PROLOGUE
一気に投稿してしまいました
区切りが付けづらかったので文字数ばらばらで一人称視点も分かりにくいかもしれません
矛盾に気付いたら後で訂正するかもしれないですのであしからず
(あの雲の晴れた向こうは、どんな色なのだろう)
そんな疑問を初めて抱いたのは、今よりももっと幼いころのこと。両親によって閉じ込められていたあの窮屈な小屋から出て、生まれて初めて空を仰いだ時のことだった。
それでも覆っている雲の隙間からは微かに日が差し込んでいて。それが僅かな希望を与えてくれて。だからきっと、いつか空は晴れるものだと思っていた。
気が付けばあの頃からはずいぶん時間が経ってしまったけれど——未だ霧に覆われたままの風景、暗く染まった雲を見ても、私はその未来を思い描いていた。
しかしきっと……その未来を、私が見ることはないのだろう。
「……終わり、だ」
そんな言葉を、勇者は憎しみと共に吐き捨てるように告げた。深く淀んだ黒い目で私を睨みつけ、最後に残った唯一のナイフで私の首にそれを突きつける。
すぐに殺せばいいのにそうしないのは、私の言葉を待っているのだろう。贖罪と後悔の言葉、もしくは全ての理由だろうか。
「……………」
何にせよ問われたところで、今の私に答える気はなかった。答えたところで理解されるとも、私に全てを奪われた彼が納得するとも思えない。
だから私は告げる。
「……殺しなさい。私は何も語らない」
首に当たる金属が微かに揺れる。けれどその刃を下げようと切り裂こうと、今更私の死は変わらない。既に四肢を失い、手駒を失い、“力”も使えなくなった私に、ここから這い上がるすべは何一つとして残されてなどいない。
何て短い生涯だっただろう、と口の端を持ち上げ、振り返る。
散々な毎日だった。
後悔こそないけれど、楽しい記憶は欠片もない。
退屈ではなかったけれど、幸福ではなかった。
残酷であろうとしたけれど、冷淡にはなれなかった。
毎日毎日人を苦しめて、殺して、悲しませて。代わりに私の願いは叶った。けれど今日、私は全てを彼らに奪われ——殺される。
ああ。きっと“彼”なら、笑うのだろう。
人間を誰より嫌ったくせに——人間に誰より近い、私を。
人間に誰より憎まれたくせに、彼らに“王”と呼ばれた私のことを。
「……さようなら。……二度と生まれてくるな——災厄の魔王」
最期まで泣くことも出来なかった、私のことを。
あの雲の向こうを私が見ることはない。……けれど見たいとも思わなかったのだ。
だってそれは今日の続きがあるということ。私の生涯が続いてしまうということ。
最期に聞いた勇者の言葉に、私も賛成していたからだった。