十七話 余裕?な編入試験
今回は少し短いです。
「始め」
試験官の声が狭い個室に響いた。今回編入試験を受けるのは合計六人。その中には、アリシアとアンヘルもいる。彼らは努力してきた結果を出しきるため、ペンを握り、ひたすら問題を解いていく。
一教科目は国語だ。漢字や慣用句等で確実に点を取り、長い文章から読み取る問題もクリアしなければならない。
しかし、始めからアリシアはつまずいていた⋯⋯。
(翻訳の指輪を使って漢字はほとんど覚えたけど⋯⋯慣用句までは十分に覚えられてなかったわ。はぁ、どうしよう)
早くも焦りの色を見せるアリシアだったが、それに反してアンヘルは余裕の表情で問題を解いていった。
(これは⋯⋯画竜点睛を欠く⋯⋯少し難易度が高いですが⋯⋯僕にとっては余裕ですね)
こうして国語は終わり、次の教科の数学。様々な公式を操り、問題を解いていく⋯⋯だが、死角から狙いを定めるように難解な問いが飛び出し、受験者を苦しめていた。
(面積⋯⋯ですか⋯⋯ここのx座標が9であるから⋯⋯しかし⋯⋯だめですね、全くわかりません。油断していましたか)
死角から飛び出した問いに貫かれたアンヘルは、中々その先に進めないでいた。
けれども時間は過ぎていく。解けない問題は後回し。基本中の基本。そして次へ進むアンヘルだったが⋯⋯
『次の球の表面積を求めよ』
(しまった⋯⋯)
次の問いは表面積を求める問題なのだが、アンヘルは球の求め方を忘れてしまっていた。
(4π⋯⋯いや、4/3π⋯⋯せっかくのサービス問題が⋯⋯)
基本中の基本の公式を忘れてしまい、悔しい気持ちを抑えきれず大きなため息を吐いた。試験官に少し睨んだように見られてしまい、アンヘルは思わず下を向いた。
こうして試験は社会、理科、英語と続き⋯⋯
「やめ」
という試験官の声で五教科目の英語が終わった。アリシアがアンヘルの方を向くと、アンヘルは自信ありげな表情をしていた。英語は良く出来たようだ。
(まあ、英語は腕時計に仕組んだ翻訳の指輪で、満点は確実なんだけどね。多分⋯⋯)
流石にこんな短い期間で覚えるのは無理だったので、腕時計に翻訳の指輪を仕組んである。もちろんカンニングである。だが、こうでもしないとほとんどの文章が読めないので仕方ない。
こんなのを一時間で作るなんて、ワタルは器用だなぁ。
それから数分後、時刻は十二時半。お昼になればお腹がすく。二人は、どこに行くか話し合っていた。
「さて、どこに行きますか?アリシア」
「そうだね⋯⋯どこがいいかな?」
そういえば試験を受ける前に見た喫茶店。ちょっと気になってたんだった。思い出したら行きたくなって来たなぁ。
「そうだ、向こうにある喫茶店なんてどう?私ちょっと気になって」
「結構良さそうですね、ではそこにしましょうか」
二人が入った喫茶店は、人が少なく空席が多かった。住宅地が遠いからか、近くにラーメン屋があるからか、埋まっている席は三つほどしかなかった。
「結構空いてますね⋯⋯」
「だね⋯⋯」
そんなことは気にしない。二人はウェイターに案内された席に座った。メニューを見ると、ここのランチはサラダを中心にしたものが多いようだ。とりあえず試験が終わったら連絡しろとコーヤから言われているので、カバンからスマホを取り出し連絡する。
アンヘルは、席に着いてからずっとメニューを見ていた。食いしん坊な奴だ、まったく。
「もしもし、アリシアだけど」
『ああ、アリシアか。ところで今どこにいるんだ?朝から二人がいなくなったってダイアーとロアが騒いでいてよー』
「えーと、その」
だいぶ前から今日が試験日だということを伝えていたのに、忘れてしまっているコーヤとあの先輩方にアリシアは少し呆れた。
「まさかとは思うけど、今日が私とアンヘルの試験日ってこと、忘れてたとかないわよね⋯⋯」
『⋯⋯⋯⋯ああ、ああ勿論忘れてないに決まってるだろ?今日は大事な試験日だからな』
うん、図星。絶対忘れてた。
『そんなことはまあ、その辺に捨てておいて、結果どうだった?試験の』
いや、捨てないでよ。それより試験の結果は⋯⋯
「もちろんバッチリだったよ!!」
『それは良かった。ふぅ、安心したー。ちょっと今日の晩飯はいいのを食わしてやるから、期待しとけよー』
コーヤにも喜んでもらって良かった。それと今日の晩御飯は期待しとけって⋯⋯どんなのかな?楽しみ。
アリシアが電話を終えると、アンヘルがパンとスープとサラダのセットを食べていた。
「いや、いつの間に注文したの!?」
ネタル「そういえばカンニングって犯罪なんだって」
煌夜「マジか、知らなかった」
ネタル「見つかると偽計業務妨害っていう罪に問われるみたいだよ」
煌夜「なるほどな。この回ではカンニングしてるけど、絶対にやっちゃダメだからな?分かったか?」
ネタル「煌夜、誰に向かって言ってるの?」
煌夜「さあ、誰だろうな」
お読みいただき、ありがとうございました!!