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第6話 神様と無様

突然ですが、質問です。


目の前に“神”が現れたら、アナタはどうしますか?



僕は「頭、イカれてらっしゃる?」と素で言ってしまった。



■第6話 神様と無様 ■



「ふむ。“イカれている”……か。超常的観念である“神”を、人間の尺度で測るならば、そう理解しても仕方がないだろう」


「すごい早口……俺でなきゃ聞き逃しちゃうね」


「何バカな事を言ってるんですか」


今日はユウキにとっては初の任務で、車移動中もどこか心が弾んでいるように思えた。


彼女は基本的には僕の補佐役として同行することになり、さっそく道案内をしてもらって駅近くの電気街にやってきた。


昼下がり、ここには様々な人々が集まる。


営業マンや女子高生、チェック服の眼鏡集団、見るからにカタギじゃない人、ロココ風ゆるかわ系に、遠目にジョン・レノンと見紛う日本人。謎のコスプレ野郎、買い物帰りのママとくたびれた白髪のおっさん。


社会の縮図における少数派がこの界隈を行き交っている。


今回の感染者は、そんな電気街のど真ん中にいるという。正直、誰も彼もあやしく見える。


そして、やっとのことで街角にて見つけた今回の感染者は、へそまで届くほど長い白い髭を蓄えた、作務衣姿の男性だった。


謎の紙袋をしっかりと両腕で抱えてながら、彼は超然とした態度で自分を神だと言い張り、今に至る。


「して、汝らは何者だ?」


「あ、他人のこと“汝”って呼んじゃう系ですか」


「なんでそんな喧嘩腰なんですか?」


彼女はそう言ったが、この手の“自分を〇〇だと思いこむ”感染者は多い。


過去には、ナポレオンや坂本龍馬、ライオン、野原ひろし、小学2年生の女児など、基本的に頭が痛くなるような奴等で、まともに対応することは困難を極める。


故に僕は、こうした類の感染者には強気の態度で望む。なめられたり、相手のペースに流されたりしたら、時間と体力と精神力大量に奪われてしまうこと必至だ(こっそりとユウキに説明したら「ヤンキーみたいですね」と言われた)。


その中でも神を名乗る者は多い。月1くらいで遭遇する時もある程だ。


やはり日本は八百万の神の国なのかもしれない。


だから、今回の感染者もそんな大勢いる“神”の1人だろうと僕は考えていた。しかし、なかなか、今回の“神”は設定がしっかりしているじゃないか。


「根本が間違っている。“神”にウイルスは感染しない」


「いや、アンタどう見ても人間だろ」


「それは汝が“神”という存在をそう見ているからに過ぎない。先程も申した通り、“神”は観念なのだ。汝の頭に“神=人の形”という図式が既に出来ている為に、神を人間と知覚したのだ。もっとも、偶像崇拝が広がった為に大多数の人間は神に人の姿を見るがな」


「分かった分かった。いや分かってはないけど、とりあえず落ち着いて」


速い。オタクの自分語りより速い。なんなら話の途中で謎の加速がある。さらにずっと人工音声のような平坦な音で話すので、耳が疲れてくる。


「どうしよう。無理なんだけどこのオッサン」


ひっそりとユウキに泣き言をもらすと、僕の斜め後ろに立った彼女は「僕も嫌です」とはっきり拒絶した。


「初任務でこれは荷が重いです」と彼女は続けた。


確かに、初回に“神”は辛いかもしれない。神というのは、大抵のマンガやゲームではラスボスに成りうる存在だ。最初の村を出たばっかりの勇者と同等の彼女に戦わせるのは、少し酷かもしれない。


結局、僕が独りで“神”と対峙することになった。しかし、ここでいいところを見せれば、彼女からのリスペクトが得られるかもしれない。


目の前の不審者に嫌悪感を露わにする彼女に対し「OK。先輩が見本を見せてやろう」と軽くイキったところで、僕は神に訊ねた。


ここからはもう考えても無駄だ。フィーリングで会話するしかない。


「ところでお父さんはここで何してるんです?」


「酔っ払いの相手する警察官ですか?」


「タピオカミルクティーを買いに来たのだ」


「可愛いもの買ってんじゃねぇよオッサンがよ」


「先輩、それはあんまりですよ。世の中のオッサンに対して」


「“タピオカミルクティー”は女子のモンなんだよ。


 オッサンは芋ようかん以外の甘味の摂取は禁止されてんだよ」


「なんですか、そのディストピア」


「問題ない。“神” だからな」


「お前マジで“神だから”で全て解決しようとすんじゃねぇよ。ゴム人間かお前は」


「何度も神って言ってますけど」


さてどうしたものか。話は全く進展していないが疲れてしまった。


終始こちらがペースを握っていたはずだが……後輩が「この人は何故こんなにも愚かなのだろう」という眼をしているのは、気のせいに違いない。


そして、遂には神も僕に対し憐憫の眼差しを向けていた。


彼は数秒の沈黙の後、ゆっくりと口を開いた。


「すまぬが、タピオカミルクティーが冷めてしまうので、そろそろ天上に帰らせてもらうぞ」


「え?」


僕たちが呆気にとられた瞬間、目の前にいた神の姿が消えた。


「え?あれ?どこ行ったあのオッサン?」


「せ、先輩……もしかしてあの人本当に神様だったんじゃ」


「まさか。あ、GPSは?もしかしたら、すぐ近くに隠れてるだけかもしれない」


「!そうでした!その手がありましたね!先輩もやればできるじゃないですか!」


初めて彼女に褒められたのは存外嬉しいが、その言い方はどれだけ僕に失望していたのだろうか。


急いで鞄から端末を取り出した彼女は、その画面を見るやいなや、目を見開いた。そして彼女は恐る恐る、端末の画面を僕に向けた。


「あの、僕……人を間違えてたみたいです。本当の感染者は、別の場所にいるっぽいです」


「え?じゃあ、あのおっさんは?タピオカの妖精か何か?」


「頭イカれてるんですか?」



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