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エピローグ~南麗奈~

 私は幸助さんを忘れるために、幸助さんから距離を取っていた。


 幸助さん以外の男の人を好きになろうと努力をしていた。


 時が経つにつれて、気持ちは薄らいでいき、だんだんと同級生や、同じ学校の先輩なんかに気持ちが向くようになっていった。


 もちろん花蓮の協力もあった。


 そして私は幸助さんとは別にあこがれの人ができて、その人が好きな人になって、その人が私を見てくれるように頑張ってアプローチした。


 一生懸命アピールして、一生懸命尽くして。


 そのかいあって、私は彼と付き合うことができた。


 私はあこがれの人の心を射抜いた


 そうやって手にした幸せだから、ずっとこれでいいと思っていた。


 でもそれは結局偽りだった。


 それに気が付いたのは突然のことだった。



「あれ? 麗奈ちゃん? 久しぶりだね」



 夏休みのある日、お買い物で来ていた立川駅。


 不意に聞こえた懐かしい声に私は振り返った。



「あ、こ、幸助さん?」



 私はあの夏休みに佐井さんから、佐井君に呼び方が変わり、その後幸助さんと呼ばせてもらうようになった。



「元気にしてた?」


「え、ええ。幸助さんは元気でしたか?」


「うん。元気だよ。今日は買い物?」


「はい。幸助さんもですか?」


「うん。そうだ、よかったら俺の買い物に付き合ってよ」


「え、あ、は、はい」



 私は流れに抗えず、幸助さんと買い物をすることになった。



「よかった。両親の結婚記念日に何か買いたいと思っててさ。去年は磁器を買ったんだけど。センスに自信ないから麗奈ちゃんの意見が聞けると心強いな」


「そ、そうなんですね」



 幸助さんのペースは健在だった。


 二人でパルコを見て回る。


 途中で私の買い物にも付き合ってくれた。


 素直に楽しいと思った。


 彼との買い物は明らかにつまらなそうな態度を取られるので、リラックスすることができないものだけれど、幸助さんはちゃんと私が選んでいるところを見てくれているし、たまに「かわいいね」とか言ってくれた。


 今思えばこの時点でもう私は彼と幸助さんを比べてしまっていた。



「今日はありがとうね」


「いいえ。楽しかったです」



 私たちはエクセルシオールカフェで向かい合っていた。


 私はカプチーノ。幸助さんはブラックコーヒー。



「どう? 高校生活は?」

 一息つくと幸助さんが聞いてきた。


「楽しいですよ。来年は今年みたいに遊んでいられないですけどね」


「麗奈ちゃんも来年度は大学受験か」


「ええ。幸助さんは大学生活どうですか?」


「楽しいよ。もう慣れたしね」



 幸助さんはお兄ちゃんと違って第一希望の大学に合格していたと聞いていた。


 大学生活を楽しんでいるようだ。



「彼女とかできたんですか?」



 私は思い切って聞いてみた。



「彼女? できてないよ」

 肩をすくめる幸助さん。


「そ、そうなんですね」



 幸助さんには彼女がいないのか……。



「麗奈ちゃんは? 彼氏できたんじゃない?」


「え、わ、私ですか? 彼氏は……いませんよ……」



 嘘をついた。


 いけないとは思いつつ、私は嘘をついた。


 これから幸助さんと何かあるわけではない。


 でも、私に彼氏がいることを知られたくないと思った。



「そうなんだ。意外だな」



 意外ってどういう意味だろう……。


 だめだ。今は全然考えられない。


 結局それから心ここにあらずの状態で、どんな話したのか全然覚えていないけれど、一時間くらいたったくらいでお店を出ることになった。


 方向が同じなので、一緒の電車で帰る。



「それじゃあ、今日はありがとうね」


「はい。こちらこそ、ありがとうございました」



 別れの挨拶をして幸助さんは新秋津駅のホームに立った。



「あ、あの。また会ってくれますか?」

 私はドアが閉まる前に言った。


「うん。いいよ。また会おう」

 幸助さんがにこっと笑って言った。



 それと同時にドアが閉まった。


 手を振る幸助さんが離れていった。


 私の心は幸助さんにまた向いてしまった。

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