表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
三竦みの魔王がいる世界の物語  作者: 史塚 晃
第三章
23/29

21話 新たな出会い その2

 

 屋台街で一緒に酒を飲むことになった、

 カズキ・ソウタツ・ルイン・ギズロの四人。

 最初こそぎこちない感じではあったが、

 酒の力もあってすぐに打ち解けてきていた。


「すげぇ。まじで、すげぇ……。

 無一文で言葉も話せないところから、たった九年でここまで?

 しかも、恩人の娘さんの養父になるとか、どんだけだよ……。

 タカフサさん、いや、カズキさん。しっくりこないな……。

 …………カズさん。今から、カズさんと呼ばせてもらいます!」

 

 酒の肴にでもなればと自己紹介も兼ねて語ったカズキの過去に、いたく感心したのはギズロだった。

 

「ははは、好きに呼んでください。

 ウィンスレットさんも、気軽にカズキと呼んでくれると嬉しいです」


「わかりました。そうさせていただくとします。

 ワタシのこともルインと呼んでください。

 本当に、なかなか出来ることじゃないとワタシも思いますよ、カズキ」


「いやいや、そんな誉められるとこちらが困ります……。

 酒の肴にでもなればと思って言った話なんですから……。

 私なんかよりルインさんの方が、よっぽど凄いじゃないですか。

 男性隊員が多い警備隊で、女性の身で隊長を務めることは、

 誰にでもできることではないですよ」

 

 警備隊は治安維持や魔物討伐などを行う組織である。

 当然、その活動内容から隊員のほとんどは男性で、その中でも隊長という役職に就いている人物は五人しかいない。

 ルインはその五人のうちの一人で、唯一の女性隊長であった。


「はいはい、終~了~。

 二人で誉めあってなにがしたいんですか?気持ち悪い」


「……ギズロ、お前がこの流れを作ったんだろうが……」


「というか、カズさんは隊長を『さん』付けて呼んでるのに、

 隊長は呼び捨てって、おかしくないですか?

 あれですか?貴族で王都警備隊の隊長の一人だから、

 ただの一般庶民ごとき呼び捨てで良い。

 そういうことですか?」


「いや……、だって……。カズキはワタシと同じくらいの年齢だろ?

 別に呼び捨てでも構わないじゃないか。

 しかも、本人がそう呼んでくれって言うんだから……」


「わかってます。からかっているんです」


「き、貴様ぁ!」


 このやり取りを聞いて、カズキは笑っている。

 会ってまだ間もないが、二人の空気感みたいなものはなんとなく掴めていて、本気で言い争っているとは思っていなかったからであった。

 カズキとラフィルとはまったく異質ともいえる上司と部下の関係。

 この二人の関係はとても新鮮で、

 カズキはそれをとても心地よいものだと感じていた。


「やはり、お二人を誘ってよかった。

 こんなに楽しい酒の席は久々です。

 しかし、ルインさんはお若いですよね?

 私は今年三十六になるんですよ?」


「「え?」」


 ルインとギズロの二人は揃って声をあげた。

 三人の現在の年齢はカズキが三十五歳、ルインが二十九歳、ギズロが二十七歳であったのだが、二人はカズキが三十を超えているとは思っていなかったのだ。

 元の世界でも日本人は欧米人に若く見られがちだが、異世界であるここでも、その法則は当てはまるようである。


「若く見られるんですけどね、もうおっさんですよ」


 そう言って笑うカズキ。

 バンッ!

 急にテーブルを強く叩いて立ち上がったルインが声をあげる。


「若く見える秘訣を是非教えてもらいたい!!」


 その顔は真剣そのもの、今までのギズロとのやり取りの時とは全く別物で、その必死さはカズキをたじろがせた。

 女性にとって若く見えるというのは、必死になる価値があった。

 立った彼女の肩をなだめるようにポンポンと二回叩いて、

 座るように促したのはギズロ。


「はいはい、隊長落ち着いて。

 それはまた今度、個人的に聞いてください。

 それよりカズさん。

 さっきの話に出てきた秘書って、前にいた美人さんだよね?

