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三竦みの魔王がいる世界の物語  作者: 史塚 晃
第二章
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16話 魔王との対峙


 月が朝日に照らされて、空の主役の座を奪われようとしている。

 天窓から入る光が優しい月の光から、力強い日の光に変わってきた頃、その部屋にも大きな変化が起こっていた。

 部屋の正面奥、一段高くなった場所にある椅子の前に、先ほどまではいなかった老齢の淑女の姿が見える。


「決まったのですか?」


 丁寧だが少し高圧的な口調でそう言って、その淑女は椅子に腰を下ろした。

 この淑女こそ当代の西の魔王、エスディアである。 


「その前に一言、言わせて貰おうか!」


 強い口調でそう言ったのは、椅子の前にエルリアと並んで立っていたカズキで、普段の彼からは想像できないほど怒っているようだった。

 相手の反応を待たず、立て続けに言葉を繋げる。


「あんな説明、一体どういうつもりだ!

 大事なことはしっかり伝えるのが、基本だろうが!」


 エルリアはカズキの怒り様に驚いている。

 さっきまで自分には優しく接してくれていた父親が、実は内面では魔王に対してこれほど怒っていたとは思いもよらなかった。

 カズキを怒らせた『あんな説明』というのは、魔王がエルリアに対して行ったものを指している。

 それはエルリアの現状を説明するためにされたものであったが、不親切極まりないものであった。

 しかも、内容が自分と自分の娘のこれからの人生を大きく変えてしまうものであったのに、肝心なことが直接的には一切言われることがなく、ただ聞いたものから類推するような形になっていた。

 父親として、これは看過できなかったのだ。


「あの程度のこともわからぬものに、魔王の資格はありません」


 そう冷たく言い放った魔王へ、カズキはさらに怒りの度合いを高める。


「勝手に選んで連れてきておいて、なんだその言い草!」


 当然の怒りであった。

 屋台街の完成をカズキ・ラフィル・エルリアの三人で祝っているところを無理矢理に連れて来られたのだ。

 それを資格があるかどうか勝手にテストのようなことをされて、あげく資格がないなら要はないといった感じだったのだから。


「そなたと言い争うために、ワタクシはここにいるわけではないのですよ。

 いい加減にしなさい」


 今まで肘掛に両腕を乗せていた魔王だったが、カズキがあまりに騒ぐので右手をそこから外して、ちょっと落ち着けと言わんばかりに、手首を上から下へ二度ほど振った。

 肘掛に乗せたままの左の手の甲には、うっすらと青白い光を放つ物が見える。

 それこそが魔王の証ともいえる紋章であった。

 

「じゃぁ、これだけ聞かせて欲しい。

 あの西の魔王の話は誰が考えたものなんだ?

 まさか、あれを即興で考えて、あそこで終わったなんて言わないよな?」


「あれは何代も前の魔王が考えた資質を見る為のテストです。

 ワタクシが考えてやった訳ではありません」


「『今から話すことをしっかり聞いて二人で考えて欲しい。

 おまえたちの未来を決める重要な判断材料になる』

 という台詞も同じ魔王が考えたのか?」


「そうです」


「そうか……、わかった……。

 大きな声を出して、すまなかった」


 今の魔王が考えたわけではないとわかったことで、怒りが収まったのであろうか、カズキは非礼を詫びて引き下がった。

 父の怒りが収まって、エルリアはほっとしている。

 普段怒らない父を怒らせるとこうなるのか……と、怒らせないようにすることを人知れず誓うのであった。


「では、もう一度聞きます。

 決まったのですか?」

 

「一応決まってはいるが、そちらがどこまで譲歩できるか次第だな」


 仕切りなおした魔王にそう答えたカズキであったが、実のところ何も決まってはいない。

 エルとカズキで決めたことは、最大限の譲歩を引き出すためにカズキが頑張るという、なにも決めてないのと同じ状態だった。

 まさに、出たとこ勝負というやつである。


「あまり調子に乗ってはいけませんよ?

 ワタクシにすれば傲慢な候補者よりも、

 謙虚な次の候補者を選ぶという選択肢もあるのです。

 あの程度の問題を解いたからといって、

 増長するのはおやめなさい」

 

「それは魔王としての総意なのか?」


 『総意』と聞いて、

 エスディアの表情がピクッと動いたのをカズキは見逃さなかった。

 むしろ、その動きが出るかどうかを見るために、

 わざと『総意』という言葉を選んで使ったのだ。

 普通、相手が一人の時に『総意』という言葉は使わない。


「どういう意味で言ってるのかわかりませんが、

 ワタクシの言葉は魔王の言葉で、

 それこそが全てなのです」

 

「私が言ってるのは、ほら、その左手の甲で輝いてる紋章。

 それに言ってるんですよ」


 カズキは自然といつもの口調に戻っていた。

 ここが正念場だと感じた途端、さっきまでの口調がでなくなった。

 横にいるエルリアは右手でカズキの左手をギュッと握り、

 この会話の行方を固唾を呑んで見守っている。

 これは彼女の将来が掛かっている会話なのだ。


「紋章?

 これはただの力の源ですよ?」


「往生際が悪いぞ、紋章!

 さっき初めて会った私が、紋章に意志があると、

 見ただけでわかったと、そう思っているのか?」


 カズキはなおも紋章に意思があって、自分と意思疎通が可能だと言い張った。

 

「…………」


 魔王エスディアは黙っている。

 カズキはつないだ左手をにぎる力が強くなっていることを感じていた。


「私に紋章に意思があるかもしれないというヒントをくれたのは、

 資質を見る為のテストを作ったという昔の魔王だよ」


 カズキがそう言うと、今まではエスディアの左手で弱々しく光っていただけの紋章が青白い大きな炎をあげ、それが顔の形を作り話し始めた。


「どういうことか説明はあるんだろうな?人間」


 魔王以外に紋章が話しかけた初めての瞬間だった。



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