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三竦みの魔王がいる世界の物語  作者: 史塚 晃
第三章
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26話 ギズロの調査とラフィルの誕生日 その4


 誕生会の余韻を楽しむかのように暖かい飲み物を手に持って、三階の廊下から中庭を見下ろすラフィルの姿がある。


「誕生日おめでとう。

 今日はもう言われすぎて、聞き飽きたかな?」


 後ろからそう声をかけたのはカズキ。

 風が少し冷たかったので、自分が羽織っていた薄手のカーディガンを彼女の肩にかけながらそう言った。


「ありがとうございます」


 こういうさりげない気遣いをできる上司だとは知っているが、誕生日という記念日にされたことで、彼女は何か特別なことのように感じていた。


「聞き飽きるだなんて、ありえないですよ。

 今日はほんとにステキな誕生日でした。

 ピアノの演奏もありがとうございます」


「会場ではほとんど話せなかったから……。

 今日の余韻に浸っているんだろうとは思ったけど、

 声をかけさせてもらったよ」


 今日の主役だった彼女は常に人の輪の中心にいた。

 一方、彼の方もピアノが弾けるとばれてしまったので、色々弾いて欲しいとリクエストされてしまい会場で話すことは、ほとんど出来ていなかった。


「でも、ピアノなんて弾けたんですね。

 異世界出身だと聞いた時より、驚いたかも……」


「出身を聞いた時より……そんなに意外かな?

 そういえば、エルに知られた時も同じような反応だったな……。

 まぁ、それはいいんだ。

 これを……」


 そう言ってズボンの後ろのポケットから、丁寧にラッピングされたと長方形のものを取り出して、彼女に渡す。


「会場にも持っていってたんだけどね。

 渡す機会がなかったんだ……」


 そう言った彼は、少し照れくさそうな顔をしていた。


「あ、ありがとうございます。

 ピアノと歌のプレゼントがあったから、こういうのは無いと思ってました。

 開けて見てもいいですか?」


「もちろん。

 そのカップは私が預かるよ」


 カズキがラフィルが飲んでいたカップを預かり、彼女が丁寧にラッピングを外すと、ジュエリーケースが出てきた。

 その箱を開けると、ラフィーリアの花をかたどったネックレスにも使えるように加工してあるブローチと、ネックレスチェーンが入っていた。


「子供たちの花束には負けるけど、喜んでもらえると嬉しいな……」


「うれしいです!

 けど、負けるとか勝つとか、そんなのはないです。

 どっちも本当に嬉しい……」


 ジュエリーケースを両手で胸の前でしっかり抱きかかえるように持ちながら、プレゼントに、その贈る気持ちに優劣は無い、そう彼女は言いきる。

 実際、どちらも嬉しかったし、その贈ってくれた相手の気持ちを考えれば、どちらが上かなど関係なかった。


「そっか……そうだよね。

 プレゼントに勝ち負けとかないよね。

 つまらないことを言った、今のは忘れて欲しい」


「あ、あの……。

 ネックレスとして付けてもらってもいいですか?」


 ケースを彼に渡し、後ろを向く。

 受け取った彼は持っていたカップを地面に置いて、ブローチにチェーンを通して彼女の首にかけ、後ろの接合部分をくっつけた。

 すると、彼女がその場で半回転して、彼の頬へ優しくキスをした。


「ささやかなお礼です……」


 二十六歳の誕生日に少しだけ大胆に好意を寄せる相手へのお礼。

 ただ、これ以上踏み込めない自分を情けなくも彼女は思っていた。

 まるで十代の少女の様に照れた顔をして、そう言った。


「えっ、あっ……ありがとう……。

 で、いいのかな?」


 まさか、こんなお礼をされるとは思っていなかった彼の方も十代の少年のように、返事に困っていた。


「うーん……、いいんじゃないですか?

 それより三階の廊下を一周しません?

 このネックレスをつけて一番初めに一緒に歩く相手は、

 やっぱり一人しかいないと思うから……」


 そう言うと、カズキの手を取ってゆっくり歩きだした。

 カズキもラフィルの気持ちを察したようで、それに無言で付き合った。



「ねー、エル。

 あんた嬉しいのか悲しいのかどっちなのよ?その顔」


「嬉しいし、悲しいの……。

 カロンさんには、わかんないだろうなぁ」


 カズキとラフィルの様子を隠れて見ていたエルリアとカロン。

 別に覗こうとしてこうなった訳ではなかった。

 誕生日の会場にした忘れ物を取りに出たエルリアとそれに付き添ったカロンの二人は、その帰りに偶然この現場を目撃してしまった。

 いつもと違う雰囲気に声をかけることも出来ず、結果として隠れて盗み見る形となってしまったのだった。


「わかりたくもないよー。

 でも、エルのそんな顔はあんまり見たくないじゃん?」


「カロンさん……ありがとう。

 多分、今だけ……明日には元に戻ってると思うから……」


 少女の胸のうちは複雑だ。

 父としてのカズキがラフィルと結ばれることは喜ばしいことだった。

 だが、一人の男性としてカズキを見ている自分の存在も感じていた。

 カズキはエルリアに取って初恋の相手なのだ。

 まだ十歳にもなっていなかった自分の恋心など、その時はわからなかった。

 それを自覚したのは、カズキがエルリアを養女に迎えると言ってくれた日。

 あの日、彼女は自分の初恋がまだ続いていたことに気がついた。

 その一人の男性としてのカズキが今、上司と部下としてではなく一人の女性としてのラフィルと共に歩いている。

 その光景は娘として嬉しくもあり、女として悲しくもあった。


「そっかー……複雑なんだな。

 なんかあったら、うちに言いなね!」


「うん……、その時はよろしくお願いします」



 こうして、ラフィルの二十六回目の誕生日は、カズキ・ラフィル・エルリアの関係に微妙な変化を与えながら終ろうとしている。

 この変化がこの先どのような結末をもたらすのかは、今の時点では誰にもわからなかった。



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