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赤ペン精霊の神剣ゼミでクラス最強の魔法剣士になれました  作者: 森田季節
第二部 神剣ゼミで剣士に編

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92 帝国領を進む

 翌朝、俺たちは帝国の領地に踏み入いった。


 辺境地帯は原野が広がってるようなところも多く、侵入自体は容易だった。それに商人などの移動はごく普通に行われている。俺たちもそれにならった形だ。

 ちなみにもう女装はしていない。かえってうさんくさくなる。


 目指すは隠者の森教会。そこで第一巫女の安否を確かめる。

 教会とはいえ、敵の土地には違いはないし、多少、危なっかしくはあるが、第一巫女が捕らわれているかどうかもまだはっきりとはわかっていない。たどりつくまでに状況が変わっている可能性もある。


 帝国に入っても風景などはほとんど代わり映えしなかった。看板に書いてある文字も隣り合ってるせいか、割と近い。

 歩いて一時間ほどでなだらかな山を越える峠道に入った。ここを抜けると本格的に帝国の土地という空気にもなる。


「あまり外国という気もしませんね」

「そうですね。だからこそ、わたくしも帝国と殺し合いなどしたくありません」


 姫もどうせなら、もっと平和な時代がよかったと思ったかもしれない。それこそ、堂々と旅行ができるような時代だ。


 帝国からしたら完全に敵国の工作員なんだけど、敵の襲撃は全然ない。本当にただの旅人と思われているのか、一般民衆は戦争も他人事なのか、拍子抜けするほどあっさりと進めている。


 ちょっとばかし、上り坂であることを除くと、困難らしい困難もない。


「ずっと、こんなに楽ならいいんだけどな」

 俺は白い地図を見ながら言った。


「バカか」「バカめ」

「なんで姉妹揃って、バカ扱いなんだよ……」


 師匠として説明責任があると思ったのか、イマージュが俺の横に並んだ。

「おおかた、お前は地図だけを見ているのだろう。そういえば、そこまで地理について勉強する時間もなかっただろうしな。旅の者から話を聞く機会も限られていたはずだ」

「だから、どういうことなんだ?」

「おそらく今日中にわかる」


 その日、アップダウン自体は多かった。のぼって、少しくだって、またのぼってといったふうにじわじわ高度が上に来ている感覚はある。


 そして、日暮れ前、峠近くの展望台からの景色を見て、俺はイマージュが言っていたことを理解した。


 山並みがどこまでもどこまでも続いているのだ。

 その底に小さな村があるように見えるが、詳しいことはわからない。


「これ、ほとんど山じゃないか……」

 人が住むのに適した広々とした場所がほとんどない。

 あらためて地図を出した。それもよく見ると、山が多いとか書いてある。


 これ、日本の地図でもたまにやる間違いだ。直線距離は短いかららくだと思ったら、やたらと急な坂だったとか。

 山だらけの地形だと、地図で示すのも難しいのか、少なくとも見ただけで山が多いとわかるような描き方にはなってなかった。


「そういうことだ。帝国が他国から独立されていった理由もわかるだろう? これでは統治は難しい」


 たしかに、こんなの森の中にでも隠れられたら、何人がかりでも無理だよな。


「実のところ、山を抜けて平野部に行く道もあることはあります。けれど、隠者の森教会はそちら側にはありません。むしろ、山や森をいくつも越えた先になりますので」

「平野部を経由したほうが結局近いとかってことはないですか?」


「平野部はそれだけ監視も厳しいですからね……。見つかる危険性ははるかに高くなります」

 姫の言葉を聞いて、自分の選択肢は使えないと諦めた。秘密工作員が見つかりやすいところを通るわけにはいかない。


「なんとか村にまで入って泊めてもらいましょうか」

「姫が野宿などありえませんから」「イマージュ、姫ではなくて町娘だぞ。まあ、町娘は姫のように豪華な宿で泊まるべきだが」


 そのうち、イージーミスでばれそうだけど、今のところは会う人が少なすぎてどうにかなりそうだ。



 初日は戸数十五軒もないような寒村に泊まることになった。

 宿もないということだったので、家の一つに泊まることにした。役人が来た場合に宿泊施設として使う広めの家があったのだ。


 お金は事前に帝国の硬貨を用意しているので、それを支払う。

 これ、思ったより長い旅になるかもしれない。


「サヨルとか心配してるかな。そりゃ、心配するよな……」

 部屋は三部屋しかなかったので、俺、姫、姉妹で一部屋ずつとった。

 といっても、見張りをやるから自由時間以外は姫の部屋に行って、双子のどちらかと周囲を警戒することになる。


 その空き時間に自分の部屋に戻ってくるといったほうが近い。


 この調子だと隠者の森教会までまだまだかかる。そこにたどりついたとしても、無事に帰ってこれるかはまた別だ。

 いざ、旅に出てみると不安もつのってきた。とはいえ、事前にそう感じたからといって、やらないといけないことは同じだった。


 俺はアーシアのマナペンを握り締める。

 このまま、何事もなく進めますように。


「また、抱きつきますか?」

 後ろにアーシアが現れる。マナペンを握ったから出てくるところだと思ったよな。


「いえ、恋人の名前をつぶやいた後に、ほかの女の子に抱きつくっていろいろ最悪なんで……」

「それもそうですね。ところで、この村、思ったより危ないかもしれませんよ」


 さらっとアーシアが言った。


「それって、どういうことですか!」

「静かな村とはいえ、生活感がなさすぎな気がするんです。ただ、具体的に攻撃されてるような感じもしないのですが」


 アーシアの言葉が怖くて、姉妹と一緒に交代に起きて番をしていたが、とくに何もないまま朝になった。


 何もなくてよかった。また早朝から俺たちは旅を再開した。


来月の書籍化に向けて現在作業が佳境に入ってます。よろしくお願いします!

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