素敵な場所
「来週の週末どこ行こっか?」
秋の見どころ特集なる雑誌を、左手で頬杖つきながら右手でペラペラとめくる君。
「先月は遊園地に行って大はしゃぎしちゃったから、何処か落ちついた素敵な場所がいいな!ねぇ、何処かオススメな素敵な場所ないの?」
いやいやいやいや、そんな期待の眼差しでニコニコしながら僕に問われたってねぇ……。
答えに困った顔の僕に、少しだけご機嫌ナナメになる君。
「もぉ~、いっつも行先決めるの私よね!たまにはさ、サラ~ッとどこかに私をエスコートしてよ!素敵な場所の一つや二つ思い浮かばないの!?」
マグカップの少し冷えてしまったアップルティーを一気に飲み干すと、荒っぽくカップをテーブルに置く。
このままではマズいと思った僕は、僕が思いつく素敵な場所の話を彼女にする事にした。
「素敵な場所ってさ、人によって違うと思うんだ。感じ方も捉え方もね。男性女性によっても全然違うとおもう。だから僕が思う素敵な場所って定義が、もしかしたら君には理解出来ない場所かもしれない。だけどその辺も踏まえて聞いて欲しい。」
珍しく真剣に話す僕に少し驚きつつも、黙ったまま次の言葉を待つ君。
「僕が素敵だと思う場所はね……全てだよ。」
"え?何言ってんのこの人?"
って顔で僕を見るのやめてくれって!
「何ロマンチックっぽい事言って誤魔化そうとしてるの!?」
いやいやいやいや、まだ話は途中だから!
「取り敢えず最後まで話を聞いて。あのね、僕が思う素敵って定義はさ、今君が読んでる雑誌に載ってる様な場所じゃないんだ。勿論、その写真の場所は僕だって素敵な場所だと思うよ。でもそう言う事じゃないんだ。僕はさっき全てが素敵だっていったよね?この部屋も素敵だし、さっき買い物に行ったコンビニも素敵だよ。それは何故か?なんかもう凄く恥ずかしくてね、こう言う事あまり口に出して言いたくないんだけどさ、僕はね、君がそこにいれば全てが素敵な場所になるんだよ!だから態々何処かに行かなくたって、君がそこにいるならば、僕にとってそこは特別な素敵な場所になるだ。」
言ってしまった。
なんか凄く目を丸くしてこっち見てるんですけどね、なんか言って!僕は今とっても恥ずかしい告白をしたんだからさ…せめて笑うなり怒るなり、ね?なんかリアクションしてくれると助かるのですが…。
さっきまでペラペラペラっとめくっていた秋の見どころ特集なる雑誌をおもむろに閉じると、突然彼女が話し出す。
「来週はこの部屋でゆっくりしよっか!映画観て、二人で食材の買い出しに行って美味しい夕飯を食べるの!たまにはいいでしょ?」
機嫌を損ねてしまったかな?
僕は恐る恐る彼女に問う。
「素敵場所、行かなくていいの?楽しみにしてたでしょ!?」
すると少し声を荒らげて彼女が言う。
「私がいればそこが素敵な場所になるんでしょ?私だって同じなのよ。どんなに素敵だと言われる場所だってさ、君が一緒にいなかったら私にとっては素敵な場所にはならないの!もぅ、恥ずかしいんだからみなまで言わせないでよ!」
いやいやいやいや、君は僕にみなまで言わせたよね?
何だか少し可笑しくなって笑いだした僕。
それを見て真っ赤になって怒る君。
こんなやり取りもね、僕にとってはとても素敵な時間なんだよ。
そんな事を考えながら、いつまでも素敵を共有出来る二人でありますようにと願った僕でした。