皇太子殿下対策と…そして、新しい恋へ。
翌日、王立学園へ登校してみれば、アーリアが皇太子殿下に婚約破棄された噂で持ち切りだった。
フローリアがアーリアを慰めてくれる。
「気にする事無いわ。貴方は悪くないんですもの。全て皇太子殿下の、皇室の思惑のせい。
堂々としていればいいわ。」
しかし、食堂へいつもの如く行ってみれば、いつも一緒に昼食を取っていたレオナード皇太子殿下は、ミレーヌ・シュテンブルク公爵令嬢と共に食堂で食事をとっていた。
美しいミレーヌ・シュテンブルク公爵令嬢、レオナード皇太子は楽し気に微笑みながら、
話をしていて。
その場にいる事も出来ず、アーリアは食堂を後にした。
あそこにはわたくしが…わたくしが居たはずなのに…
どうして???あああ…いくら何でも酷い。
フローリアが他の令嬢達と共に傍に来てくれて。
「こちらでご一緒に食べましょう。アーリア様。」
他の令嬢達も。
「今日はお天気がよろしいですから、庭のテラスで食べれば気が晴れますわ。」
皆、とても優しくて…。アーリアは嬉しくて涙がこぼれる。
しかし、放課後の事だった。
「アーリア様。いらっしゃるかしら。」
教室に現れたのは、取り巻き達と共に、ミレーヌ・シュテンブルク公爵令嬢だった。
「アーリアはわたくしよ。」
「ちょっと…」
凄い目で睨みつけられる。
「あの…」
その後は扇を手に小声で顔を近づけて。
「馬鹿皇太子殿下どうにかして下さらない?」
「え???馬鹿ですか?」
「そうよ。馬鹿は言いすぎでしょうけれども、わたくし…。婚約者がいる身ですのよ。
忙しい方で共に夜会には出席できませんけれども、辺境伯令息と婚約しておりますの。」
「そうなのですか。」
「それが、貴方と婚約破棄したと思ったら接近してきて、とんだ迷惑ですわ。
わたくし、皇妃になりたいとは思っていませんし、あの逞しき愛しい婚約者を見捨てるはずないじゃないですか。わたくし筋肉隆々な方が好みなのです。それはもう、わたくしの婚約者ハルディナス様はそれはもう、素晴らしい筋肉隆々の方で、大柄で逞しく…もう、わたくし・・メロメロフラフラですのよ。」
アーリアはあまりにも可笑しくて笑ってしまった。
「面白い方ですのね。ミレーヌ様。」
「そうかしら。わたくし、父は騎士団長、兄は近衛騎士、弟も将来、騎士になる事を目指している剣術一筋の一族ですの。辺境伯なら、わたくし、このわずらわしい皇都に居る事もなく、自由に剣を振るって過ごせますわ。それもあって…。だから、頼みましたわ。
あの馬鹿皇太子殿下…近づけないで下さいませ。」
「それは出来ません。」
「何故ですの?」
「わたくしは、あの方に意見を出来る立場ではないからです。婚約破棄された身ですから。」
その時、フローリアが現れて。
「どうなさいましたの?」
「フローリア様、こちら、ミレーヌ・シュテンブルク様。婚約者がいらっしゃるから、皇太子殿下をどうにかしてくれって言いに来てくださったのですわ。」
「同志よっ。ですわね。わたくし、先程、明日の昼食はご一緒にと誘われましたの。皇太子殿下に…。断る事は皇室に逆らうと言われて、断れなくて。今日、時間取れません?アーリア様の家で対策を考えましょう。ミレーヌ様。自己紹介が遅れましたわ、わたくし、フローリア・カルミア公爵令嬢でございます。アーリア様の兄、スチュアート様の婚約者でもありますわ。」
「おおっ、同志よ。フローリア様。解りましたわ。今日、アーリア様の家に伺います。よろしくお願い致します。」
そして、3人の令嬢と、兄のスチュアート、何故か隣のクリス・ルイスチーノ伯爵令息も加わって5人は紅茶を飲みながら、対策を相談した。
フローリアが口を開く。
「皇太子殿下からお誘いがあったら、断る事は出来ませんわ。皇室の命令になる訳ですから。」
ミレーヌも頷いて。
「そうですわね。アーリア様には申し訳ないのですけれども、お相手をしない訳にも。」
兄のスチュアートが口を挟む。
「だが、もし、卒業パーティで、フローリアやミレーヌ嬢が結婚相手に選ばれたら?
