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SS1/3 お風呂と私とだんなさま

 やってきました『龍の巣亭』! いやあ、会いたかったよ、露天風呂さん!

 あなたが恋しかった。温泉と魔力が湧き出る素敵なお風呂!

 私はあなたを忘れることは無かったです。愛してる。


 そのとたんに隣でジト目になってこっちを見ている旦那さまは放っておいて。

 大丈夫大丈夫、あなたもアイシテルー。だからジト目にならないで?


 いやあ、ちょっとしばらく家から出られなかったです。

 あの魔力の流出を止めたあとは、国に魔力が溜まり始めたのはいいんですがちょこちょこ混乱もありまして。


 さすがにちょっと急すぎたよね。

 やっぱり怒りにまかせて、やりすぎちゃあいけないね。徐々に解除を考えていたらしい旦那さまも一緒になってぶっ壊したから同罪ですが、急激な変化に混乱する人が出たのは申し訳ない。


 まあ後悔はしていないけどね!


 自分たちの撒いた種は自分たちで刈り取ります。なんかデジャヴだけれどしょうがない。

 かくして私たちはここ最近はずっと、国のあちこちに影になって姿を現しては揉め事の仲裁をしたり今の法律では対処できない問題に魔術で対処したりしていました。なんか旅していたときと変わらなくないか?


 それでもよっぽど酷いのだけなのよ? だけど国は広いからね! 旦那さまに教わりながらアトラのやり方も随分学習してきた今日この頃。やっぱり突然目覚めた魔術をどうこうするには既存の法律や規則では対処しきれない事があるし、そういう点ではアトラのやり方は合理的ということを実感する日々でした。

 蛇の道は蛇。魔術を制するには魔術で。


 まあでも最近はだいたい落ち着いてきて、やっとのんびりしようかという話になったのですよ。


 もう真っ先に思い浮かんだのは温泉。まるで刷り込みのように、温泉に行きたい!

 それは私の心の叫びでした。


 と、いうことで、『龍の巣亭』です。

 私が白い影の姿で直々に予約しましたよ。

 そうです、私自ら「白き人」になりました。だって、あの豪華なお部屋に泊まりたいじゃない? 私はあそこのお風呂に入りたいの!


 かくして、魔術で黒髪に偽装した私たち夫婦は無事目的の部屋に案内されたのでした。髪の色は違うけれど、でも顔は予約時と同じだから。ほーらこの顔ですよ? 覚えているよね?


 昔に泊まった時よりさらに従業員さんたちからの好奇心と興奮をひしひしと感じるけれど、まあ、気にしない。

 しょうがないよね。派手なことをやらかしたのは自分たちですから……。

 いつか私も旦那さまのように堂々と微笑んでいられる日が来るかしら?


 さて、なつかしのお部屋です。

 今回は五月蝿く騒ぐおっさんもいない、本物の旦那さまとの静かなのんびり旅ですよ。


 思えば遠くへ来たもんだ。でもお部屋の佇まいはそのままで、すごく嬉しい。

 この部屋は私が一介の旅の小娘でも有名人でも、同じように迎えてくれる。


 荷物を早々に放り出して露天風呂を覗きに行く私。

 思わず叫んでしまいました。


 わあぁ、凄い!


 もともと多かった魔力の噴出はさらに量を増し、そして勢いも増していた。

 露天風呂とその周辺からキラキラの魔術が怒濤のように垂直に上っていっている。

 なんだろう、これ……逆さの滝?


 ええ、ちょっとこれは多すぎないか……? あの「黒魔術師の家」のミニチュア版みたいになっているぞ?


「ああ、増えたねえ」

 隣に来た旦那さまが言う。いやあなた、もう少し驚きませんかね?


「でも昔はこれくらい出ていたんだよ。それで普通の人には刺激が強すぎるからこの部屋を閉鎖させたんだ。せっかく良い部屋をつくったのに、もったいないよねえ」


 なるほど? 「月の王」のいた時代は魔力も湯量も、って、このレベルの話だったのか。全然知らなかったよ。


 でももともとこの温泉を言い出したのは君だからね?

 と言われて……はい?


「ここに温泉を掘ったら素敵って君が言ったから、私が龍に掘らせたんだ。当時はこれくらいの魔力でもちょっと多目に出てるなーくらいの感覚だったからねえ。今は昔より人々が魔力に慣れていないから、当時より危険だね。やっぱり普段は立ち入り禁止にしないとね」


 って、え? あなたが決めていいんですか。まああなたがそう言ったら聞いてくれそうではあるけれど。

 と思ったら。


「ん? この宿のオーナーは今でも私だよ? 寝ていた間も所有権は変わっていなかったからね。まあ魔術で変えられなくしてあるから当然だが。少なくとも支配人は知っているはずだよ。君のために作ったのに、今までお嫁に来てくれなくて長い間放ってしまったけれど、君が喜んでくれてよかった」

 にっこり。


 って、ナニイッテイルンデスカ。金持ちやることがいちいち凄いな!? 旦那さま、年月経っても王さま気質は変わらないのね?

 ちょっとびっくりだよー……。


「まあこの魔力の量なら私たちは大丈夫だから、せっかくだから入ろうか。そのために来たんだろう?」


 私があっけにとられていたら、旦那さまが良い笑顔で見えない尻尾をフリフリしながら上着を脱ぎ出した。


 え? ちょっと待って?

 にこにこにこ……って、え? あなたと?


「ん? 私たちは夫婦だし、ここは部屋の風呂だし、何の問題が?」


 って、心底不思議そうにしていますがね?

 まだ昼間ですよ? しかもここ、二人で入るにはちょっと小さすぎませんかね?


「大丈夫、入れるよ」

 じゃないっつうの。脱ぐな。


 私はお風呂はのんびりゆったり入りたいの!

 窮屈なのは嫌いなの! 手足が伸ばせないと嫌なのよ。


 えー、じゃない。順番で!

 最初は私ね? 楽しみにしていたのも予約したのも私ですからね?


「じゃあもう少し大きく掘り直すかな……」


 違う。そうじゃない。多分大きくなっても変わらない。

 くっつくなって言っているんです! 今もくっついて来ない! お風呂の準備が出来ないでしょうがーもー!


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