古敷谷史夏⑤
「そんなことがあったんだね」
佐井君は言葉に詰まる私の話を口を挟まずに聞いてくれた。
「うん。だから佐井君、私ともう会わないで」
「いや、それはできない」
私の言葉に佐井君は力強く言う。
「なんでよ」
「なんでも」
佐井君は怒っているように見えた。
「今日は来てくれてありがとう」
お礼を言い忘れていたので伝える。
それで帰ってもらおうと思った。
もう二度と会わない。
「お祭のときいつもの二人はいたのに古敷谷さんはいなかったからさ、心配だったんだ」
二度と会わないと決めたのに優しいことを言ってくれる。
嬉しくて枯れたはずの涙が再び出てくる。
「佐井君……」
好き、という言葉が言えなかった。
「よし……それじゃあいったん帰る。でもまた今日中に戻ってくる」
佐井君が何か決意したような眼をして言う。
「え?」
何が何だかわからない。
「とにかく待ってて」
そう言うと佐井君は部屋を出て帰っていった。
よくわからないけれど、大丈夫な気がした。
□◇■◆
数時間たった夕方ごろ。再びチャイムの音がした。
窓から覗いて門を確認すると佐井君がいた。
でも一人じゃなかった。
急いで支度をして玄関に向かう。
「待たせたね」
佐井君が手をあげてニコッと笑う。
私は何も言わずに頷く。
佐井君の隣には不機嫌そうに黙って腕を組んでいるマイちゃんがいた。
「とりあえず、近くの公園にこう」
佐井君に言われるままついて行く。
その間誰も何も話さない。
公園に着くと佐井君が言った。
「古敷谷さんに謝れ」
「何でよ! 馴れ馴れしくしてるのが悪いんじゃない!」
「馴れ馴れしくしたのは俺だ。だったら俺をハブにしたらいいだろう」
佐井君は私の話を聞いてからすぐにマイちゃんを呼びつけてこの問題を解決しようとしてくれている。
二人は言い争っているようで、申し訳ない気持ちになった。
「すぐに泣くのね」
「ごめんなさい」
マイちゃんの言葉に謝ることしかできない。
「謝ることなんてないよ」
佐井君は優しく言ってくれる。
「なんでこんな子かばうの?」
「俺が好きだからだ!」
それは突然だった。
空気が変わった。
時間が止まった。




