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短編小説集

ハッピーエンドなんていらない

 「あ! ◯◯君!」

 


 あぁ……



 「もう、◯◯君ったら」



 また………



 「あのね……◯◯君……」



 私はまたこうして、君に愛想を振りまいている。

 一体何回目になるのか、覚えてすらいないし覚えようともしない。

 でも仕方ない、それが、私たちヒロインキャラクターの役割だから。



 恋愛シミュレーションゲーム、私はその中の攻略キャラクターの一人。

 私たちは、プログラムを映し出すディスプレイと同じく設定に従って姿も顔も身長さえも分からない主人公の男の子生徒とこうして仲を深めている。



 私はその中の一人、勿論他にも多数の女の子はいる。

 数人程度の物から、数十人の大所帯まで様々。

 そして今私は、主人公の男の子と親密な関係になるところまで親愛度を深められている、そしてこれから私は重大なデートイベントに行かなければならないのだ。



 「ごめん、待っちゃった?」



 なんて、わざと数分遅れるように行動していたんだけど、そう言わなければならないから仕方ない。

 私だって本当なら待ち合わせ時間より少し前に来たい、人を待たせるのは私の本意ではないし設定に添っているわけでもないから。



 それでもデートという楽し気なイベントはこちらとしても楽しまなければ損というもの、だからせめて思いっきり楽しむ。

 夕暮れ時になれば、私たちの仲は良い具合に深まってこれからの進展に大きな一歩を刻むことが出来る、その分他のヒロインたちからの圧力が高まるんだけどそこは仕方ない。

 私だって仲良くなった男の子が他のヒロインとイチャイチャしているのは見ていて楽しいものじゃない、つまりはそういうこと。

 そしていくら親密な関係になっていても、男の子はたまにとんでもない選択ミスを犯す。それが一度二度なら私や他のヒロインたちからの好感度が少し下がるだけで済むのだが、度重なれば取り返しのつかない事態に陥ることになる。



 そう、バッドエンドルートだ。



 でも男の子には奥の手がある、バッドエンドルートが確定すれば最悪の事態は免れないがある()()でその状況は文字通り無かったことになる。



 セーブ&ロード、この手のゲームの常套手段。

 攻略対象である私たちヒロインの全てのルートあるいは見たいルートを回収するために使われる手段でありこうやってバッドエンドを回避するための手段でもある



 だがそれは、ロードする前の無数の私という個人を見捨てるということと等しい。

 たった一人の最良の個人を獲得するために、無数の失敗した個人を切り捨てているのだ。



 それでも私は、あなたに笑顔を振りまくの。

 今この瞬間だけは私は私というたった一人の個人として生きていられるから。

 そして私は、男の子と唇を重ね合わせて愛を語らい、全てを曝け出して肌を重ね合う。



 こんなものがハッピーエンドだなんて私はこれっぽっちも思わない。

 いくつもの私を犠牲にしてまでつかみ取った幸福など、一体どこがハッピーなのだろうか、それでも私は彼に愛されそして愛している。




 きっと、この彼も無数の彼の内の一人なのだと思うけど、今は、そんなこと野暮というもの。




 私たちに、ご都合主義(ハッピーエンド)なんて似合わない。

 そんなものこちらか願い下げだ。

 でも、そんなものなくても、私たちは構わない。



 だって、もうそんなもの必要ないから。

 たった今の幸せ、それこそが私が手に入れたたった一つの幸福論トゥルーエンドだから。

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― 新着の感想 ―
[良い点]  シュミレーションゲームの中の、ヒロインが主人公のお話。なんだか赤裸々で新感覚!  そうかあ、中の人物からしてみたらそんな風に思うのかあ。不思議。  とっても読みやすく、感情移入しやす…
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