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三竦みの魔王がいる世界の物語  作者: 史塚 晃
第二章
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15話 西の魔王と父娘の相談


 エルリアはまず魔王の始まりをカズキへ説明したあと、


「ここまでは、この世界の話。

 ここからは、この西の大陸の魔王に話しなの……」


 と、話を続ける。


 この大陸に移った西の魔王は、『ジン族《人》』から争いと魔王に関する記憶を全て消してしまった。

 それは、これまでの振る舞いから、この大陸の他の種族の『狂化』を抑えているのが『ジン族《人》』であると知れば、自分たちを擁護して戦ってくれた他の種族を迫害するものが一族から必ず出てくる、そう考えたからだった。

 そして『ジン族《人》』を他の種族から離して、この大陸から出ることができないように、大陸の周りの海を荒波にしてしまう。



 それから約百年の間は上手くいっていた。

 だが、紋章の力は強すぎた。

 紋章の力で老化を遅らせていたとはいえ、他の種族の『狂化』を抑えながら、大陸の周りの海にまで力を使っていた西の魔王は、少しずつ力の行使に体と心が耐えれなくなっていった。

 今まで抑えられていた『狂化』を起すものが少しずつ現れてきたのだ。

 自分の限界が近いと悟った西の魔王は、紋章の力を使い後継者を探した。

 『狂化』をするものが出た以上、自分よりうまく紋章を扱うものが必要であったし、三竦みで成り立っている世界のバランスを壊してはならない、と考えたからであった。

 


 選ばれたのは『ジン族《人》』の少女であった。

 魔王はその少女を連れてきて、次の魔王になるように説得した。

 意外なことに少女はすぐにその説得を受け入れた。

 自分の大切な人を守れるなら喜んで引き受ける、とまで言った。

 だが、魔王はこの少女に伝えていないことがあった。

 魔王になったものは、秘密保持のために、他人の記憶からその存在ごと消されてしまうということを。

 紋章の力を受け入れる修行をした彼女が十八歳になった時、継承の儀式が行われ、魔王はその彼女のことを知る全ての人間から彼女の記憶を消した。

 二代目西の魔王となった彼女はそのことを知り、とても悲しんだ後、ただの人間に戻った初代西の魔王を殺してしまった。



 二代目魔王に継承された紋章はうまく機能していた。

 何十年もの間、『狂化』を起すものは出なかった。

 しかし、そんな彼女にもやはり終わりの時がくる。

 自分の限界を悟った彼女は、初代と同じく紋章を使い後継者を探した。

 選ばれたのは、またも『ジン族《人》』の少女。

 彼女は少女を連れてきて、説得を試みた。

 初代と違ったのは、最初から記憶が消されてしまうことを伝えたことだった。

 選ばれた少女は、魔王になることを頑なに拒んだ。

 しかし、少女が何度拒否しても、紋章は少女を選び続けた。

 時間に余裕のない二代目魔王はついに説得を諦めて、少女を殺してしまった。

 すると、紋章が次の後継者を選ぶようになった。



 次に選ばれたのも『ジン族《人》』の少女であった。

 どうやら、西の魔王には『ジン族《人》』の少女しかなれないらしい。

 前の失敗を生かした二代目魔王は、記憶を消すということと同時に、拒否するなら継承権を次にまわすために殺さなければならないことを伝えた。

 少女は涙を流しながら、魔王になることを承諾した。

 そして、継承のための修行を終えて十八歳になった彼女は、儀式を終えて、三代目西の魔王となった。

 三代目魔王となった彼女が最初にしたことは、二代目を殺すことであった。

 自分に理不尽な選択を迫った二代目のことを、彼女は恨んでいたのだった。

 

 

 それからも、何代にも渡って継承が行われ今に至るのである。



◇ ◇ ◇ 



「えっと……これで終わり?」


「うん……」


 不親切すぎる……とカズキは思う。

 今の説明から現状を読み取れとか、まるで国語のテストようだ。

 もちろん、エルリアの置かれている状況はわかった。

 彼女は次の魔王に選ばれたのだ。

 断れば、継承権を次に回すために殺される。

 承諾しても、秘密保持の為に他人の記憶からその存在ごと消されてしまう。

 世界とこの大陸の他種族のために犠牲になれ、そう迫られていた。



「今から言う事は、別にエルがそうすると思って言うんじゃないことを、

 わかって聞いて欲しい。

 聞いた話からだと、今の魔王はエルに紋章を継承した後、

 殺されても仕方ないと覚悟を決めているのか?

 それとも、そうされないような何か策があるのか?

