鬼邪殺戮怒≪キャサリン≫が案の定超生物Ωになった - その3・オメガ堕ちはアルファしかできないから最もアルファらしい行為
爆音、悲鳴。
即座に駆け付ける警備隊の有人アーマーだが、両腕部の機銃を撃つ前に謎の力により飴の様に歪められ暴発。
また別の機体は電撃を纏う亜音速のコンクリート片の雨により穴だらけになった。
「応答願います、こちら第八研究所!ただいま襲撃を受け・・・うわぁっ!」
無線通信は爆風により遮られた。
闇夜を舐める炎の中、同じバトルスーツに身を包んだ集団が歩み出た。
それぞれの面には黒地に白で「Ω」がデザインされていた。
Ω面の集団がそれぞれに手を掲げると、炎やら雷やら、あと変なエネルギーやらが集まって来た。
リーダーらしき人物が手を振り下ろすのと同時にそれらが壁に殺到、閃光と轟音があたりを包んだ。
施設の奥に辿り着いた彼等は、知ってはいても不快と怒りを感じるしかない物を見た。
それは研究所ではなく、工場。
違法に捕らえられ、それでいて黙認されたオメガ達を母体として臓器移植用のクローンを生産する施設だったのだ。
「・・・生きる意志のあるものはついてこい。そうでない者には苦痛の無い終わりを与えてやる」
その声に応え立ち上がり、歩み出た施設内のオメガは全体の一割と半分程。
他は僅かの命の火も瞳に点さず、ゾンビの様に俯いたままだった。
苦痛の無い終わりと聞かされ安らぎを表情に浮かべる者もいた。
燃え堕ちる巨塔。
この日「オメガリベリオン」は醜悪な欲望の集積物とそれに囚われた哀れな魂を大地に返し、同時に10余人の新たな仲間を得た。
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『この世界の胸糞っぷり・・・今まで転生してきた世界の比じゃないんだけど』
既にショタかロリか悩ましい状態で鬼邪殺戮怒が前世の記憶を取り戻してから、例の神々しいのか邪悪なのか分からない戦闘用ボディーを鍛え上げた青年となるまでの年月が経っていた。
今回の彼の見た目は奇しくも、地球最強の男としての姿とほぼ変わりない。
ロボメイドに転生した方の三十路OLはパーツを多少交換したぐらいで何の変りも無いが。
オメガリベリオンのリーダーとして遠征から帰ったばかりの鬼邪殺戮怒が、そんな呟きを漏らしたロボメイドに対し答えた。
「やはり、この世界の構造には何らかの作為を感じるか」
『感じるってレベルじゃないわね。魔法があれば考える必要が無かったから最近まで調べてなかったんだけどさあ、オメガが普通に生きる上で最大の問題点って≪発情期≫よね。それを今までに薬とかのテクノロジーでどうこうしようって考えた人が居ないかって言うと、そんな訳は無かった』
魔法でどうこうというのは実に簡単だった。
発情を魔力として発散すれば良いだけなのだから。
むしろ魔法を得たオメガリベリオンやその仲間にとっては普段よりも魔法の威力が上昇しヒャッハータイムでさえある。
しかし全人口の一割ほどを占めるオメガが悩まされる、どころではなく苦しめられる発情期が歴史上今まで放置されてきたと言うのは不自然極まりない。
『ざっと調べてみたら、オメガの発情期を解消しようという研究も、その人権を守ろうという社会運動も何度も起こっていた。それらは全部ごく初期で潰れていた。場合によっては焚書までして、そういう事があった事実さえも徹底的にね。ここまでそうだと統一した意思の何者かに潰されていたって言うべきね』
「・・・そこまでなのか」
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眩いばかりのライトを背に、凄まじく鍛え上げられた肉体を革のコートに包みその男は荒野に降り立った。
「待っていたぞオメガリベリオン!今日この場こそが貴様らの墓場となる!そしてケイン、お前は俺の物となるんだよグエヘヘヘヘ!」
ケインとは、最初に鬼邪殺戮怒とメイドロボに助けられた子供の一人で、かつてはケイトと言う名前だったのをケインと名乗るようにしたものだ。
