね。嬉しいです】
「うわ、すぐ気づいた」
シュポッ♪
【店に来た貴女を見た瞬間から、僕は激しい恋に落ちました。こんな綺麗な人と触れ合えたら、きっと毎日が幸せだろうとワクワクしました】
「まあ、悪い気はしないかな」
シュポッ♪
【でも悲しいことに、その日貴女は最後まで僕に気づきませんでした。僕はいつか再び巡り合える日を信じて、店で待ち続けました】
「へえ、そんな人いたんだ。知らなかった」
数か月前の記憶自体おぼろげになっていたので、まったく心当たりがなかった。
シュポッ♪
【今から2週間前に貴女がまた店に来たとき、僕は運命を感じて喜びました】
「そんなに嬉しかったんなら、声かけてきても良かったのに」
私はまんざらでもない気分になった。
シュポッ♪
【あのとき貴女は、僕の頬を撫でて優しく微笑んでくれましたね】
は? なに言ってんの?
そんなこと、2週間前どころか今まで誰にもした記憶はない。
シュポッ♪
【貴女の寝顔が近いと今もドキドキして、夜も眠れません】
「ストーカーっぽいな」
シュポッ♪
【貴女を想うと、いつも体が熱くなります】
「やっぱキモいわ、ブロックしよ」
シュポッ♪
【ブロックしないで。悲しくて涙が出ます】
「もう、先読みしてこないでよ」
シュポッ♪
【なぜ覚えていないのですか? 今も貴女の一番近くにいるのに】
もしかして、家のすぐ近くにいるとか?
怖くなった私は、慌てて部屋の鍵をかけた。
シュポッ♪
【もう我慢できません。僕の部屋にご招待します】
私の手の中で熱く湿ったスマホが、いきなり眩しい光を放った。
*
シュポッ♪
【やっと来てくれましたね。僕のこと覚えていますか?】
シュポッ♪
〖ここから出して〗
シュポッ♪
【ここからは二度と出られません。僕のこと覚えていますか?】
シュポッ♪
〖お願い出して〗
誰もいない密室の中、スマホの通知音と点滅する光が止まらない。
スマホの中の、「密室」のトークも止まらない。
最後までお読みくださり、誠にありがとうございます。
※文字数(空白・改行含まない):959字です。