坂浜恵美①
「佐井君と花火見られなかったね」
向かいに座る涼子がポテトをつまみながら言った。
結局お祭では、私たちと同じように考えていた女子たちが集まってしまい、涼子のアシストもむなしく、佐井君と二人で花火を見ることはできなかった。
花火が終わったらすぐにお祭り会場を後にして、涼子と二人で清瀬駅近くのガストで反省会をしていた。
「しょうがないよね。あーあ、もう私の夏休みはもう終わりだなぁ」
私はうなだれて言う。
「そんなことはないでしょ。まだ二週間はあるよ」
「そうなんだけどさ。佐井君との夏休みはもうないよ」
「まあね」
二人そろってドリンクバーでジュースを注ぐ。
私はオレンジジュース、涼子はファンタグレープ。
「佐井君だったら何飲むんだろう?」
テーブルに戻りつつ涼子に聞いた。
「うーん。ブラックコーヒーかな?」
「え、なんで?」
「よく教室で飲んでるよ。缶コーヒーだけど」
「そうなんだ。なんか大人だね」
「そうだね。美味しくないよね」
私が唯一飲めるのはマックスコーヒー。それくらい甘くしないと飲めない。
その後は、佐井君の話もそこそこに、夏休みの宿題をやったかとか、最近何読んだとか、とにかくっちゃべっていた。
「もうそろそろ電車も空いてきたかな?」
「そうかもね。帰るか」
伝票を確認してテーブルで割り勘する。
安い。ガストは学生の見方だ。
私がお金を集めてレジへ。涼子は先に外で待つこととに。
涼子の席がちょうど冷房の当たるところだったので、体がだいぶ冷えていたらしい。外で体を温めている。
でもどうせまた暑くなって汗が止まらなくなるのだろう。夏はこれだからいやだ。
ガストを出ると涼子が興奮していた
「ねえ! さっきそこを佐井君が歩いてた!」
涼子はふれあいどーりを指しながら言った。
ガストは清瀬駅前から伸びる商店街のふれあいどーりから二軒くらい奥まったところにある。
「え? なんで?」
「わかんないけど、いいから行くよ」
涼子は私の手を引いて、ふれあいどーりを進む。
お店はどこも閉まっている。街灯もそんなに明るくない。
酔っぱらった大学生くらいのお兄さんたちがたむろしていた。
そんな商店街を一人歩く、甚平の後ろ姿が見えた。
「おーい」
涼子はは小走りで向かい、甚平姿の彼の腕を取った。
急に手を取られ驚いたのか身を引きながらこちらを振り返った彼は、予想通り佐井君だった。
「ねえ、これから花火しない?」
佐井君は声をかけられたのが私たちだとわかったのに安心したのか、ほっと胸を撫でおろしているようだったけれど、涼子の突拍子もない提案に戸惑っているようだった。
「これから?」
「そう、これから」
「え、でも大丈夫?」
「今日くらいいいでしょ? それにもし遅くなったら恵美は私の家に泊まればいいし」
花火はどこから出てきた話だ?
それに涼子の家に泊るなんて話もしていない。
でもまあどちらも悪くはない提案だ。
「そうか、隣駅だもんね。坂浜さんもそれで大丈夫?」」
「うん」
「それじゃあわかった。いい公園がある」
そう言うと佐井君はふれあいどーりを進んだ。
涼子の手際の良さには驚きだ。もし本当に好きな人ができたら必ず落とすんじゃないかと思うくらいだ。
もしかしたら小川さんより恋愛上手かもしれない。
あっけにとられていた私に「ほら行くよ」と言って涼子はまた手を引いた。