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魔法少女オーバーキル  作者: 瀬戸内弁慶
Act3:王と職人と魔法少女とあとついでにJK
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第12話

 体の何もかもを包む違和感が、浅くなっていた眠りから意識を急浮上させた。

 柔らかい感触。面積的には自室よりも狭いが、深い奥行きと行き届いたレイアウト。フェエミニンな香り、蒸気。

 薄く目を開ければ、UFOキャッチャーで獲得したゲームやアニメのフィギュアの飾られた自分の部屋にはついぞ縁のない、きちんとした作りのテディベア。


 そして上半身の、心許なさ。肌寒さ。

「うわっ、裸!?」

 自身が素っ裸だという強烈な羞恥が、彼女を完全に覚醒させた。


「うわっどこここ!?」

 いわゆる『女の子女の子』とした内装に驚いた。


「あ、気がついた」

「ぎゃあっ、陽キャ!?」

「……助けてあげたのにその反応」


 自身のものらしき勉強机の背もたれに肘をかけながら、その少女……千明の苦手とする対岸鹿乃は、わずかに呆れたようだった。

 目覚めた直後だったから、つい包み隠さず表情と言葉が出てしまった。


「ご、ごめん…………助けた?」

「そう。あなた道端で倒れてたから」

「そ、それはどうも」


 ありがとう、と続こうとした礼の言葉を、グルグルと巡る思考が阻害する。

 ひょっとしてあの戦いを見られただろうか。というかそもそも倒れた道端というのは地下の水道管もメタメタに焼き切れた惨状ではなかったか。


 ――自分の正体は、彼女にとうにバレているのではないか。


 窓越しに、消防車のサイレンの音が鳴り響く。


「い……」

 へばりつく舌を懸命に動かして表情筋をフルスロットルにして笑いを浮かべ、汗を浮かべ、身振り手振り千明は答えた。


「ホントにビックリしちゃいましたよ! 道歩いてたらなんかもう突然水道管がバカーンと! そんでもってガス管もズドーンってな感じで! だからまぁ僕が何かしたってわけでもなくてですねっ」


 などと続く言い訳を展開し、勢いで押し切ろうとする。

 だが、懸命の努力も、ふんふんと適当に相槌を打つ陽キャの前には、柳に風の体でかんばしい手応えもなく流れていく。


「……あの?」

「ん? 続きどうぞ」

「……続けるのはヤブサカじゃありませんが、何を考えてらっしゃるのでしょうか……」

「いや、ここまで見苦しく言い訳をする人間って初めて見たから。それとも魔法少女ってそんなもん?」


 さらりと、言ってのけた。

 赤石千秋が、魔法少女オーバーキルだという前提の上で。


 血と空気が凍る。

 固まる彼女をよそに、クラスメイトは机に向かい直って興味もなさそうにネットサーフィンをしていた。


「……いったいいつから」

 気づいていたのか。見ていたのか。


「最初に助けてくれた時は時なんとなく面影あるなー、程度。で、貴方があの変な鎧に襲われた挙句猫耳フードマンと痴話喧嘩してボロ負けして変身解けたのは遠目で見てた」


 つまり、あの一戦に関しては一部始終ということだ。

 痴話喧嘩、と評されて千明は戸惑ったが、たしかに時間が経った今に顧みれば、自分が醜態をさらしたという羞恥と後悔が押し寄せてきた。


 今思い返してみれば、自分はひたすらに空気が読めてなくてワガママで、こんなにも迂闊だ。


 ネロが愛想を尽かすのも、納得できてしまうほどの。


 であれば何故彼女は、対岸鹿乃は、危険は去ったとはいえあの場からわざわざ自分をここまで運んできてくれたのか。

 クラスメイトなのは表の顔で、実は刺客だという可能性も拭いきれない。


「……どうやって運んだの?」

 引き締まっているが年相応の細腕を、千明は探るように見ながら言った。


「通りすがりの外国人に手伝ってもらって」

 さらりと答えてから、怪訝そうに鹿乃は目をすがめた。

「……あたしがあなたの敵だったら、今までいくらでも殺す機会あったんじゃないの? それこそつい数分前まで」


 素人目にもわかるほど、表情に出ていたらしい。

 かつそんな彼女に理路整然と説得されると、まがりなりにも戦士としてここまで生き抜いてきた自分の立つ瀬がなくなってしまった。

 どちらにせよこれほどおマヌケな話もなく、もし自分が魔法少女でじゃなくパーマンだったら、一発で動物にされていたところだ。


「……ごめんなさい。それと改めてありがとう」

 多少の居心地の悪さを覚えながら、素直に千明は頭を下げた。

 下げて、下げて、下げに下げて、ベッドに沈め、シーツの上に膝を屈して両手をついて背を丸める。

 ジャパニーズドゲザスタイル、完成である。


「ですけども……どうか、どうかこのことはご他言無用にぃぃぃ……」


 おぉぉぉぉぉ、と異音が鳴るほどに喉を絞って懇願する千明に対して、鹿乃はうーん、と間延びした声を発した。

 返答がないので恐る恐る顔を上げて様子を窺うと、彼女は口元にスマホを近づけて、何やら思案顔で千明を見返していた。目が合った。


「元からこんなバカみたいな話誰も信じないし話したくもないけど」


 でも、と少女の手が伸びて、千明の腕を掴んだ。

 いわくありげにその肌を撫で摩る鹿乃は、そこでニッコリと相好を崩した。初めて表情らしい表情を……楽しさと意地の悪さを表出させた。


「ヒミツは守るから、ちょっと改造させてくれない?」


 そして、千明にとって未知の器具を数々持ち出して、そう脅しをかけてきた。

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