それこそ皇室の命になって断れないだろう?それに皇帝になる人物は側妃の存在も認められている。正妃だけでなく、側妃としても望まれたら…アーリアを側妃として望んでくる可能性もある訳だ。我が家の勢力を削ぐ為なら。」
「それはあんまりだわ。」
アーリアは悲しくなる。共に隣に並び立つ為に、色々と頑張って来たのだ。
あの美しきレオナード皇太子の為に。それが側妃だなんて…側妃として、正妃の力になってくれだなんて言われたら、それこそ地獄である。
焼き菓子を食べていたクリスが皆に向かって。
「なぁ。結婚相手を発表するのは卒業パーティなんだよな。卒業式って何時に終わるんだっけ?」
フローリアが考え込むように、
「確か、午後の二時に終わって、その後、六時から卒業パーティよ。女性はドレスに着替えて色々と支度があるから配慮されているのですわ。」
「だったら…その四時間の間にさ。フローリア様とミレーヌ様はお相手と結婚しちまえばよくない?既婚者にはいかに皇族の命令と言えども、結婚強要出来ないよな。」
スチュワートが頷いて。
「それは素敵な。だが忙しいぞ。二人で教会の司祭にあって式を挙げ、婚姻証明書を貰って、
それぞれの両親のサインを添えてそれを出さないと。だが…やるしかない。」
フローリアもミレーヌも嬉しそうに。
「やりましょう。これでスチュワート様と結婚出来るわ。」
スチュワートに抱き着くフローリア。
ミレーヌも御機嫌よく、クリスに握手して。
「よくぞ言ってくれたわ。青年。わたくし、双方の両親とハルディナス様にお話してみます。
必ずあの馬鹿皇太子の毒牙から逃げきってみせるわ。」
皆が、アーリアの方を見る。
アーリアは困った。
わたくしはどうしたいの?
このまま、二人が相思相愛の人と結婚に成功すれば、アーリアがレオナード皇太子と結婚出来る可能性が高まる。
周りを見渡してみても、フローリアとミレーヌ以外に、ライバルになりそうな優秀な令嬢はいないからだ。
わたくしは、皇太子殿下と…レオナード様と婚姻したいのかしら。あれだけ手酷い裏切りを受けて。
「アーリア。どうか俺と結婚してくれませんか?」
クリスがいきなり跪いて、告白した。
アーリアは驚く。
「クリスっ????」
「身分違いは分かっている。だけど、俺はずっとアーリアの事が好きだった。
皇太子殿下の婚約者だって小さい時から知っていても…。手の届かない決して実らない恋だって解っていても。それでもずっと好きだった。だから、俺、いまだに婚約者もいないし…。友達でいいから、アーリアと話がしていたかったんだ。
公爵領と比べて伯爵領は小さいし、華やかな暮らしはさせてやれないかもしれない。
でも、俺。頑張るから。愛している。アーリア…」
「わ、わたくしは…貴方をそのような対象として見た事はないけれども。」
「まだ卒業パーティまで半年ある。それまでに俺も候補に考えてくれないか?」
スチュアートが、アーリアに向かって。
「確かに身分違いかもしれないが、クリスはいい奴だ。お前だって良く知っているだろう?俺からも両親に頼んでみるから、候補に考えてもいいんじゃないか?」
「そうね…確かにクリスは、わたくしが悩んでいる時は、相談にも乗ってくれたわ。
ええ、いいわ。貴方を候補の一人に考えてあげる。答えはもう少し待って下さらない?」
「有難う。アーリア。」
抱き締めてくれるクリスの温もりと、拍手をしてくれた二人の令嬢と兄のスチュワート。
そうね…クリスと結婚するのもいいかもしれないわ。
きっと、穏やかで幸せな日々が送れるに違いないから…