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三竦みの魔王がいる世界の物語  作者: 史塚 晃
第一章
5/29

05話 王都へ


 ――

 凶報を聞いた。

 多分、人生で一番の。

 どうか……どうか、無事でいてください。

 ――


 カズキ・ラフィル・フクスの三人は、用意された馬車へと急いだ。

 その道すがら、現在判明している事の確認をとっている。

 わかっていることは、オルロと妻のラーザを乗せた馬車が魔物に襲われたいう事、この通信は昨日の夕方に発信された事の二つだけで、安否を含むその他一切のことは何も判明していない。

 この世界の通信は現代でいう電報に近いもので、まず、発信者が伝えたいことと伝えたい相手の所在地を近くの通信施設へ伝える。

 相手の所在地を確認した施設の係員が、相手側に一番近い施設へと通信を送る。

 そこから更に、受信した側の係員が届け先を確認して通信内容を手紙へ書きそれを届けるという、えらく手間のかかる方式だ。

 通信施設は王国が所有しており、いわば公共機関で個人で持つことは禁止されていた。

 発信されたのが昨日の夕方だということは、必然的に事故が起こったのはその前ということになり、最低でも丸一日、悪くすればもっと経っていることになる。

 気持ちばかりが焦ってしまうのを、どうにか押さえ込んでいた。



 ようやく馬車の前に到着した一行はフクスに御者ぎょしゃを任せ、カズキの家を目指すことにした。

 本当はこのまま向かいたいという気持ちもあっただろうが、王都へは昼間馬車を目一杯飛ばして八時間。

 日も暮れかかってる今からでは、最低でも十時間はかかってしまう。

 やはりそれなりの準備は必要だし、なにより式典に出席していた二人は正装をしたままだった。

 途中、ラフィルを家の近くで降ろして、着替えと準備が出来てから再合流することにした。

 家の前で馬車が止まると、御者をしていたフクスがカズキへの挨拶も早々に、自分の家の方角へ走って行く。

 カズキも自室へ戻り、着替えて旅の準備をしだした。

 早くても三日、長引けば一週間の旅になる予定だ。

 その間、店を休みにしなくてはならないので、その旨を書いた紙を店の玄関先に貼ることにした。

 さきほど馬車を降りたラフィルが、身支度に時間のかかる女性とは思えない早さで、準備を済ませやってきた。

 と、思ったら荷物だけ玄関先に置いて、すぐまたどこかへ走って行ってしまった。

 次いで、準備を終えてフクスが戻ってきたので、さきほど書いた休店の張り紙を渡し、店の入り口へ貼って来るようにカズキは言った。

 しばらくすると、ラフィルが立派な馬車を引いて戻ってきた。


「今、調達できる最高の馬車を用意しました。

 これで少しは早く王都につけるはずです」


「ああ、ありがとう。

 店を休む準備はしておいたから、後はフクスが戻って来たら、出発だ」


 気が動転して動けなくなってもおかしくない状況で、二人はしっかりと役割を分担し、一秒でも早く王都へ着ける最善策を打っていた。



 ザグナルを出発をして二時間が経過した。

 後、最低でも八時間はかかるだろう。

 出発したのが午後の七時だったので、到着は明日の朝五時頃の予定だ。


「少しお休みください。

 式典では色々気を張っているみたいでしたし、

 王都に着いてからも動きまわることになると思いますから」


「そうだね、ラフィルの言うことはいつも正しい。

 そうさせてもらうよ。

 あー、フクスの今月分の給料は増額しておいて、

 彼にもいろいろ迷惑をかけたから。

 もちろん君の分もだよ」


「わかりました。お気遣いありがとうございます」


「それでは少し休ませてもらおう」


 やはり相当疲れていたのであろう。

 少し楽な体勢を取った途端、カズキは夢の世界へ誘われた。



――― 


 彼にはこれは夢だという自覚があった。

 オルロと交わした会話。

 孤児院設立の相談をしに行った時のものだった。


「なぁ、カズキ。良かったら、ワシの一族の一員にならんか?」


「急にどうしたんですか?」


「いやぁ、恥ずかしい話だが、ワシの一族には碌な奴がおらん。

 ワシがもし倒れたりしたら、

 エルの事を守ってやれるのがラーザだけになってしまう。

 あれも、かなり出来る女ではあるが、限界があるのでな」


「倒れるって……。まだ、そんな年でもないでしょう?」


「ははは。もちろん倒れる気などない。

 保険ってのは、元気な時にかけるものだよ」


「ですが、さすがに一族の一員になれと言われても……」


「なーに、分家の末席が空いているから、そこに籍をいれれば良い。

 ワシの『紋』の一員になれば、それなりの特典は受けれるのだぞ?」


「『紋』ですか……」


「そうだ。この国では『紋』は大事な意味を持つ。

 どんなに優秀なものでも、『紋』が弱ければ要職には就けん。

 つまり、『紋』に限界を決められてしまうのだよ。

 もっと言えば―『紋』に与えられた等級によって―だがな。

 逆に『紋』があるだけで、要職に就けたりするわけでもない。

 両方持つものだけが、就ける仕組みになっているんだ」


「それを私にですか?分不相応だと思いますが……」


「返事は今でなくても構わん。

 孤児院建設でこれから忙しくなるだろうしな。

 せっかく築いた財のほとんんどを投げ打って、

 孤児を助けようとする姿勢は見事だ。

 ワシにはできんことだよ。しがらみが多すぎてな……」


「いえ、私が今こうして生きているのは、オルロさんのおかげです。

 その私がやったことは間接的にはオルロさんの功績と言えるはずです」


「そういう事を言えるお前だからこそ、一族に籍を置いて、

 エルを守って欲しいと思えるんだ。

 よく考えて返事をくれ」


「わかりました。よくよく考えて、答えを出すようにします」


 夢の中のオルロも優しい顔をしていた。


――― 



 何時間くらい眠っていただろうか?と、カズキはゆっくり意識を取り戻していく。

 目を開け、斜め前を見るとフクスが寝ていた。

 途中でラフィルと御者を交代したのだろう。

 客車の外の東の空は、すでに白んで見える。

 どうやら、もうすぐ夜明けのようだ。

 何かをしていないとすぐに考えてしまう。

 オルロはラーザは無事なのであろうか?と。

 ほとんど情報のないエルリアのことも気になっていた。

 エルリアはオルロの娘で、カズキは昔彼女の家庭教師を四年ほどしていた。

 その関係もあって、彼はエルリアを愛称の『エル』と呼ぶ。

 恩人であるオルロとその家族。

 心配をするな、というほうが無理であった。

 

 

 馬車は直に王都へ着くだろう。

 到着と同時にオルロ邸へ向かいたい気持ちを、カズキはグッと堪える。

 現在朝の五時、さすがに非常識すぎる。

 二時間は時間を潰してから向かうのが、分別のある大人の行動であろう。

 その二時間で何ができるだろうか?と彼は思案する。

 まずは、馬車を止める場所を探し、夜通し走りぬいた二頭の馬を労う。

 交代で御者を務めた二人にも、疲れを取る場所を用意しなくてはならない。

 最後に湯浴みをできる場所を見つけ、身なりを整えてから行動する。

 全てを行えば二時間など、あっという間に過ぎているはずだ。




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