表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

のこされし子供達

のこされし子供達 鎌田有紗の嫉妬

作者: リィズ・ブランディシュカ



 私の名前は、鎌田有紗。


 私には好きな人がいる。


 でも、その人には好きな人がいるから、私は諦めなくてはいけない。


 彼の事を応援してあげなければいけない。


 彼にとって、ただの私は良い友人というもの。

 それ以上は望めないから。


 だから、ずっといい友人でいないと。


 下手に仲を進展させようと失敗して、嫌われたくないもの。


「鎌田にはいつも助けられてばかりだな」


「本当に、鎌田には頭が上がらないよ」


「ありがとう鎌田。また、頼らせてもらうからな」


 彼にお礼を言ってくれるのが嬉しい。


 友人としてでも頼ってくれるのが嬉しい。


 だから、その時まで私はその関係のままで満足していたのだ。






 その日も私は、彼に声をかける。


「最近元気ないですね」


 部室に入って来た彼に、一番に話しかけるのが私の楽しみ。


 放課後の贅沢な時間だった。


 けれど、私はその時間を失ってしまう。


「実はな、最近妹に避けられてる気がするんだよ、お兄ちゃんうざいのかな」

「ご愁傷さまです。でも、当然ですよ。妹さんはもう年頃の女の子ですもんね」


 しょんぼりする彼の頭をなでて慰める。


 私はそのささいな行為にとても満足していたけれど、なぜか嫌な予感がしていた。


「ちょっと、気にしすぎですよ。どうして毎日毎日、そんなに妹さんの事を気にかけるんですか」

「どうしてだろうな。でも、あいつそそっかしくて、脇が甘いところがあるから、守ってやりたくなるんだよ」


 つぶやく彼の表情はとても優しくて、幸せそうで。


 私は直感したのだ。


 彼が愛している人は、妹なのだと。


 そう思った。


 そんなの許せない。


 妹なら、頑張らなくても、ずっとそばにいられるのに。


 家族としての立ち位置がもうすでにあるのに。


 なんて贅沢なんだろう。


 それ以上を望んで、彼を誘惑するなんて。


 きっと、卑怯な手を使っているに違いない。


 そう思ったら、負の感情が止められなくなった。


「実はですね」


 気が付いたら私は、ありもしない事を彼に吹き込んでいた。








「妹さんは実はお兄さんの事が大嫌いなんですよ」


「妹さんは裏ではこんな事を考えていたんですよ」


「妹さんは本当は」


「妹さんは」


 日に日に彼の瞳が濁っていくのを感じる。


 家族に裏切られる辛さは、ほかならぬ私がよく知っているのに。


 私は昔、両親から虐げられていた。


 良い学校に通うために、机に鎖につながれて毎日が毎日、勉強漬けだった。


 でも、それを救ってくれたのは彼で、そんな彼にこんな悪口を吹き込むのが申し訳なくなってくる。


 なのに、止められない。


 彼の心が妹から離れていくのを、嬉しく感じてしまう。


 あと少し、


 もう少し。


 せめて、お互いに口も利かなくなるくらいは。


 そう思って、続けてしまった。


 けれど、やりすぎてしまったようだ。






『本日のニュースです。○○県、○○町の自宅で、殺人事件が起きました。犠牲者は』


 私はその結果を、人伝手に知る事になる。


 とりかえしは、もうつかない。



 

 


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