表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/15

第9話 面接で緊張するのは面接官も同じ(後編)


【三行で理解る前回のあらすじ】


①就活の時期だから「さだめ」も面接するよ。


②主人公のテンキ君が面接官になったけど、ゴミみたいに使えなかったよ。


③テンキ君の晩ご飯が"サバの味噌煮"になったよ。



【以上。三行で理解る前回のあらすじでした】



■ 3人目 ■



「テンキ。次ちゃんと面接しなかったら、外すかんな」



 メイリの三白眼が僕を睨む。



 赤い手形の付いた頬の痺れるような痛みを耐えつつ、僕は表情を引き締める。



「分かったよ。次からは本気出す」



「最初から出しとけ」



 というわけで本日3人目の面接の時間である。



 しかし、予定の時刻になっても誰一人として会議室に入って来なかった。



 気になって会議室を出て、オフィスに居たユーキに声をかけたが、事務所にも誰も来ていないそうだ。



「おかしいな?メールとか来てないの?」



 メイリに訊ねたが、彼女はしかめた顔を横に振る。



「たまにあるよ、こういうの。ドタキャンって奴?」



「ってことは不合格か?」



「まぁね。一報でも入ってれば別だけど、その程度の連絡も出来ない奴に仕事は無理でしょ」



 なるほど、毎日無断で遅刻してくる人が言うと、言葉の重みが違うな。



 本音を歯の裏に隠し、僕は「なるほど」とだけ口にした。



■ 4人目 ■



 さて、気を取り直して本日4人目の面接である(僕にとっては実質1人目だが)。



 今回の相手は、ダボっとした感じの、取り立てて特徴のない青年だった。



 先ずは同僚のメイリが履歴書を見ながら質問し、簡単な自己紹介に入る。



 彼が簡単な自己紹介を終えると、すかさず僕は、就活生に対し質問を投げかける。



「それでは、弊社を志望した理由があれば、教えていただけますか?」



 それに対し、彼は一拍おいて、用意してきたであろう答えを語り始める。



「はい。私は、大学で情報システムを研究しており、……」



 僕は適度に相槌を挟みながら、次の質問のタネを探す。



「それでは、趣味もPC関係だったり?」



「いえ、中学校の頃から部活でフットサルをやっておりまして」



 そこからは、特筆して言うべきこともない、何の変哲もない面接だった。



 就活生が退室した後、僕は頬杖をついて端末をいじるメイリに胸を張った。



「どうだ?僕もやればできんだよ」



「……え?いや、別に普通じゃん……」



 "何言ってんだコイツ、馬鹿か?"



