鬼邪殺戮怒≪キャサリン≫が案の定超生物Ωになった - その2・オメガはオメガでもそっちのオメガだがな!
メイドロボの魔法により空を飛び、俺達10人ほどはセントラルシティを遠くに臨む原野にフワリと降り立った。
俺も魔法は使えないではないがコイツ程パワーにもコントロールにも優れている訳ではなく、ここまで丁寧な制御は無理だ。
この世界では人は基本的に隔離された都市に棲み、それ以外の場所は自然が豊かを通り越して危険な野生の世界となっている・・・らしい。
この世界の子として実際に来たのは初めてだからな。
地球最強の男としての前世の記憶を取り戻す以前の事が思い出されるが、オメガのガキの扱いがどういう物か骨身に染みて思い知る日々でもあった。
まともに学校にも通えておらず、暫く知識面はメイドロボ頼りとなるだろう。
連れてきたオメガの子らを見る。
一様にこの世そのものに絶望しており、感情の動きが少ないように見える。
このオメガバースに於けるオメガがそもそも「虐待されるため」に存在するような物で、それが閉鎖された都市環境に居たらこういう事にもなるのだろう。
大人しく付いてきたのも助かりたい、と言うのではなくただ単に連れてこられたから来たと言うような状態だ。
その中で一人だけ、比較的大きな驚きと怯えを俺とメイドロボに向けている少年が居た。
「な・・・何なんだよお前ら。どうしてこんな事、い、いくら強くても・・・どうせ、ぼくたちなんか・・・」
確かケイト、と言う名前だったか。
俺とメイドロボは一瞬視線を合わせた。
感情があるならまだ心が絶望していない、生を諦めていないと言う事だ。
悪い傾向じゃあない。
どうして、という問いへの答えはシンプルの極みだが、返答の前にまだやる事があるようだ。
空から聞こえる小さなモーター音。
・・・3つか。
追手が放った銃器搭載の無人ドローンだ。
思えば本格的な機械オンリーの兵器と言うのは元の世界でも戦った事は無かったな。
その生物的な気配の薄さは敢えて言うとゴーレムなどの魔法生物に似ているが、量産工業品であるためか作り手の意図や感情も捉えにくく、気配と言う点ではより感知が難しいようだ。
まあ、準備運動にもならんが。
俺は右腕に魔力を込めながら、ドローンが飛来する方を向いて軽く飛び上がった。
「ナァーックル・・」
『待った!回収するから原形は残して!』
メイドロボがピリピリする何かを発しながら叫んできたので、俺は瞬間的に拳の勢いと魔法の出力を同時に絞った。
「・・・ブラスター(弱×3)」
光の弾丸が闇に紛れたドローン3機を殴りつけた。
墜落を始める前に地上のメイドロボが腕からワイヤーを射出し捕獲、これ以上傷つけないように丁寧に回収を果たした。
『ジャミングを入れたからあんたが手から魔法を出す映像は送られなかったとは思うけど・・・人間離れしたジャンプは見られたかもね』
「構わん、どうせ殴る時期が早まるだけだ。それより何をするつもりだ?」
『ちょっと待ってねー・・・ホホホイッホイのホイ、っとOK。AI洗脳完了で発信機も潰したしこれで完全に私達の味方よ。場合によっては私の修理パーツにも使わせてもらうわ』
彼女もいつぞやの乙女ゲームの世界で初めて会った頃に比べたら随分と逞しくなったものだ。
『・・・あー、発信機か。この世界の人間はみんな生まれたらチップが埋め込まれているはず、それで場所がバレたのね。でももう安心よ』
言うなり右手からドローンに伸ばしたのとは違う無数の注射針の様なワイヤーが飛び出し、連れてきたオメガの子供たちの胸にチクッと刺さった。
「ひいっ!」
『これで完全に無効化したわ。そのうちカサブタみたく胸の皮膚からポロッと落ちると思う』
・・・本当に逞しくなった。
「・・・俺の発信機は取らないのか?」
『最初に組織のチンピラ殴った時に皮膚突き破って飛び出てたわよ』
そう言えばいつの間には俺の胸に小さな傷が付いていたが、これだろうか。
そうこうしているうちに、若干放置気味だったケイトが声を荒げた。
「い、いい加減にしてくれよ!こんな事やったって何にもならないんだよ!どうせそのうち捕まって余計酷い目にあうだけなのに!ぼくたちはどうせオメガなんだ、アルファにもベータにもなれやしないんだ!」
「・・・そうだな、オメガはオメガだ。アルファでもベータでもない」
『ちょま、お前!』
血を吐くような叫びを否定されなかったケイトは、一瞬たじろいた。
他のオメガの子供達も僅かに動揺したように見えた。
「・・・だからこそ、誰よりも強くなれる」
「『・・・・・・は?』」
魔力の感覚を鬼邪殺戮怒とかの記憶と共に取り戻したのは人買いどもに捕まって収容されてからだが、そこで初めて分かった事がある。
この世界ではアルファにもベータにも、魔力は無い。
しかしオメガにだけは潤沢にある。
『ソーサリーアカデミー~恋の魔法に掛けられて』の世界なら皆入学試験が免除されて返済不要の手当ても出るレベルだ。
そしてこの世界の中、俺もメイドロボも問題なく魔法が使えている。
つまり正しい技術さえ手にすれば、この世界のオメガは恐ろしく優れた魔法の使い手になり得るのだ。
「無双する、と言う言葉が今の使われ方をし出した起源を知ってるか?」
『確か・・・一軍の将とか指揮官自らが切り込んで敵をバッタバッタなぎ倒す例の有名ゲームシリーズよね』
「その開発チームの名前を知っているか?」
『・・・オメガ・・・○ォース・・・。こじつけじゃねーかこの野郎』
本当にゲームの話はこいつには通りがいいな。
その通り、単なるこじつけに過ぎない。
だが人に力を与えるこじつけならどれだけ強引で子供じみた物でも、冒険者が洞窟の奥で見つけた金銀財宝と同じように価値があるものだ。
世界の深淵を見て来た偉そうな学者の語る真理が人の生きる力を奪う物なら、無理矢理口をこじ開けて毒を飲ませる程度の意味しかないのと同様に。
俺は黄金に輝く魔法の火を拳に灯し、天高く掲げた。
「オメガとは無双者、そしてこのクソみてえな世界の終極者だ!お前らに最早帰る家は無い、だが新しい世界を切り拓く事が出来る!これがその特大の狼煙だ!」
手加減なしに魔力を込め凝縮した魔法弾を天に向けて飛ばし、そこにナックルブラスターを打ち込む。
衝撃を伴う黄金色の巨大な閃光が、夕闇に沈もうとする荒野を照らし出した。
絶望以外の色が浮かんでいなかった子供達の表情に初めて、驚きと同時に意思の光のようなものが射した。
ほんの少しの変化に過ぎないが、今はこれでいい。
いずれhグハッ!
『くおぉるるるあぁぁぁぁぁぁ!折角追手を撒いたってーのに何してくれちゃってんのこンのクソッタレ脳筋野郎が!』
「・・・あ」
その後投入された無人機の軍団を沈黙させるためにドローン一機が撃墜されたが、代わりに歩行戦車タイプが数台手に入った。
悪い事をしたとは思っている。