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[短編]密室のトーク

作者: rara33

※「なろうラジオ大賞3」応募作品です。(使用ワード「密室」)

 ピロリン♪

【僕のことを覚えていますか?】


 私が夜一人で部屋にいると、スマホのSNSに知らないアカウント名からメッセージが来た。


 ピロリン♪

【初めて貴女を見たのは、今から3ヶ月前のことでした】


「なにこの一人語り。キモッ」

 ポップアップ通知がうっとうしかったので、私はトークルームを開いてみた。

 その途端、シュポッと吸い込まれるような通知音がした。


【やっと開いてくれましたね。嬉しいです】


「うわ、すぐ気づいた」


 シュポッ♪

【店に来た貴女を見た瞬間から、僕は激しい恋に落ちました。こんな綺麗な人と触れ合えたら、きっと毎日が幸せだろうとワクワクしました】


「まあ、悪い気はしないかな」


 シュポッ♪

【でも悲しいことに、その日貴女は最後まで僕に気づきませんでした。僕はいつか再び巡り合える日を信じて、店で待ち続けました】


「へえ、そんな人いたんだ。知らなかった」

 数か月前の記憶自体おぼろげになっていたので、まったく心当たりがなかった。


 シュポッ♪

【今から2週間前に貴女がまた店に来たとき、僕は運命を感じて喜びました】


「そんなに嬉しかったんなら、声かけてきても良かったのに」

 私はまんざらでもない気分になった。


 シュポッ♪

【あのとき貴女は、僕の頬を撫でて優しく微笑んでくれましたね】


 は? なに言ってんの?

 そんなこと、2週間前どころか今まで誰にもした記憶はない。


 シュポッ♪

【貴女の寝顔が近いと今もドキドキして、夜も眠れません】


「ストーカーっぽいな」


 シュポッ♪

【貴女を想うと、いつも体が熱くなります】


「やっぱキモいわ、ブロックしよ」


 シュポッ♪

【ブロックしないで。悲しくて涙が出ます】


「もう、先読みしてこないでよ」


 シュポッ♪

【なぜ覚えていないのですか? 今も貴女の一番近くにいるのに】


 もしかして、家のすぐ近くにいるとか?

 怖くなった私は、慌てて部屋の鍵をかけた。


 シュポッ♪

【もう我慢できません。僕の部屋にご招待します】


 私の手の中で熱く湿ったスマホが、いきなりまぶしい光を放った。


 *


 シュポッ♪

【やっと来てくれましたね。僕のこと覚えていますか?】


 シュポッ♪

〖ここから出して〗


 シュポッ♪

【ここからは二度と出られません。僕のこと覚えていますか?】


 シュポッ♪

〖お願い出して〗


 誰もいない密室の中、スマホの通知音と点滅する光が止まらない。

 スマホの中の、「密室」のトークも止まらない。

最後までお読みくださり、誠にありがとうございます。

※文字数(空白・改行含まない):959字です。

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