その果て
ある青年が休日を理由し、登山目的で山へやって来た。青年が山を登り始めてしばらく経ち、そろそろ山の中腹に差し掛かるかというところで、ふと喉の渇きを覚えた。
青年は麓の店で買ったペットボトルの水をリュックから取り出すと、勢いよく飲み干し、空になったペットボトルを近くを流れる川に投げ捨てた。捨てられたペットボトルは水面に浮き、沈む事なくゆっくりと川下に流されていった。
流れるペットボトルは岸や川底の石に幾度となく当たり、その都度体勢を変えては流れた。時には水面に突き出た石に塞き止められたが、川の流れがペットボトルを押し流した。
ペットボトルは何日も川を流れ続け、辺りの風景も自然から人工物に変わり、何度目かの陽が登った頃、傷だらけのペットボトルは川から大海に出た。
それからもペットボトルは波に流され、海を漂い続けた。ある時、魚が汚く歪なペットボトルを口先でつつき、興味がなさそうに何処かへと泳いでいった。
雨が降った。雨がペットボトルに当たり生じる音は、雨が海面を叩く音と異なり、もし漂流者がその光景を見たのならば、少しの暇潰しになったかもしれない。
ペットボトルは何日も何日も海を漂い続けたが、その旅にもとうとう終わりの時が訪れた。「ゴオオーー」と凄まじい音が辺りを支配し、ペットボトルはその音の発生源となる巨大な滝に飲み込まれていったのだ。
地球は平らだった。