 今日はいないの?」


「彼女は仕事がたまっていて、今日はそれを片付けてるよ。

 まぁその仕事をためていたのは、私なんだけど……」


「び、美人秘書……」


 ギズロがラフィルの居場所をなぜ尋ねたか、

 これについてはカズキには理由が想像できた。

 以前、彼が彼女に会った時、口説いている様子を見ていたからだ。

 しかし、美人秘書がいると聞いてショックを受けている様子のルイン。

 カズキにはなぜ彼女がショックを受けているのかは、わからなかった。

 

 その理由がわかる様子のギズロは、やれやれといった表情を浮かべている。

 ルインにその顔を見られないようにと横を向いてしていたのだが、彼女はそれを見たかのように、ギズロをキッと睨んだ。

 困った彼は話題を変える。


「いやぁ、詰所の近くにこんなところがあってほんと助かった。

 食堂の飯は……ひどいもんだから……。

 隊長もそう思いませんか?」


「そうだな。珍しくまともなことを言うじゃないか、ギズロ。

 ところで、カズキ……さん」

 

 ギズロにそう答えた後、ルインがカズキの方を向いて、名前を呼んだ後に少し間をおいて『さん』と付けた時、カズキは静かに首を横に振った。

 これは敬称はいらないという意思表示であった。


「そろそろ横の男性の紹介をしてもらっても?」


 会話に一切参加していなかった、カズキの横の男に目線をやりながら言った。

 またか……。口にはしなかったが、ギズロの顔は確かにそう言っていた。

 すると、今度は太ももをつねられている。

 目線はカズキの横の男をとらえていたはずなのに……。


「紹介が遅れて、すみません。

 おい、ソウタツ。挨拶くらいはしてくれるんだろ?」


 カズキにしては、言葉遣いが荒い。

 ここ二ヶ月一緒に酒を飲むことで、二人は友人のような関係になっていた。

 この世界に彼が来て、もうすぐ十年。

 初めて友人と呼べる間柄になったのは、人間ではなかった。

 もっとも、彼もこの世界の人間である『ジン族《人》』ではないのだが。


「ん?あ、ああ……。ソウタツだ」


 短い自己紹介。

 さすがにこれはまずいと思い、カズキが補足を入れる。


「さすがにそれは短すぎるだろ……。

 こいつ、人見知りでめんどくさがりなんです。

 私にも最初はこんな感じでしたよ。

 娘の家庭教師のようなことをしてもらってます」


「人見知りでめんどくさがりの家庭教師って、

 それもうダメな臭いしかしないけど、その辺大丈夫なの?」


「失礼だぞ、ギズロ!

 ダメなところ以上に、良いところがあるに決まってるだろ!」


 ソウタツと初対面のはずのルインが熱の入った擁護をする。

 それを聞いたギズロがまた、何か言いたげな表情をしようとした瞬間、

 今度はテーブルの下の足の先を踵で踏まれた。


「いってー!!」


「どうした?どこかに足でもぶつけたのか?」


 そう言ったルインは、満足そうな表情を浮かべている。

 さすがにやりすぎだろう!とギズロが抗議の声をあげようとした時、


「こんばんはー!」


 飲酒エリアに元気な声の挨拶が響いた。

 その声の主はエルリアで、

 飲酒エリアで働く顔馴染みの従業員へ向けたものだった。

 さきほどまでカロンと共に訓練をしていたのだが、それが終わったので夕食を取るため二人で屋台街へ来たのだ。

 二人ともすでに屋台で食べ物を買ったようで、手にはそれを持っている。

 そのまま、カズキたちのいるテーブルの前まで来て、


「初めまして、こんばんは。

 カズキ・タカフサの娘のエルリアです。

 こっちは……」


 エルリアがカロンの紹介もしようとすると、カロンは右手を彼女の胸の前に出して、紹介をやめさせた。

 そして、一歩前へ出て、


「うちはカロン、あんたら何者?」

 

 明確な敵意を込めて放たれたその言葉は、

 今まで楽しげだったテーブルの雰囲気を、険悪なものへと変えた。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