オメガリベリオンの戦列から一人、ケインが歩み出た。
「くたばるのはお前だゲロゴリラ。その前に気持ち悪いからいい加減人のケツを狙うのを止めろ」
「あァア~~~~ン?てめえら下等なオメガは大人しく俺様達アルファの子供を孕んでりゃアそれで世界は丸く収まるんだよオ!」
堂々とした体格に筋肉を搭載したオメガリベリオン討伐隊側の隊長は、これまでに何度も戦いを交えて来た因縁の相手と言える。
なおこのゲロゴリラは仇名とか悪口ではなく本名であり、アルファらしく見た目も毛に覆われた耳など狼の獣人としての特徴の強く出た姿をしている筈なのに第一印象も第ニ印象もゴリラである。
第三印象ぐらいで「あ、狼っぽいかな」とやっと出て来るがやっぱりゴリラと言うレベルだ。
「お前らは全殺しだが、万が一生き残ってたら孕み袋としてブッ壊れるまで使ってやるぜエ!特にケイン、お前は海の見える白い家の地下室で丹念に○○の××まで可愛がってやるよ!」
海が見える白い家の必然性が全くない言葉を吐きながら、ゲロゴリラはコートを勢いよく脱ぎ捨てた。
下から現れたのは単に鍛え上げたというだけの筋肉ではない。
優れた肉体的才能により通常の限界を超えた強化手術にさえも耐え切った事を示す、幾つもの金属パーツやエネルギーラインが肌に浮かんでいたのだ。
まさに獣の咆哮と共にゲロゴリラの拳が地面を叩くと、半径数十mにも及ぶ蜘蛛の巣状の亀裂が生み出された。
それを合図として激しい大規模戦が始まった。
オメガの使う攻撃魔法は既にある程度対策がなされており、エネルギーフィールドや対魔法に特化した装甲コーティングのある装備がオメガリベリオンとの戦いに投入されていた。
しかし銃器などとの併用、知覚拡大魔法による疑似的な未来予知、さらに圧倒的な質量で殴る系統の魔法など魔法を使える事によるアドバンテージが揺らぐわけではない。
だが今回の統一政府軍は本気だった。
志願者に対し後戻りできない改造手術を施した強化兵士、自爆攻撃、更には戦略衛星レーザーさえも解禁したのだ。
レーザー衛星に関しては直前に得ていた情報をもとに鬼邪殺戮怒が直接破壊しに向かっていたが、三基のうち一基について墜とす前に照射を許してしまった。
戦場全体を抉る閃光を魔法障壁で防いだもののオメガリベリオンで立っている者はケインのみ、討伐隊ではゲロゴリラだけが戦える状態となっていた。
「さぁ~て決着の時だ。乳首と股間に穴の開いた素敵なボンデージウェディングドレスをケイン、お前のために仕立ててやったんだぜエ?生きてたら俺様の手で直々に着せてやる。死んじまったら・・・やっぱり着せて愛してやんよおおおお!」
「頭の天辺から足の先まで気持ち悪ィんだよお前はあああ!」
パワーのピークで正面衝突する二つの拳、そして・・・弾き飛ばされたのはケインだった。
ゲロゴリラの拳はリミッターを解除したことを示す激しい光を放っていた。
更なる息もつかせぬ連撃がケインを襲った。
「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオ(息継ぎ)ッッラオラオラオラオラアアアアアア~~~~~ッ!!!!!」
「・・・っぐウ!」
一方的に押し込まれるケイン。
その時、オメガリベリオン側から声が上がった。
「私達の事はいい!」
「そうだ、立っているのはお前らだけだ!後ろを気にする必要はねえ!」
ケインは隙を見て跳躍し、一旦ゲロゴリラから距離を取った。
「おやとっとと休憩か早漏ケインくぅ~ん。だがそんなところも可愛いぜエ」
そんな挑発など聞こえていない様子で眼を閉じ集中するケイン。
やがて「イヤーッ!」と言う気合と共に開眼すると、バンプアップした肉体が戦車砲にも耐えるバトルスーツを中から弾き飛ばした。
集団戦におけるケインの役割は、いわゆる前衛のタンクだ。
自らを強力な力場魔法で覆い、味方への攻撃を弾くと言うのが彼の戦い方だ。
しかしそれは本来のものではない。