 どっちなんだろうね……」


「うん……わかってるよ……父様。

 わたしも疑問だったの。

 だってこの話の魔王は全部、次の魔王に殺されてるんだもん」



 二人の疑問は一緒であった。

 エルリアがそうするかは別として、この条件で紋章を継承させる側の魔王が、継承する側に恨みを買わずに行うことはかなり困難のはずであった。

 魔王という存在を前から知っていてずっと成りたかった!そんな少女でもいれば話は別なのだが、存在自体を隠されている。

 他には、今人間世界でとても辛い目にあっている少女が選ばれて、魔王になることによって逆に救われるという場合。

 これなら、次の魔王は先代を殺すことはないかもしれない。

 しかし、そんなレアパターンばかりをそうそう選べるわけもないだろうし、現に今選ばれているのはエルリアなのだから、そういう人間を選んで継承者としているわけでもないようであった。



「この話をする前、魔王は何か言っていたかな?」


「言ってたよ。

 『今から話すことをしっかり聞いて二人で考えて欲しい。

 おまえたちの未来を決める重要な判断材料になる』

 こんな風に言うから、重要なことだと思ってちゃんと覚えたのに……」


「ってことは、今の話は魔王が言ったままに近いってことか」


「そうそう。

 98パーセントは原文のままだと思ってくれていいよ!」



 残りの2パーセントが何なのかはおいておくとして、

 魔王がわざわざ前置きした理由について、カズキは考える。


 一つ目は、

 わかりやすい説明をしないのだから、ちゃんと聞いておかないと理解できなくなるぞ、という警告。

 わざわざ前置きするくらいなら、現状について説明すればいいのに……と思うのであるが、それをしないということにも意味があるのかもしれない。

 

 二つ目は、

 現状を理解した二人で相談して、なにか自分たちが納得できる妥協案を出せ、という意思表示。

 このまま継承を行えば、高い確率で次の魔王の恨みを買ってしまう。

 そうならないために、妥協できる案を用意して提示しろ、ということなのであろう。


 三つ目は、

 しっかり聞いて何かに気付いて欲しい、という願望……? 

 この話をしたあとに、魔王がその口で相手の状況について説明したなら、その相手は今聞いた話について考えることはないだろう。

 昔そういう出来事があったのか……と思う程度で終わってしまう。

 それをさせない為の措置なのかもしれない。

 と、考えてはみたものの、魔王にそれをする理由らしい理由が思いつかず、そこで頓挫してしまった。



「まぁ、普通に考えれば、

 何か譲歩なり提案なりを受け入れる用意があるってことなんだろうね」


「わたしもそう思うな。

 今が最初の西の魔王から、何代目になるかは知らないけど、

 その間の魔王がずっと殺されてたとは思えないもん。

 きっと何か両方が妥協できるところに、落ち着いたと思うから」

 


 エルリアの言うことが正しいように思われた。

 何もしないでずっと先代の魔王が次代の魔王に殺されてきているなら、それは無策に過ぎると言わざるを得ない。

 なので、彼女の言うようにどこかで妥協する案が産まれたはずであった。



「ああ……、なるほど……。

 それで私も連れてこられたのか……」


「父様、どういうこと?

 相談相手として連れてこられたって言い方じゃないよね?」


「一人の人間で考えられることなんて、たかが知れてる。

 だから、最初は私も相談相手としてだけ、連れてこられたのかと思っていた。

 孤児院から連れて来られる時、フードの男にお前はオマケって言われたしね。

 でも、これは多分違う。

 エルと私は二人でワンセットなんだと思う。

 記憶を全ての人間から消すのではなく、一緒に連れてきた人間には残す。

 これが妥協案じゃないのかな?」


「えっと……それは……。

 魔王になって世界のバランスを守ったり『狂化』を止めることは、

 自分のことを覚えてる一緒に来た相手を守ることになるってことか。

 これならギリギリ納得して、魔王になれるかも……」



 エルリアは自分の状況と照らし合わせてそう言った。

 一緒に連れてくる相手が次代魔王候補にとって、大切な人であるばあるほど、有効な策であった。

 交渉術の一種、そう一言で片付けることも可能であったが、次代の魔王候補のこれからの人生と、一緒に連れてこられたものは記憶は残るがおそらく二度と会えないことになるだろう、という事実を思えば、一言で片付けるには重過ぎるものである。



 妥協案の存在を理解した二人は、

 魔王がこの部屋に戻ってきた時の対処をピアノの前で話し合っている。

 しかし、カズキには何か感じるものがあった。

 常に自分の行動を先読みされているかのような閉塞感。

 困難な状況に陥ったときに、少し考えるだけで答えがみつかるように仕掛けられている、そんな風に感じていた。

 そんな中で、一つ答えがわからないものがある。

 魔王がした話の前置きを考えたときに疑問に思った三つ目の理由。

 これがどうにも気になっていた。

 あれは本当に魔王の願望なのではないだろうか?

 本当は何かに気付いて欲しいのではないか?

 そのような考えが頭の中をグルグルまわっている。

 エルリアにもう一度西の魔王の話をするように頼み込んで、

 もう一度頭の中を整理しながら魔王が来るのを待った。





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