古敷谷史夏④
夏休みに入ると絵梨ちゃんと知佳ちゃんと一緒に清瀬や二人の住む街をたくさん紹介してもらった。
ボウリング場で遊んだり、デパートでアイスを食べたりして楽しんだ。
そして時々佐井君に勉強を教えてもらっていた。
佐井君が心配した通り、私の習っていない範囲が宿題に出されていて、自分一人ではどうすることもできなかった。
佐井君にそれを相談すると、教えてくれることになり、佐井家へおじゃますることになった。
男子を私の部屋に入れるのは、私としては佐井君なら抵抗はないのだけれど、家族がどう思うかと考えてしまい、遠慮してもらった。
それに佐井君にはお姉さんがいるので、ある意味安心できる。
佐井君の部屋で勉強を教えてもらいながら、他愛もない話をしている。
ううん。正直に言うと、他愛もない話がしたくて勉強を教えてもらっている。
最近佐井君はサザンを聞いているらしく、佐井君の部屋にはいつも桑田佳祐の歌声が流れていた。
そのせいもあって私もサザンを聴くようになった。
「あのね、絵梨ちゃんと知佳ちゃんと来週末の清瀬のお祭りに行くんだ。二日目に行って花火を見る予定」
「そうなんだ。そのお祭り、俺もいるからよかったら来てよ」
「え、そうなの? 行く行く!」
八月の第三週の土日は清瀬でお祭りがある。そして二日目の日曜日は花火が上がる。
佐井君と二人で見れたらなと思っていた。
だけど、絵梨ちゃんと知佳ちゃんが私を誘ってくれて無下にできずに了承してしまった。
でも佐井君はお祭りに用があると聞いて、なんか胸のつっかえが取れたような気がした。
絵梨ちゃんと知佳ちゃんの誘いを断って、佐井君をお祭りに誘ったとしても望んだ結果にならなかっただろう。
結果オーライ。
当日は三人で楽しむことにしよう。
□◇■◆
清瀬のお祭から一週間がたった日曜日。
部屋のベッドでうずくまっていた。
ピンポーン
インターホンが鳴った。
玄関で母が訪問者の対応している。
「史夏? 佐井君来たわよ!」
え、佐井君?
母には佐井君の事を話している。勉強を教えてもらっていることを言ってある。
でもなんで来たのだろう。宿題のほとんどは終えたはずなのに。
会いたくない。
今は佐井君に会いたくない。
トントン
ノックをする音がした。
「はい」
小さい声で返事をする。
「佐井です。近くを寄ったから来たんだけど」
そんなの嘘だ。
近くに住んでいるんだから近くに寄るなんてことはない。
会いたくない。でも会いたい。
ドアを開けると、佐井君が立っていた。
私は佐井君を前にしたら感情があふれてしまった。
「ど、どうしたの? 何で泣いているの?」
戸惑う佐井君。
「だって……だって……」
私はしばらく泣いていた。
そんな私を隣に座ってただ黙って佐井君は付き合ってくれた。
どれくらい泣いただろうか。泣き疲れて、涙も枯れ果て、落ち着いてから、この間の出来事を話した。
□◇■◆
花火の日を三日前にした木曜日。その日も三人で会う約束をしていた。
場所は東村山の知佳ちゃんの家。
もう何度かおじゃまさせてもらっているので、いつものように挨拶をして部屋に上がる。
いつものように先に絵梨ちゃんが来ていた。
でもなんか空気がいつもと違った。
切り出したのは絵梨ちゃんだった。
「ねえ、私たち史夏ちゃんとお祭行けない」
「え?」
何を言い出すのだろう。
どういうことだろう。
意味が分からない。
「ごめんね、そういうことなの」
知佳ちゃんも続ける。
「どうして? どうして一緒に行けないの?」
私の問いかけに伏し目がちになる二人。
少しの沈黙の後、絵梨ちゃんが言った。
「佐井君と会ってるんでしょ?」
「え?」
「マイちゃんが佐井君と会ってる史夏ちゃんと遊ぶなって。そうしたら私たち何されるかわからないから」
「なんでよ」
「そういうことだから。ごめんね、史夏ちゃん」
二人とも自分を守るために私を裏切ったのだ。
もうここに居場所はない。
荷物をまとめると私は知佳ちゃんの家を出た。
最初は怒りもあったけれど、自分の部屋に戻ると悲しくなって涙があふれてきた。
たぶん二人は二人でお祭りに行くのだろう。
私は佐井君に会いたかったけれど、行くことはできない。
もういい。
私の夏休みは終わった。
ううん。私の学校生活が終わった。