「何だ、ハッタリか?俺様好みではあるがなア!」
「ハッタリかどうか・・・その身で確かめろ!」
ケインが繰り出したのは、接近してのただの正拳突きだ。
ゲロゴリラにとっては目に追えない速度のステップだったが反応出来ないほどでもなく、余裕をもって両腕をクロスして受け止めた。
だが。
「っぐおわあッ!?」
丸太の様に鍛え上げられた上に改造まで受けた腕が、弾かれた。
当たり負けたのはゲロゴリラの方だったのだ。
タンクとして味方を守るための力場魔法は、同時にケイン自身の動きもまた大幅に阻害するものだった。
その軛を解き放ったのが、今の彼だ。
ケインの本領は魔法すらも頼らぬ、二つ拳のアタッカーなのだ。
「あの人に追いつきたくて振るい続けた拳だッ!お前如きに防げるかああああ!」
一瞬のうちに十発、その全てが必殺の一撃。
「ごっへあああああああ~~~!」と吹き飛んだゲロゴリラは変な汁を垂らしながら岩に激突してそのまま貫通、さらにいくつか岩を破壊して漸く止まった。
「キュン・・・と来たぜエ・・・」
そう言い残してゲロゴリラは地面にずるりと落ちた。
遥か上空から、それを眺めていた者が居た。
レーザー衛星を破壊して、その破片の中でも分厚い物をサーフボードの様に盾にして乗りながら身一つで大気圏突入してきた鬼邪殺戮怒だ。
「見事だ、ケイン」と称賛する鬼邪殺戮怒は、別に視力強化魔法的な物などは使っていなかった。
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「あの、ケインさん。今度新しく入りたいって言ってきた奴の中に、おかしなのがいるんですが」
「おかしなの?」
このところ鬼邪殺戮怒とメイドロボはオメガリベリオンの活動に積極的に関わらず、呼ばれたらヘルプで向かうが殆どの事は現在の幹部に任せて独自に何かをしている状態だった。
そして実質リーダーとして目され、その役目を負っているのはケインだった。
呼ばれたケインが早速向かうと、そこにいたのは確かに妙な人物だった。
見た目で男女が分かりにくい程華奢な体格と幼めな見た目は、確かに鬼邪殺戮怒式特訓を受けていない自然状態のオメガ特有の物だ。
しかしその人物は、同時にアルファの特徴である狼の様な耳をしていた。
アルファにこの特徴が現れるのは凡そ第二次性徴あたりで、仮に件の人物がオメガではなく見た目通りの年齢のアルファだとしたら耳が少し発達しすぎている。
ケインを見て取ったその人物は、突如として甘えるように抱き着いて来た。
「あっ・・・ケイン、会いたかったよオ~!」
「ま、待て!俺はお前なんか知らんぞ!」
「うわ、あんな可愛い子に慕われてて知らねえとか」「サイテー」などと勝手な事を言われても、知らないものは知らないためにケインは混乱するしかなかった。
「あ、そうだよね。この体になってから会うのは初めてじゃあ分からないよね」
「お前さっきから何言ってんだ!?」
「ボクだよ、ゲロゴリラだよ!」
・・・それから数秒間、完全に空気が凍り付いた。
「「「「「はああア~~~~~ッッ!?」」」」」
ようやく動き出した時間の中、自称ゲロゴリラは続けた。
「なんかケインに負けてから下半身のキュン♡キュン♡がとまらなくなってね。で、一晩寝たらこんな事になっちゃってたんだよ。ボクをオメガにしたの、ケインなんだよ?責任取ってくれるよね?」
そう中性的な美少年または美少女の顔を蕩けさせる自称ゲロゴリラは、確かに太い眉毛や耳、髪型などにゲロゴリラと同じ雰囲気が無きにしもあらず、とは言えた。
鬼邪殺戮怒とメイドロボも、たまたまではあるがその様子を目にしていた。
「・・・スゴイネ人体」
『・・・やべえよの方かもしれない』
そんな周囲の様子を尻目に「一緒に住む家は海の見える白くてかわいいのがいいな」などとのたまうゲロゴリラ。
皮肉にもケインはその言葉で、目の前で微笑むカワイイの擬人化みたいな存在が確かにゲロゴリラ本人である事を確信したのだった。