 彼女の彼女の半開いた眼は、確かにそう言っていた。



「まぁでも、今までのクソに比べれば十分かな」



「だろ?もっと褒めてもいいぞ、僕は褒められて伸びるタイプだ」



「調子に乗るの間違いじゃないの?」




■ 5人目 ■



 そんなこんなで本日最後の就活生の時間だ。



 会議室のドアを叩く音。



 隣に座ったメイリが「どうぞ」と言うと、端正な顔立ちをした眼鏡の女性が入ってきた。



 いかにも秀才って感じの、クールでオデコの広い女性だ。



 ショートの七三分けヘアが、彼女の広いオデコをしっかりと強調している。



 さらに言えば、照明の関係で彼女のオデコが輝いているように見える。



 いや、別に僕がオデコ好きという訳ではない。ほんとに。



 目立つものを注視してしまうのは人間の性である。



 しかし彼女のオデコに気を取られていた隙に、自己紹介が終わろうとしていた。



 いけない。せっかく"真面目にやる"モードに入ってきたのに、これでは台無しだ。



 僕は気を取り直して、先ほどの面接と同じ流れで、彼女に志望動機を訊ねた。



 数秒の沈黙を置いて、彼女は口を開いた。



「動機はある"喰人(クラウド)"ウイルスの撲滅です」



 彼女の一言で、会議室の空気が変わった。



 強い意志と憎しみが込められた、重たい言葉だ。



 僕は、瞬時に神妙な表情に切り替える。この空気は"シリアス"モードだ。



 同じように真剣な顔になっているメイリが彼女に言葉を返す。



「撲滅、とは大きく出ましたね……」



「"蜘蛛(クモ)"」



「!!」



「御社も把握していると思います。レベル5の"喰人"……私の家族は、"喰人"に殺されたのです」



 彼女は、悲哀と怒りの混じった声と共に、僕たちを見る。



 その瞳には、一点の曇りのない確かな意志が宿っていた。



「これが私の動機です。大層な戯言かと思いますでしょうか?」



 彼女の非常にまっすぐな志に対し、メイリは非常に苦しそうな顔で言い淀む。



「……いいえ。私はそうは思いませんが、しかし……」



 彼女の真摯な言葉に対する、適切な言葉。

 

 

 それは、あるにはある。しかし、非常に残酷な言葉だ。



 ……この組織に入り"喰人"の撲滅を目指すなど、彼女には悪いが、余りにも非現実的なのだ。



 その真実を告げるには、メイリは優しすぎるのだろう。だから、ここは僕が彼女の代わりに回答することにした。



 幸い、僕はコミュニケーション下手だ。



「あの、弊社では、そう言ったモノは取り扱ってないんですけど」



「えッ?」



 女性の目が見開き、呆気に取られた声を出す。



 どこかで話した気もするが、僕たちの組織は、基本的に危険性の低い"喰人"しか対象にしていない。

 

 

 凶悪な"喰人"は、もっと有能な方々が処理してくれているのだ。


 

 でなきゃ僕なんてとっくの昔に死んでるね。


 

 まぁ、彼女が知らないのも無理はない。それは結構機密性の高い情報だ。



 彼女は、額に汗を垂らし、助けを求めるように視線をメイリに移した。

 

 

 しかし、メイリはなんとも申し訳なさそうに頷くだけだった。



「色々と調べてくれたことはありがたいんだけどね……」



「あ、あ……」



 彼女の顔がタコみたいに赤くなる。それまで僕らが抱いていた、彼女の秀美な印象が、一気に崩れた瞬間だった。

 

 

 もちろん、面接も終わった。






■第9話 面接で緊張するのは面接官も同じ ■





 僕が面接官をしてから、はや一週間。



 朝、出勤してコーヒーを淹れている間、なにとはなしにナギさんに話しかけた。



「ナギさん。先週、僕が面接した子、どうでした?」



「ん?……ああ、合格者は居なかったな」



「あ~やっぱり難しいんですかね。この業界に適した人材かどうか判断するのは」



 彼女は深いため息を吐いて、残念そうにつぶやく。


「だが、あの女性の就活生だけは惜しかった。

 残念ながら"さだめ"とは目的が合っていなかったので落としたが、情報庁の方に推薦を出しておいた」



「あのオデコの子ですか?」



「名前くらい覚えておけ。彼女の名は小谷場だ」



 僕を睨むナギさんの目はいつものように冷たい。

 

 

 しかし、どうにも人の名前を覚えるのは苦手なのだ。人に興味がないからだろうか。



「へぇ~……そういえばナギさん。あれから僕、面接してないんですけど、希望者来てないんですか?」



「いや、来ているぞ。だが、メイリが"テンキはもう要らない"と言っていたんでな」



「え?なんでですか?」



 淹れたてのコーヒーを啜りながら僕は訊ねる。



 理由は火を見るよりも明らかだが。



「クソの役にも立たんからだと」



「やっぱ難しいんですよね」



「だったらさっさと任務に行け。適材適所だ」



「えー……嫌です」



「やれ」



 その声もいつも通りの冷たさだ。



「はい……」



今、僕に温かくしてくれるのは、このコーヒーだけだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