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 殴られ痛めつけられ、誰にも助けて貰えないのに助けを求める。誰か誰か…助けて!

 記憶が混濁して現在と過去がドロドロに溶け合う。おかあさん、打たないで。ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい。良い子になるから、やめて!


 アアアアアアアアアア。


◆◆◆◆


 1度目の人生。


 産まれた時には前世の記憶があった。

 そして、産まれたばかりの私を見る母の目は憎しみに溢れていて抱かれることも無く私は遠ざけられてしまった。

 その日の夜、母が亡くなった。そのショックで私は前世の記憶を忘れてしまった。


 物心つくと、父は異母妹だけを可愛がっていた。兄には過度の領地教育を、私には厳しい淑女教育。話かけられる事もなく、食事すら一緒にしてもらえなかった。

 元々、誰に対しても萎縮していた私は常におどおどとして人を苛つかせる様だった。

 家庭教師は私には威圧的で、いつも些細な事で怒鳴られた。こんな環境で勉強も淑女教育も頭に入る訳もなく、何事も満足に出来ない自分を自分で責めていた。

 兄は、一昨日は冷たく突き放し、昨日は優しく、今日は殴られ、浮き沈みが激しく前世の母を思い出し近寄るのをやめた。

 義母は兄も私も無視していた。


 誰にも愛されず卑屈な私は、お茶会でアルバート殿下に縋った。こんな私を気に入ってくれた、この人なら愛してくれるかも知れないと、侯爵家の冷たい檻から出してくれる一筋の光だと思った。


「ローズマリー、貴方マナーひとつまともに出来ないの?」


 しかし、私を待っていたのは、自由が奪われ、分刻みのスケジュールと体罰だった。家庭教師は見えない場所に鞭を打ち。王妃は私を精神的にいたぶり追い詰め。ユーレン第1王子は遊学しており城にはおらず、陛下は汚らわしい物を見るように私を見ていた。


 アルバート殿下は見えるものしか信じない人で、日に日に萎れる花の様な私をアルバート殿下はただ見ていた。

 体罰を知ってもらうにも殿下の前で服を脱ぐ勇気すらない。告げ口して、もっと酷い目に遭わせられるのは目に見えていた。

 ある日、私は頭を殴られ椅子の角に体を打ち昏倒し忘れていた前世を思い出した。あんな役にも立たない辛い記憶思い出したくもなかった。


 体罰を受けると過呼吸の発作を起こす迄になる。心も体も蝕まれて5年。

 アルバート殿下はすっかり私に興味を無くしていた。おどおどとして王妃教育も満足に出来ない出来損ないの婚約者、それがアルバート殿下の中の私。

 私のデビュタントで久々に父や義母と異母妹が王宮に来た。彼等は幸せそうに笑っていて、兄は領地に引きこもっていた。

 カテリーナ王妃とアルバート殿下は、あの日朗らかで天真爛漫なリリアナを見て。


『ローズマリーではなくリリアナであれば良かったのに』と思ったそうだ。勝手な話だ。

 そして異母妹は物語に出てくる王子様が大好きだ。きらきらと熱の籠もった目で異母妹はアルバート殿下を見ている。


 その様子を見て嫌な予感がしたのを覚えている。


 1週間後、私は突然幽閉された。理由は良くわからない、いきなり兵士が部屋にやってきて私を王宮にある南の塔に押し込め外から鍵を掛けていったのだ。


 初めての静寂。


 1日1回の食事は通し穴から押し込められた。そこはジメジメとして石の床に置かれた毛布はカビ臭く、石壁の隙間からは虫がカサコソと這い出ては走り回る。

 灯りも無いから日没と共に部屋は真っ黒に塗り潰され、恐怖と混乱の中、カビ臭い毛布1枚を頭から被り身体に体育座りをして夜震えていた。横になると虫が耳や鼻の穴から入り込む気がした。


 空腹と暗闇と混乱と孤独と。


 そして絶望。



 その部屋に監禁された3日後、食事に混ぜられた毒が私の喉を焼き、気管支を爛れさせ、血は腐り、のたうち回る苦しみの中で初めて思った。


 私を苦しめた全てを呪ってやる、絶対に許さない。私の中にいた混じった少しの黒の魂がぶるりと震え私の世界は暗転した。

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