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第11話 とある患者の黒歴史(前編)

僕がこう思うんだから、僕の世界はこれでいい。



貴方がそう思うのなら、貴方の勝手にすればいい。



僕は貴方じゃないから、貴方の考えに興味はない。



貴方は僕じゃないから、僕の世界に入ってくるな。



こんな簡単なことが分からない人間が、世間には腐るほど存在する。



そして、文字通り、世間は腐っているんだ。




 某月某日。今日は雨だ。それもかなり強めの雨が降っている。



 そんな日は好きだ。降るのか降らないのかどっちつかずの曇天模様より、いっそ土砂降りの方が清々しい。



 しかし、それは内勤の日に限る。何だってこんな日に、任務が入るんだ。



「つーか任務なんてほぼ毎日じゃん」



 メイリは助手席でそう言うが、そう云う話ではない。



「じゃあ何?」



「面倒くさいんだよ」



「面倒くさいから仕事になんの」



 メイリのその言葉に、僕は思わず頷いた。



 なるほど、確かにご飯を作るのが面倒くさいから飲食店があるし、モノを生産地まで買いに行くのに時間と費用が掛かるから小売や流通業が存在する。



 自分で仕事するのが面倒くさいなら従業員を雇えばいい。雇うのが面倒くさいなら派遣業者に頼めばいい。

 

 

 家事すら面倒なら家事手伝いだ。

 

 

 しかし、それでも面倒くさいものはまだまだたくさんある。



「でも朝起きるのってめんどくさいじゃん?」



「永遠に寝てればいいじゃん」



 彼女の返しに感心しながら、僕の頭にふと疑問が浮かんだ。



 この世界には、朝起きたくない人がどれだけいるんだろうか。



 そして、答えもすぐに思いついた。きっと全世界の人間全員だ。僕やメイリも含めて。



 フロントガラスに衝突する雨粒を、ワイパーが一所懸命に拭き取っている。



 彼らはいい仕事をしてくれている。おかげで土砂降りでも僕は安全に運転できる。



 もうすぐ、車は目的地に着く。






■第10話 とある患者の黒歴史■






 今日の感染者は住宅街の角の一軒家にいるという。

 

 

 そこは白を基調としたシンプルで現代的な2階建ての一軒家。

 

 

 庭と駐車場もついている、なかなか良い家だった。

 

 

 門柱にあったチャイムを押すと、マイクからインターホンから若い女性の声が聞こえてきた。

 

 

 感染者だろうか。国から派遣されたことを伝えると、女性は慌てて玄関を開けるとマイクを切った。

 

 

 やはり国家権力は強いと思わされた。

 

 

 現れたのはセミロングの上品な女性、見た感じ40歳にいかない位だろうか。

 

 

 柔らかい物腰でどこか抜けている感じがする。なるほど、こんな人妻も悪くはない。

 

 

 彼女が感染者かと思ったが、話を聞くとどうも“デバイス”を入れていないらしい。

 

 

 どうやらスマホも使えない程の機械オンチで、主人と息子から固く禁止されているらしい。

 

 

 禁止されるほどの機械オンチってなんなんだ。

 

 

 さて、そうなってくると、感染者として怪しいのはその主人と息子ということになる。

 

 

 そして、どうやら今日は息子が体調不良で学校を休んでいるらしい。となれば、感染者は息子で確定だ。

 

 

 手元のGPSもしっかりとこの家を示している。

 

 

 しかし、いくら彼女が呼んでも、息子は返事すらしない。



「あら、気分悪いって言ってたから……やっぱり寝てるのかしら?」



 そんなはずはない。子どもが体調不良で学校を休んでいる間、おとなしく休んでいるはずがないのだ。根拠は自分だ。



「ちなみに息子さんっておいくつですか?」



「中学2年生です」



 なるほど、ふむふむ、これは……自家発電だな。



 思春期真っ只中の男子中学生(エテモンキー)が母親の声がけを無視して、自室で致すことなどゲームか自家発電しかないのだ。



 根拠は同級生だったハルキ。断じて自分ではない。



 しかも、現代の中高生は“デバイス”などという最強のインターネット環境を持っている。



 これならば、直接網膜に動画を映し出せ、親に画面を見つかる危険性もない。



 青少年には最高で最悪の環境というほかない。



 大方、ピンク色のサイトから、モザイク塗れの動画をダウンロードする際に、ウイルスも一緒に落としてしまったのだろう。



 なのであれば早急に手を打たなければならない。



 迅速に息子さんのインターネット閲覧履歴を削除し、黒歴史にならぬよう速やかに“喰人(クラウド)”を削除するのだ。



 僕は奥さんに断りを入れると、2階にあるという少年の部屋に向かった。



 背後でメイリが「なにか分かったの?」と聞いてきたが、「これは男子にしか分からねぇ問題だ」と一階で奥さんと一緒に待機させておく。



「馬鹿じゃないの?」と彼女が吐き捨てる声が聞こえたが、男子はみんな馬鹿なのだ。



 階段を上がり、こども部屋のドアをノックする。だが、応答はない。



「少年。僕は味方だ」



 そう言って再度ノックする。



「僕も通った道だ。君のことはよく分かる」



 すると、真摯な僕の思いが通じたのかドアが開いた。



 出てきたのは、目が隠れてしまう程まで髪を伸ばした陰鬱な少年だった。



「ふっ……誰も俺のことなんて理解らないさ」



 少年はそうとだけ言って、すぐに扉を閉めた。



(……そ……そっちかぁ~~ッ)



 なるほど、黒歴史には違いないが、ピンク色ではなく†漆黒†だったようだ。



 いわゆる中二病ってやつだが、少々厄介なことになった。



 中二病患者は人の話を聞かない。自分の価値観が絶対的に正しいと信じて疑わないからだ。



 第三者からすれば、別に正しいか間違ってるかなんてどうでもいいから、話を聞いてほしいだけなのに。



 僕は彼を刺激しないように、慎重に言葉を選んで紡ぐ。



 「少年。名は知らないが、話だけでも聞いてほしい。君は今、あるウイルスに感染している」



 「ふん。誰だか知らないが、どうせ“中二病”とか言うんだろ。ケンタみたいに」



 僕だって誰だか知らねぇよ。誰だよケンタ。だがケンタ、君は間違っていないぞ。



「違う。君は今"喰人"というコンピュータウイルスに感染していて……」



 僕がそう言った途端、ドアが勢いよく開き、目を輝かした少年が姿を現した。



「"喰人"ッ!?……なにそれ、その話、詳しく教えて!」



 先程とは打って変わって少年のような態度だ。いや、元から少年なのだが。



 しかし、ここまで態度を変えるということは、恐らく"喰人"という存在が、何かしら彼の琴線に触れたということだ。



 ならば自分がやるべき事は一つ。彼のノリに合わせることだ。



「いいだろう。その代わり、"施設"に来てもらうぞ……君は今、危険な環境下に置かれている」



 "施設"という言葉で、少年の目は更に輝いた。



 前言撤回。思っていたより全然扱いやすい。



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