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三竦みの魔王がいる世界の物語  作者: 史塚 晃
第三章
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23話 ギズロの調査とラフィルの誕生日 その1


「俺は何をやってるんだろうな……」


 ギズロがルインの命令でカズキたちの調査と監視を始めて、はや一週間が経過しようとしていた。

 彼は今、ザグナルの町に一軒しかない楽器店の見張りをしている。

 カズキとエルリアがここ何日か人目を避けるように営業時間の終わったこの店に通っているためだったのだが、その理由を突き止めた時、さきほどの独り言が出てしまった。

 二人がこの店に通っている理由、それは二日後に迫ったラフィルの誕生日にピアノの演奏と歌を贈るための練習であった。


 このアイデアはエルリアが思いついたものだ。

 魔王城でカズキがピアノを弾けると知った彼女が、その特技を最大限に生かしたプレゼントを贈ることを企画したのだ。

 最初その話をカズキにした時、一回弾くと毎回弾かなくてはならなくなるという理由で断られてしまう。

 ならば、自分が覚えて弾くからその練習をつけてほしいと、楽器店が閉店した後に練習場として借りる手配までして、もう一度頼んだのだ。

 そこまでされてはカズキも断ることも出来ず、教えることになった。


 ♪ ドー・ド・レー・ドー・ファー・ミー ♪

 ♪ ドー・ド・レー・ドー・ソー・ファー ♪

 ♪ ドーー・ド・ドーー・ラーー・ファーー・ミーー・レーー ♪

 ♪ ♭シー・♭シ・ラー・ファー・ソー・ファー ♪


 カズキが教えているのは、この世界の曲ではなく元居た世界の曲だった。

 さすがに二・三日教えただけでは、右手のメロディーだけが限界で、伴奏はカズキが担当することになっている。

 一度引き受けたことは、性格的に適当にやるということを出来ないカズキの容赦ない指導の様子が店の中から聞こえてくる。


「エル、そうじゃない。

 そこは私の伴奏の音をよく聞いてから、弾き始めようか」


「はい!」


 なんだか、父娘になる前の家庭教師と生徒という立場に戻ったようで、エルリアは楽しい気持ちになっていた。

 それはカズキの方も同じで、四年もの間、彼女に勉強を教えていたことを思い出して、人にものを教える喜びを実感していた。 



 演奏の練習が一段落ついて、カズキはエルリアに歌詞の書かれた紙を渡した。

 それをこのメロディーにあわせて、二人で歌うつもりでいた。


「これで、なんとか間に合いそう!

 ありがとう!父様!

 ところで、プレゼントは用意してある……よね?」


「もちろん、歌とは別に用意してあるよ」


 エルリアの質問の意図が、歌だけプレゼントしてそれで終わりってことはないよね?だとすぐに気付いたカズキは、そう答えた。

 彼がラフィルの誕生日を祝うのは今回で四回目になる。

 知り合って五年目、ささやかではあったが祝える時は全て一緒に祝ってきた。

 その彼にぬかりはなかった。


「よかった……。

 自分の父親が女心に鈍感だなんて、娘として悲しいもん」


「エルも、もうすっかり大人の女性なんだね……」


「そりゃもう、来月には十六歳になりますから!

 わたしの時も歌とプレゼント、お願いします!」


「やっぱりピアノの演奏、一回で済まないじゃないか……」

 

 そう言われたエルリアは、ばれたか……というような表情をしている。

 カズキの性格を知っていた彼女には、一度巻き込んでしまいさえすれば、最後まで責任をもってやってくれるという自信があった。

 そのために、自分が演奏するという口実を作って、彼を引き入れたのだ。

 そしてこれ以後、孤児院の子供たち、職員の誕生日には、二人で並んでピアノを弾くことが習慣になっていくことになる。


「それなら、ピアノ買うか……。

 毎回、この店から借りるのは悪いしね」


「あっ、それならもう大丈夫だよ。

 わたしが買って孤児院に寄付することにしたから!」


「…………。

 私が出すから、そのお金は残しておきなさい」


「いいの、いいの!

 二年後にはどうせお金なんていらなくなるもん。

 それなら、みんなのために使いたい!」


 現在、孤児院にはピアノはなく、

 誕生日の時はこの店のピアノを借りることになっていた。

 カズキが買おうと言い出したのはその為であったのだが、

 エルリアは先に買うことを決めていた

 彼女にはオルロから相続した遺産があるので、

 ピアノを買うくらいの蓄えはもちろんある。

 問題は彼女が言った二年後という言葉。

 これは魔王から紋章を継承する日を指していた。

 そうなると今言ったのは、彼女が魔王になってからは孤児院に住むのではなく、魔王城に住むという決意表明に他ならなかった。

 そこに住むようになれば、『ジン族《人》』の間で流通している貨幣などなんの意味もなくなるのだから……。


「わかった……。

 そういうことなら、好意に甘えよう……。

 ……今日はこれで終わろうか。明日も学校だろ?」


「そうだね、ちょうどキリが良いし。

 明日は二人で演奏しながら、歌う練習しよ!」


 エルリアの決意をただ見守るしかないカズキ。

 紋章受け入れのための訓練を孤児院で出来るようにしたのはカズキではあったが、それ以上のことはできていない。

 魔王になったあとは、『狂化』を止めるためにもやはり魔王城で暮らすことが必要であろうと思えたので、《まだ時間はあるから、それまでに何とかしてやる》とも言えないでいた。

 今はただ、娘の意思を尊重することしかできなかった。

 胸が熱くなってきているのを感じ、それ以上話していると涙が出ると思ったカズキは、帰ることを提案した。



 二人を監視していたギズロは、今の会話を店の外で聞いていた。

 どういう事情があるかまでは、この会話から推測することはできなかったが、二人の間に実の親娘以上の何か強い絆のようなものを感じていた。



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