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世界で1人の白魔道士  作者: あし
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川沿いの村の「あいつ」

とある田舎の3、40人が暮らす素朴な村。かつて村人は周辺の鹿や熊を狩り肉を食糧の足しに、皮や角を大国で作物と交換し、骨を灰にしてバラまいた土に埋めて育てることで飢えを凌いでいた。決して楽な生活ではなかったが村人たちはそんな生活を楽しみ、大国の住民から「狩人の村」と称されることがどこか誇らしげだった。


そんな「狩人村」の住民は現在、昼過ぎにもかかわらず揃いも揃って本日の仕事は終わりましたと言わんばかりにどうでもいい世間話に花を咲かせ、バカみたいな呆けヅラで酒を胃に流し込んでいる。子供の頃両親から教わった「魔法」という得体の知れない能力のおかげでいくら使い回しても枯れない土壌で十分すぎる量の作物を育て、肌寒さを感じたら木片を生み出して火を起こす。暑い日は風を起こして氷を口で転がして涼む。もちろんその氷も村人が欲しいと思うだけで手元に現れるため、村の男衆自慢の巨大な氷室も何の価値も持たぬだだっ広い空き地に変わり果てた。大国から魔法という文化が伝えられてからというもの、食糧に飢えることも突然の災害に怯えることも無くなり一見平和な時代が訪れたかのように思えたが、結果が簡単に手に入る世界に村人たちは目的のために行動する楽しさを忘れ始めていた。


「暇つぶしに熊でも狩りにいくかあ」


舐めたことを唐突に口走る1人の男。口周りは長い間処理した形跡が見当たらない無精髭によってコーティングされており、肩まで伸ばした髪を雑に後ろで束ねている。長身だが猫背でどこか頼りない。


「アホか 俺らが逆に殺されるだろが」


強い口調で情けない台詞を吐き出すつり目の男。髪型は坊主に近く、耳たぶにぶら下げた羽飾りが変に目立っている。魔法のおかげで使いもしなくなった火打ち石を片手でカチカチと擦り合わせる音が実に鬱陶しい。


火打石「熊とか狩ったことねえからわかんねえぞ」


ロン毛「頭に火の玉でも打ち込んだら死ぬでしょ」


狩猟で頂く命一つ一つに感謝し、かつて人々から尊敬された狩人の子孫がこのザマ。大国の魔法が村の個性を跡形もなく奪い去ってしまった。


ロン毛「殺されはしねえだろ。ちょっとケガするだけだよ」


火打石「まあ暇だし怪我してもすぐ治せるからなあ」


ロン毛「・・・結局アレはあいつ以外使えないんか?」


火打石「知らねえ。あいつがいるんだから別にいいだろ」


熊を狩りに行く。もちろん軽く引っ掻かれるだけで2、3日ではすまない怪我に繋がるわけだが2人はどこか軽く見ている。命さえ失わなければ大丈夫だという「保険」がこの村にあるおかげで雑魚が身の程を弁えずいきり立っている。今晩、この2人は軽装で熊を退治しに向かい、片膝を握り潰され、横腹を抉り取られて自分の行いを死に物狂いで悔いながら「保険」の元に向かう事になる。「狩人村」の看板が外れた個性のかけらもない川沿いの村に住む世界で一つの「個性」の元に。





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