第五話 一応今後を考えよう
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サブタイトル変更
とある日の平日の昼下がり。
マンションの目の前に作られた公園は誰もいない。木々が風に揺られて心地よい音を出し、のどかな雰囲気⋯⋯⋯⋯のはずだったのだが、そこの木の船が緑の生物の死体と血で、まさに地獄絵図と比喩すべき世紀末なヒャッハー状態になっている。
こいつはひでぇぜ。
「ところでダイアー⋯⋯この地獄絵図とかした子どもの遊び場をどうすればいいんだ?」
「はっはっは。ゴブリン四体が仲良く死んでるぐらいで地獄絵図とは臆病な奴だな」
仲良く死んでるって何だよ。物騒すぎるなおい。しかしこのままじゃ面倒なことになりそうだ。あの手を使うか。
「あー可哀想に。この地獄絵図を見たら、この国の警察がお前ら四人を捕らえに来るだろう⋯⋯いや、自衛隊かもしれんな。どうでもいいが。それと、この状況がなんとかなったら俺がこの世界での生活を支援してやろうと思ったんだが⋯⋯必要ないみたいだな」
「さて、冗談はさておき⋯⋯ロア、アリシア、アンヘル。片付けをしようか」
「「「はい」」」
全く⋯⋯もしこの地獄絵図を誰かに見られたらどうするんだ。あいつらが捕まるとは思えないが、面倒ごとに巻き込まれてしまいそうだ。エルフ&ゴブリンなんて日本の方々に見られたら、速攻モルモットだろーな。
「煌夜」
震えた声がする。
ネタルだ。
「ん?なんだネタル」
「煌夜はあれを見て怖くないの?」
⋯⋯?確かに言われてみれば全く恐怖なんてないな。ふつーの人間だったら腰を抜かしそうなんだが⋯⋯なんでだ?昔になんかあったような⋯⋯⋯⋯。
「ぐっ⋯⋯」
何だ?
頭が痛てぇ。
「大丈夫煌夜?」
「大丈夫だ。内心怖かったんだと思う」
煌夜は走馬灯のように『オモイデ』が脳を駆け巡った。その『オモイデ』は全体的に赤い⋯⋯黒い⋯⋯そして一筋の光があった。
適当にネタルを誤魔化して自分を落ち着かせた。
「痛てて⋯⋯。アリシア、コイツらどうにかなりそうか?」
煌夜は急な頭痛に顔をしかめるも、何とか持ちこたえてアリシアに進行状況を聞く。
「ああ、多分大丈夫だよ。ちょっと嫌だったけどアイテムボックスに死体を入れたし、血も水魔法で分離してる最中。あと五分ぐらいで完了かな?」
「サンキュー」
エルフ達四人の、ダラダラとしたそこまで早くもない作業によって、元のボロい木の船に戻っていった。幸いにも、この平日にこの公園に訪れる暇人は煌夜とネタルぐらいしかいなかった。
「さて⋯⋯まずは俺の住んでるマンションに来てほしい。そこで今後の予定を立てよう。ちなみにここ、俺のマンションだから、空き部屋に住んでいいぜ?」
ふぅ。
現状を確認したいから俺の部屋に来てもらうことにしたが⋯⋯。俺の部屋、掃除しといてよかったー。今日だったらドン引きされるところだった。
「ここがコーヤさんの部屋ですか。色々と見たことのないものがたくさんありますね」
「まあ、日本だし」
「これからの予定を立てるって言ってたけど〜、どんなことをするの〜?」
どんなことか⋯⋯色々とありすぎて煌夜、困っちゃう☆
キモいですよねすいません。
それは置いといて、なんやらかんやらあるわけだ。メンドすぎる。
説明するのに知らないことが多いからな⋯⋯こんなときは、あいつに秘技丸投げを発動しよう。
「なんか説明するのに知識が足らんから、ネタルよろしく」
「僕が?まあいいけど」
ネタルは情報通だし、なんとかなるだろう。
「まず、日本の戸籍を入手しなければならないんだ。分かりやすく言うと日本に住んでいる証⋯⋯かな?あと⋯⋯保険に入ることをオススメするよ。入れるかどうかわかんないけど。最後にみんな嫌いな税金だよ。これを払わないと捕まるから、ちゃんと手続きしないとね」
「成る程わからんな」
「私もさっぱり〜」
「私はなんとなくわかったけど⋯⋯」
「僕もですね」
全員が全員口々に喋るので、よく分からない状態になっている。
「まあ、戸籍とって税金払えば何とかなるから」
スーパー大雑把だな。保険はどこ行った?必ず入んなきゃならないやつがあったような無かったような⋯⋯。
まあいっか。
その後煌夜は、空いている二つの部屋にアリシア・ロア組と、ダイアー・アンヘル組に分けて寝てもらうことにした。布団が無かったので、近所にあるホームセンターで買いに行ったらしい。
高めの布団が四つ、店から消えたとホームセンターでちょっとした騒ぎになったらしいが、煌夜達はそんなことは知らない。
もちろん俺とネタル以外の『人間』はアイテムボックスで万引きしたなんて知らないからな。けど、もうしないようにしよう。ホームセンターの人が可哀想になってきた。
「じゃあお休み」
煌夜はそう言って扉を閉めた。四人は、教えられた部屋に向かった。
〜ダイアー&アンヘル〜
マンションのとある一室⋯⋯
「大丈夫なんですか?どこの馬の骨か知らない奴の家に転がり込んで」
「大丈夫だ、心配すんな。優しい奴だったではないか。それに、もしなんかあったとしても、俺らには魔法があるんだ」
「まあ⋯⋯そうですね。しかし、まだ完全に信用するには事足りません。しばらく様子を見ましょう」
「はっはっは、お前は心配性だな。そういえばこのナイフ返してなかったな。明日返すか」
そんななまくら返されても、すぐ捨てると思うんですが⋯⋯。
そんなことよりコーヤ⋯⋯。
いい人だといいんですが。
見知らぬ虫の鳴き声を鬱陶しく思いながら、アンヘルは考えていた。
エルフ族が人間に遭遇すると、大抵奴隷にしようと襲われる。それをしないのは、無邪気な子供だけである。それが、元いた世界のエルフ族の常識であった。
アンヘルは、そんなことが起こりそうでハラハラしていた。
「これが杞憂だったら楽なんですがね⋯⋯」
アンヘルはため息をついて、少し微笑みながら、呟いた。
〜ロア&アリシア〜
私は異世界らしい国、日本の住居にいる。マンションと言う、見たこともないくらい建物だ。ちょっと前にコーヤが「刃物を持ってなくてよかった。それがあったら捕まって面倒になる」と言っていた。武器が要らない⋯⋯つまりそれだけ治安がいい国⋯⋯私はそう思いたい。
しばらくはコーヤ達に頼りきりになりそうだけど、いつか私達だけで生活できるようになりたいと思う。
それができる前に帰れると嬉しいかな?
「これでいいかな?まさかこんな綺麗なノートと書きやすいペンがあるなんてね」
アリシアは日記を書き終えて寝転がった。そこにロアが現れ、日記を覗き見た。
「へぇ、アリシアちゃんって日記帳とか書くんだ〜。ちょっと意外」
「そうかな?時々書くんだけど」
「この日記帳に書いてあるみたいに、早く帰れるといいね」
「そうだね、ロアさん」
だけど、その手がかりが全くないし、気長にここで生活するしかない。驚くことばかりだけど、慣れていかないと⋯⋯。
お読みいただきありがとうございました!!