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イエス・キリストが味わった苦しみ

作者: 鈴木美脳
掲載日:2020/11/06

 一見平和に見える世界で、私達は戦争をしていた。

 学校を辞めて暗い部屋に閉じこもって、滅びゆく世界を救わんとしていた。


 世の中にある漫画や小説、創作物は、一言で言えばバトル物だ。

 最も明白な場合には、暴力による戦いが描かれて、強い人や弱い人が描かれる。

 そうでなくても、優秀な人や力ある人が描かれ、その価値の高揚に焦点が向けられる。

 人生はサバイバルだから、皆、強い存在に憧れている。

 創作物には、強くなるために努力する精神的ノウハウが詰まっている。

 しかし、真に価値ある真に優秀な人とは、どんな人だろうか?


 哲学的に自分の頭で考えたならば、常識的な価値観は相対化される。

 受け売りではない価値観を持てば、ほとんどの人の価値観は受け売りだと分かる。

 私達は、どんな因果関係の構造を持った社会に生まれ落ちたのだろう?

 そう考えれば、世を覆う欺瞞のいくつかに気づかされる。

 国家権力が人々に強いた欺瞞、富裕層が人々に強いた欺瞞、人々自身の私利私欲や愚かさの内から湧き出す欺瞞。

 そして多く本を読めば、歴史を知ることになる。


 物質的利己主義。世を覆うそれが軋みをあげ、隠された膨大な苦しみを生じている。

 人々は、経済活動のための画一的された道具と見なされ、情緒の尊厳は軽視される。

 お金の価値で測りにくい、思いやりある行為や、優しい性格の価値が軽視される。

 互いの利己性を否定すべきではないとする平等主義が義に言い換えられ、人々のために私利私欲を犠牲にする英雄的な徳としての義は忘れ去られる。

 利について議論され思考される一方で、義について議論され思考されることはなくなる。

 主に近代を通して、大多数の人々の脳はそんな改造を受けてきた。

 それが、今の世に生まれて歴史を知るということ。


 勉強が得意な子供と思いやりがある子供とどちらが尊いか?

 経済的に裕福な人と貧しいが他人に優しい人とどちらが尊いか?

 優秀とは何か? 今の世における人の本当の価値とは何か?

 頭がいいとは何か? 仕事ができるとは何か?

 歴史への無知をもって有能と呼ぶのか?

 あるいは、歴史を知ることを知性と呼び、それに立ち向かうことを仕事と呼ぶか?

 痛みの中で愛を捨てない心の強さこそ豊かさと呼ぶか?

 経済的な平和の中に、戦場や戦争の存在を見ることができるか?


 一見平和に見える世界で、私達は戦争をしていた。

 学校を辞めて暗い部屋に閉じこもって、滅びゆく世界を救わんとしていた。


 教室の窓から空を見上げてた。

 雲間をゆく飛行機雲を眺めて、こんな所でこんな事をしている場合じゃないのだと気づいてしまった。

 教師が教えるすべてが偽りなのだと気づいてしまった。

 教師や大人達、さらにはメディアがなぜ偽りを教えているのか、色々と考えた。

 情報に溺れ、少なくない本を読んだ。

 歴史を知った。

 だから、戦場で戦う兵士の一人になりたいと思って、志願すると同時に学校を辞めた。


 それを相談して分かり合える友達や恋人なんて一人もいなかった。

 世界はすでに闇に覆われていて、共に戦える仲間を探すことは至難だった。

 だから、涙をぬぐって、学校の生徒達や家族との縁を振り返るのはやめた。

 でも、世界は広く、歴史は長い。

 見ぬ世の人を友とする。直接に出会わずとも人は、遠い誰かと通じ合える。


 哲学的な考察に溺れる若者は多くない。

 近代の歴史の真実にたどり着く者も多くはなかった。

 だから私は、退学して転入してすぐ、養成校のエリート部隊の末端に混ぜてもらった。

 愛と正義のために粉骨砕身戦いつづける、歴史ある養成校。

 何万年もの歴史の中で、世界中から恐ろしく優れた人々が集められていた。


 中でも名前が轟き渡っていた特級ランカーの先輩が数人。

 イエス・キリスト。

 ジャンヌ・ダルク。

 人類が生み落とした天才パイロット達。動きのただ一つも目で追うことができなかった。

 まるで、慈悲深き慈悲あまねき神が自ら顕現したかのような、光放つ剣筋。

 遥か高き天空を舞う、あの時見上げた飛行機雲。


 人々を愛するがゆえ、自らの安寧を顧みることなく粉骨砕身働いた彼ら。

 磔にされて、苦しみと侮辱の中で殺されていった。

 最も愛情深い人々が味わった、底無しに辛い孤独。


 イエス・キリストが味わった苦しみ。

 ジャンヌ・ダルクが味わった苦しみ。


 私が何を模範とするか。自らの人生をどうまっとうするか。

 その苦しみを見たことで私のすべては定まってしまった。

 私の人生のドラマはバトル物で、憧れの先輩は特級ランカー。


 愛すれば裏切られ、正義を行えば損をする、今という戦場。

 あまりにも深い心の辛さを味わう毎日。

 しかしそのどれもが、かつて先輩が味わった苦しみ。

 その一割にすらきっと満たない。

 そして、愚かな人に裏切られ侮辱された時、先輩が慈悲を諦めたかどうか? 諦めるわけもない。

 愛と正義に満ちた先人。それを見習う。


 一見平和に見える世界で、私達は戦争をしていた。

 学校を辞めて暗い部屋に閉じこもって、滅びゆく世界を救わんとしていた。

 私の人生のドラマはバトル物で、憧れの先輩は特級ランカー。

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― 新着の感想 ―
[一言] > 磔にされて、苦しみと侮辱の中で殺されていった。 それはおたくの勘違いです。 単なる受け売りをそのまま信じこんでるだけでしょう それに戦争(人殺し)なんてしなくたって 所詮、人間は皆ん…
[一言]  イエス・キリストという存在は謎であるけども、腐敗したユダヤ教に対しプロテストをしたことは、確かだと思う。  そのキリストの心情とかを考えると、今のカソリックや各プロテスタントの教義が、それ…
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