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勇者の剣も使い捨てだなんて!  作者: さわもとちひろ
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アリシアの汚点

プロローグです。

かわいい女の子は次の回からです。お楽しみに。

 七年前。魔族の住まうヴァナの谷に常軌を逸した力を手にした魔人がいた。

 魔人は他の魔族や魔物を従え、破壊と侵略の限りを尽くした。


 やがて座視できなくなった冒険家ギルドは、魔族に全面的に抵抗し、退けるための戦力をアリシア全土から募った。

 勇気、力、実績のある冒険家が集い、魔族討伐軍が進撃を始めるまでにそう時間はかからなかった。剣術、武術、魔術、様々な戦闘分野のエキスパートが集まったことでできたドリームチーム。

 破竹の勢いで侵略された街や村を次々と取り戻し、奴隷にされた人々や捕虜を解放していった。


 終戦後、【アリシアの汚点】と呼ばれ侮蔑されることになる男、ウル・クラヴィスもまた、その類稀なるスキルと圧倒的な戦闘力で戦場の最前線で、その命を賭して戦っていた。


「最高の剣ができました」


 ある日、魔族討伐連合軍に協力していた鍛冶職人たちが、冒険家ギルドの本部に一本の剣を持ってやってきた。

 それは、ユニコーンの角と鎧竜の鋼鱗こうりんを元に打たれたこの世に類を見ない最高の一振り。のちに勇者の剣と呼ばれる名剣。


 絶大な力を持ったこの剣があれば、これまで以上に魔族を圧倒でき、ヴァナの魔人に対しても優位に立つことができる。

 冒険家ギルドは、直ちにこの剣を使いこなせる者がいないか、剣術に優れた冒険家たちを集めて順番に握らせ、そして振るわせた。


 しかし――


「なんだこの剣は……」

「まったく力が引き出せない」

「本当にこれが勇者の剣なのか? ただのなまくらじゃないか」


 誰一人として、その力を引き出せずにいた。

 そして、冒険家の半分が諦めて剣から手を放したころ、その男、ウル・クラヴィスがしびれを切らした。


「俺がやる」


 その場に集った冒険家たちを押しのけ、ウルは前に出る。

 そして、勇者の剣の柄を強く握った。その瞬間、剣は淡い光を放つ。光は徐々に強くなり、やがて眼を覆うほどの大きなものとなった。


「やめろウル・クラヴィス! お前がその剣を振るったら!!」


 勇者の剣は、自身の持つスキルをすべて解放し、研いでもいないのに切れ味を増していった。

 ウル・クラヴィスのスキル。それは手にした武器の能力を極限まで開放し、一撃にすべての力を乗せることができる。

 その代わり――


「この剣ならきっと、応えてくれる。大丈夫だ」


 ウルは、誰もいない壁に向かって剣を振り上げる。

 そして、周りの制止も聞かずにそれを振り下ろした。


 きれいな弧を描いた軌道から爆風のような斬撃が飛ぶ。斬撃は床を抉り、爪痕を残しながら駆け抜け、壁にぶつかっても止まることなく破壊を続けた。

 壁を突き抜けた斬撃は、その後も地面を削りながらしばらく進み、やがて静かに止んだ。


「なんという威力……」


 その光景を目の当たりにした冒険家や鍛冶職人、ギルド関係者たちは穴の開いた壁の先を見て唖然とするほかなかった。

 しかし、すぐに視線は勇者の剣へと移る。それは、ウル・クラヴィスの持つスキルのことを知っていたからだ。

 それは、ウル本人も同じことだ。


「そんな……」


 自分の手の中で勇者の剣が折れ、朽ち果てていく様を目の当たりにして、ウルは膝を折り、冷たい床に両手をついた。


 ウル・クラヴィスのスキル。それは手にした武器の能力を極限まで開放し、一撃にすべての力を乗せることができる。

 その代わりに、武器はおよそ一度の戦いでその力を出し切り、朽ち果てて行く。

 それは、どんな名剣であっても同じこと。


 勇者の剣であっても、使い捨てにしてしまうという呪われたスキルだ。


 勇者の剣を失った魔族討伐連合軍は、ヴィラの魔人を討つまでにさらに一年以上の月日を要した。

 無駄に積み重ねた月日は、被害者の山も同じく無駄に積み重ねることとなった。


 そして、希望であった剣を失わせたウル・クラヴィスを、人々は【アリシアの汚点】と蔑み、魔族討伐軍から追放し、冒険家として生きる道をも閉ざしてしまった。

 


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