14話 始まりの三人の魔王
昔、世界は一つの大きな大陸であった。
そこには、
『ス族《子》』 『チュウ族《丑》』『イン族《寅》』 『ボウ族《卯》』
『シン族《辰》』『シ族《巳》』 『ゴ族《午》』 『ビ族《未》』
『エン族《猿》』『ユウ族《酉》』 『ジュツ族《戌》』『ガイ族《亥》』
『ビョウ族《猫》』
の、十三の種族が暮らしていた。
そこに新たな種族『ジン族《人》』が産まれる。
他の種族と比べると、特に優れたところがあるように見えなかった『ジン族《人》』だが、少しの知恵と旺盛な繁殖力を持っていた。
時が経つにつれ、『ジン族《人》』はどんどん増えていく。
知恵を使って便利な道具を生み出し、他の種族の眷属である動物を家畜として増やすことで食料を賄ったりもした。
やがて、増えすぎた『ジン族《人》』は同じ種族同士で領土や食料をめぐって争ったり、自分の種族の領地以外でも狩りをするようになった。
他種族のことには介入しないことが決まりになっていたが、ついにいくつか種族が怒りだし、十三の種族がその対応をめぐって分裂してしまう。
元々いなかった種族なのだから滅ぼしてしまえ。
せっかく生まれたものを滅ぼすのは間違っている。
他の種族のことには介入しない決まりだ。
この三つの意見の集団に分かれてしまった。
最初は話し合いで解決しようとしたのだが、段々と感情的で暴力的なものへと変わっていった。
そして、ついに排斥派・擁護派・中立派に分かれての戦いが始まった。
排斥派は、
『チュウ族《丑》』『イン族《寅》』『ゴ族《午》』『ビ族《未》』
『エン族《猿》』『ユウ族《酉》』『ガイ族《亥》』
の七種族で、大陸の南を拠点に。
擁護派は、
『ス族《子》』『シン族《辰》』『ジュツ族《戌》』『ビョウ族《猫》』
『ジン族《人》』
の五種族で、大陸の西を拠点に。
中立派は、
『シ族《巳》』『ボウ族《卯》』
の二種族で、大陸の東で戦いを見守っていた。
長い長い戦いだった。
その長い時間の中で『ビ族《未》』と『ユウ族《酉》』が戦いに疲れ中立派に転向したり、それ以外の種族からも中立派へ亡命したものが数多くいた。
その他にも『ビョウ族《猫》』が擁護派を裏切って排斥派に移ったり、戦いばかりしていたせいで、戦闘に特化した姿に進化してしまったものまでいた。
さらに、深刻な問題もあった。
後に『狂化』と呼ばれることになる、突如として理性を失い、目に見える動くもの全てを、破壊してしまう状態になる現象。
これを発現してしまう者が急速に増加していく。
しかし、そんな中で、
排斥派の『イン族《寅》』
擁護派の『ジン族《人》』
中立派の『ボウ族《卯》』
これら三種族からは一人も『狂化』するものがでなかった。
『狂化』の問題は、既に争いよりも大きな問題になってので、三つの派閥はその種族の力を借り、躍起になって対策を始めるが、抑制手段も発現したものへの対処手段も確立できなかった。
このまま滅びてしまうのか?と全ての種族が覚悟したとき、天変地異が起こって、それまで一つの大陸であったものが三つに割れてしまう。
それも、東、西、南と各派閥を分けるような形で。
あまりの偶然に天の怒りを買ったのだ、と言い出すものもいた。
分かれた三つの大陸は、南の大陸を頂点とした逆三角形に配置されていて、その中心に小さな島が発見される。
十四の種族はその島で、三派閥に分かれての戦いが始まってから初めて、話し合いをすることに決めた。
島に十四の種族の代表が全て集まった時、それまで『狂化』しなかった三つの種族の体に紋章が浮かび上がった。
この紋章には大きな力が秘められていて、その力に魅了されてしまったのか、話し合いに集まったはずの場所で、排斥派の六種族と擁護派の四種族が戦いを始めてしまう。
これにはさすがに温厚だった中立派の四種族も怒り、全ての種族の代表がその場で戦うことになった。
戦いは壮絶なものであったが、三種族に浮かび上がった紋章には相性があるようで、それぞれが一人は倒すことはできそうだが、もう一人には負けてしまう可能性が高いことがわかり、三竦みの状態になってしまう。
共倒れになってしまうことを危惧して、戦いを止め、そこでようやく話し合いが始まる。
その結果、それぞれの大陸に戻り、紋章の力を使って仲間種族の『狂化』を抑えることに専念することになった。
排斥派は紋章を持つ
『イン族《寅》』を筆頭にして、
『チュウ族《丑》』『ゴ族《午》』『エン族《猿》』
『ガイ族《亥》』 『ビョウ族《猫》』
の六種族で南の大陸へ。
擁護派は紋章を持つ
『ジン族《人》』を筆頭にして、
『ス族《子》』『シン族《辰》』『ジュツ族《戌》』
の四種族で西の大陸へ。
中立派は紋章を持つ
『ボウ族《卯》』を筆頭にして、
『シ族《巳》』『ビ族《未》』『ユウ族《酉》』
の四種族と多くの亡命者たちを連れて東の大陸へ。
それぞれの大陸で新しい国を作り、暮らしていった。
紋章を得た三種族の代表は、
『始まりの三魔王』あるいは『三竦みの魔王』と呼ばれた。
申だとシンでかぶってしまうので、猿のほうを使ってます……。