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SS3/3 新しいおうち

 久しぶりのシュターフです。いやあ都会って感じですね!

 私はうっきうきですよ。

 たくさんの人! たくさんのお店! 美味しい食べ物!


 実は私達夫婦、しばらくは北にある旦那さまが眠っていた本宅でのんびりひっそりしていたんですが、やってみたら不便なこともあってですね。静かで地下から湧き出ている魔力も多いのは嬉しいんだけど、なにしろ生活するには食料調達とか宰相さまとの連絡とか、出来ないことはないけれど面倒なことも多いんですよ。


 しかも「月の王」の本宅の場所は人に知られると問題がありそうなので、ひっそりしようとするとコソコソすることになりまして。よくよく見てみれば、広い建物の中はアトラ時代の様々な貴重品が無造作にゴロゴロしているし、ルシュカのロイス様がヨダレの滝を作りそうなお酒も山のようにある。

 これは絶対に世間に知られてはいけない! 平穏な生活とサヨナラすることになる! 観光客も盗賊もノーサンキュー! となると、身元を隠しての生活。買い物一つするのでも偽装する日々。田舎なので目立つ買い物も出来ません。あの人たち誰なの? とならないように細心の注意で行動する私たち。

 なので久しぶりに温泉宿なんぞに泊まってみれば、まあその快適なこと!


 それで欲が出ましたの。


 どうせコソコソするんだったら、便利なところでコソコソしてもいいんじゃない?

 人を隠すなら人の中に!

 でも魔力が多いところがいいな〜。


 あるよね~? そういうところが。

 そう、それはシュターフ。

 アトラスでもいいんだけど、なにやら旦那さまと宰相たるおっさんがしょっちゅうやり取りをしているみたいなので、だったらおっさんに近いところの方が便利じゃないかということになりまして。


 買っちゃいました! 別宅二号! ちなみに一号は前からある王都のお家です。


 魔力が大量に立ち上る中央広場に面する一等地。超高級アパートメントのペントハウス。さすが都会。さすが金持ち。

 口利きと身元保証はシュターフ領主かつ国の宰相さまです。誰も文句が言えない。

 どうやらカイル師匠の親戚ということになっているらしいです。

 いいねえ。身分は「魔術師」。宰相腹心の魔術師の縁者。謎めいていても仕方無さそう。髪も師匠と同じ黒にしておけば説得力抜群!


 おっさんに甘えて使用人さんも通いで領主館から来てくれるようになりました。

 なにが素晴らしいって、お食事が豪華になりました。素敵!


 結局各地の問題解決や仲裁にはまだちょこちょこ行っていて、なにかと慌ただしい生活なので助かります。旦那さまも書斎に籠って通信石に縛られることもしばしば。


 ええ、そもそもの元凶は私達が一気に魔力の流れを変えたからです。はい。すみません。


 え? いっそ王都に住め? まあ、住むには別宅一号もあるのでそれも考えたんですが、あそこ、魔力がまだ少ないのよねえ。え? それも私たちのせい? はいその通りです……。まあ、必要な時には影で行っているみたいだから、それできっと大丈夫……。きっとね。


 取り敢えず隠れ家確保~。ええ私たちも人間ですからね。衣食住もろもろ便利なところで生活したいよね! ふふっ。そして本宅は厳重に封印です。住みたくないのではなくて、貴重品等を世間からできるだけ隠蔽するのが主目的です。あんな今では国宝級のアンティークにわんさか囲まれていたら、夫婦喧嘩も出来やしない。あっ、えっと、ヤッテナイヨ? でもほら、可能性の問題だから……ね? 人間転ぶときもあるし! ね?


 でもここにはそんな貴重品もなく、実に普通のお家なので、さっそく気に入った家具やら内装やらでいそいそとお家を飾ります。旦那さまは全然興味が無いようなので、それはそれは楽しく私好みに改装しました。はあ満足。


 そして内装も完成してシュターフでの生活にも慣れて来た頃。


 なぜか頻繁にやってくるようになった師匠。あれ?


「私はあなたたちの親戚ということになっていますからね。多少は交流もしないと真実味が出ないですよね。それにシュターフ領主が王宮から出られないほどの激務になって、帰って来れない間のこちらの実務を、前領主のカルキア様が代行しているのはご存知ですよね? 私もお手伝いに駆り出されているのは? ほうご存知ない。そうなんですか? 私も魔術師としての仕事と領主の仕事のお手伝いと忙しいのですよ? もとはと言えば誰かさんのせいで。ですからたまには昔の知人もとい親戚のところに息抜きに来てもいいですよね?」


 といいながら最近はしょっちゅうお茶をしに来てます。

 まあ、私も賑やかなのは嬉しいのでいいのですがね。おやつを買う理由にもなる! 今日の茶菓子は最近ニューオープンのケーキ屋さんの人気商品です! クリームが美味しいのよ〜〜。ふふふ〜。


「ところでこの部屋、いつ来ても魔力にあふれていていいですね。どうやっているんですか? なにやら窓の外に魔術の気配を感じるんですが」


 ケーキをいただきながらもチェックは抜かり無いお師匠様です。さすがです。


 それは旦那さまがねー、目の前の広場から上がっている魔力を、ちょっと室内に引き込む魔術をかけてくれたのよね〜。私の目には、窓の外に小さなキラキラしたクリスタルボールが浮いているのが見えます。そう、あのアトラスに浮かんでいたやつのミニチュア版。あれが魔力を反射してちょっと多めに魔力を室内に入れているのです。


「なるほどさすが我が主。今度どのようにかけるのか教えていただきたいですね! ところで今はどちらに?」


 師匠の「月の王」崇拝が健在のようでなによりです……。窓の外の魔術をうっとりと眺めた後、キラキラしたお目目で室内を見回している。


 だんなさまは書斎だよー。そして今は……多分影になって王宮に行っているみたいよ? 

 本宅よりは断然ここの方が王宮に近いから、なんか最近は気軽にあっちに行っているよね。そして都合が悪くなったり用事が終わったりしたらすぐにフイッと消えて帰ってこられるから、本体が行くよりは随分便利にやっているようです。


 いるんですよね。「月の王」を追いかけ回す人が。みなさんいろんな思惑をお持ちのようで。

 かくいう私もこの前王妃様と第三王子王女の金髪の魔術をかけ直しに行ったらば魔術師団も待ち構えていて、やれ協力してくれだの頼まれてくれだのと集団で囲まれたばかりです。あれ本体が行っていたら物理的に逃げられないやつ。


 手助けはいいんだけれど、大勢の手助けするにはルールが必要なのよね。規則というか。手当たり次第なんてしたら不平等だと不満が出ると思うのよ。だからまだそのルールが公に決まっていない状況では勝手にはできない。勝手にやると結局後始末に追われるのは今までの経験で嫌というほど知っている!


 ということで、また今度! と言って消えられるのは便利です。

 絶対にこの隠れ家は死守するぞ!

 場所がバレたら大変だ! 私はひっそり暮らしたい。


 そんな理由でこの家には旦那さまと私の渾身の隠蔽と目くらましの魔術がてんこ盛りです!

 多分この国で一番しっかり隠れられる場所になっているよ!


 ん? あっ! 師匠、もしかしてこの家を行方をくらます避難先にしている? そういえばなんか領主館の方で師匠を探している気配がするよ? ええ? そういうこと!? 師匠ー?


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