わたしの神様な『バケモノ』様
「……ぅ、………あ」
わたしは小さく呻く。 少しでも死から抗うように。
「お、ねぇ…ちゃ……」
抱きしめるお姉ちゃんの腕の中で、声を出す。 だけど、お姉ちゃんも私と同じ…いや、もっと酷い。
全身が焼かれていていながら、何とか息をしているだけ。 意識もない。
「うぅ………」
お姉ちゃんが抱きしめて守ってくれたから、まだわたしはマシ。 だけどお姉ちゃんと比べたら、と言うだけ。
わたしも全身が焼かれている。 体がボロボロで、熱いも寒いも分からない。 ひとつ解ることは、わたしもお姉ちゃんも…もうすぐ死んでしまう、ということ。
「おねぇ…ちゃ……」
抱きしめられて焼かれたせいで、体がくっついてしまっている。 だからお姉ちゃんの顔も見えないし、周りの様子もあまり良く見えない。 でも周りがどうなっているか知っている。 ここが死体置き場であることを。
そして、わたしたちの周りには死体だらけだということを。
魔法によって、いろんな方法で殺されていた。 体を切り刻まれた死体、貫かれて穴だらけになった死体、所々潰された死体とか。 10人以上の人達が、 わたしたちが焼かれる前に、目の前で殺されていった。 殺された理由は、貴族という人間たちの………娯楽のため。
わたしたちは奴隷として買われ、ここに連れてこられた。 殺されるために。
ここに連れてこられた時点で、わたしたちは殺されるしかない。 そして他の奴隷たちが殺され、最後のわたしたちは、炎の魔法に焼かれた。 ただ、酷く焼かれて動かなくなって、死んだものと思われたんだろう。 偶然生きたまま、死体置き場に捨てられた。 だけども、わたしたちももうすぐに死ぬ。
…それでも。
「い……き、て…」
わたしは願う。 お姉ちゃんが生きることを。
わたしは、お姉ちゃんと同じ村で生まれながら、1人だけ髪の色が違うだけで嫌われて、村の人達だけでなく両親からも酷い目に遭わされた。
仲間意識が強い、なんて言われる獣人の村でありながら。
わたしは犬人種の両親と、その村で生まれた。 だけど、お姉ちゃん以外の皆に嫌われていた。
なんでも私の毛の色は、不幸を引き寄せる忌み嫌われる色とされている。 そのせいで両親を含む村の皆から、たくさんの悪口を浴びせられたり、時には殴ったり蹴られたり、尻尾を踏みつけられたりもした。 ご飯も良くて余りもので、何日もまともにご飯をもらえない時すらあった。
でも、お姉ちゃんは違った。 お姉ちゃんだけは優しくしてくれた。
悪口を言われた時は、優しく抱きしめてくれた。 暴力を振るわれたら、傷薬を使ってくれた。 夜中にこっそりとご飯も持ってきてくれた。 お姉ちゃんのおかげで、生きてこれた。
そんなお姉ちゃんだけは、助かってほしい。 生きてほしい。
だけど、現実はいつだってわたしを叩きのめす。
『グゥ…アァ…!』
「っ…」
人間じゃない声が聞こえて、息を飲む。 かろうじて視線を向けると、そこに食屍鬼が3体近づいていた。 知性が低く、人間の姿に似た魔物。 骨をも噛み砕く歯と、肉を切るための鋭い爪を持ている。 死体を主に食べるとされるけど、そこに肉があれば生きていようと死んでいようと、なんでも食べる悪食だ。 死体を処分するために、貴族の人間が飼っているらしい。
絶対に助からない。 解っていたはずなのに食屍鬼を目にして、そのことを叩きつけられてしまい、思わず目を瞑る。
「……かみ、さま」
無駄だと解ってもいても、わたしは、神様に願う。
「どう、か……おねぇ、ちゃん…だけでも……」
それでも死が、わたしたちに、近づく。
「たすけ、て……」
食屍鬼の1体が、わたしたちに手を伸ばす。
「くだ、さいぃ…っ」
そして、
≪ドカァッ!!≫
『グァア!?』
「ぇ…?」
突然鈍い音がして目を開けると、食屍鬼が視界からいなくなっていた。 代わりに『それ』が背中を向けて立っていた。
黒い髪に、茶色の服装、服の上に鉄で出来た胸当てを着けていて、そして腰に1本剣を下げている。 少なくとも貴族の人間や、その召使いではない。 むしろ村人に近い格好だ。
「かみ…さま……?」
それでも、こんなわたしたちを助けてくれる存在なんて、神様以外に思いつかなかったから、思わずそう呟く。
『グアァァ…!』
死体を食べる食屍鬼だが、敵が近くにいれば鋭い爪で攻撃して来る。 残りの2体の食屍鬼が、『それ』に襲い掛かる。 だけど、≪ドドガァッ!≫とまた音がすると、食屍鬼達が殴り飛ばされた。 状況が呑み込めないわたしに、『それ』は振り向き声を出す。
「悪いけど、俺は神様なんかじゃない」
『それ』はわたしたちに近づきながら、答える。
「俺は転生者で、『バケモノ』だ」
『それ』は…『バケモノ』は、わたしに手を伸ばす。
「だから、俺が君の願いを叶えることはない」
『バケモノ』は、わたしの頭に手を置く。
「俺がするのは、俺のための、『自己満足』だ」
そしてゆっくりと頭を撫でながら、安心させるような優しい声でわたしに告げる。
「君のお姉さんだけじゃなくて、君も助ける」
初めまして。 作者の白犬竜喜です。 初めて自分で小説を書き、『小説家になろう』に投稿を始めたので、色々とアンポンタンなミスをするかもしれませんが、生暖かい目で見て下されば幸いです。
初めての投稿が、なかなかブラックな感じで始まりましたが、よくある異世界転生ものになる考えです。
題名と同じように、自分も『自己満足』のまま話を書いていくつもりですので、それで良ければお付き合い頂けると嬉しいです^^。