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赤ペン精霊の神剣ゼミでクラス最強の魔法剣士になれました  作者: 森田季節
第二部 神剣ゼミで剣士に編

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89 キルアネに入る

 そこからの道は敵の妨害はなかった。

 あるいは街道ごとに一か所、敵の部隊が設置されているのかもしれない。いくらなんでも返り討ちを前提にいくつも部隊を送り込むほどには、向こうの兵力も潤沢ではないだろう。


 キルアネは小さな町のはずなのに、やけに活気よくにぎわっていた。

 兵士が増えて、一時的に人口が増えたので、その兵士用に行商人がやってきたりしているのだ。


「ここは平時なら、人口三百人ほどの小さな町なのです。すでに千五百人、いえ、二千人は兵が集まっているはず。このにぎわいも複雑な心境ですね」

 姫がそう述懐した。


「言葉は重いですけど、俺、姫を見て少し安心しました」

「どういうことです?」

「表情自体が明るくなってるのがわかりますから。味方の本拠地まで来れて、ほっとされているんですよね」


 俺の言葉がなれなれしいと思ったのか、タクラジュが何か言いたそうにしていたが、姫が笑みを浮かべて制した。


「そうですね。やはり、わたくしも命は惜しいようです。そんなところを的確に見抜かれてしまいました」

「必ず、この戦い、勝利に導きましょうね」


 姫は少し迷っていたようだったが、俺の手に手をそっとかぶせるように置いた。


「姫、島津相手にそれはやりすぎでは……」

 タクラジュは怒るというより、びっくりしているらしかった。男に対するボディタッチとしては姫の身分からすると過剰なんだろう。


 俺も騎士の立場として、姫にそんなことをされて、どぎまぎした。

 それだけで、姫の誠実さとけなげさが痛いほどに伝わってくる。こんなに真摯な表情の瞳を俺は見たことがあるだろうか。


「島津さん、あなたのおかげで気持ちもやすらぎました。これからもよろしくお願いいたします」

「よ、喜んで……」


 手を離された後も俺は、まだ脈拍が速くなっているのを実感していた。

 やっぱり、姫だよな。神聖不可侵な雰囲気が近くにいるだけで伝わってくる。


「あれが姫様の放つオーラだ。一生、つかえたいと思うだろう?」

 イマージュがそう言ってきた。

「今なら師匠のその言葉がおおげさじゃないってわかりますよ」


 そのあと、俺はたんなる一侍女を装って、日用雑貨を売っている露店の商人に話を聞いてみたが、中にはここに来るまでに帝国に襲われた行商人もいるらしい。帰りの移動も大人数で行って、リスクを避けるつもりだなどと言っていた。


 行商人は兵士ではないが、こちらの兵士に物を売っている以上、王国に利する行為をしているわけで、セルティア帝国の兵士が攻撃する対象に入ってしまう。商人といえども、命懸けなのだ。


「ありがとうございます。いい情報が入りました」

「お嬢ちゃん、男みたいな声だな。ノドでもやられたか? それとも、女装男娼かい?」

 ああ、軍隊がいるところ、そういうのもいるんだな。数が増えれば、いろんな趣味の奴が出てくるだろうし。


「いえ、れっきとした召使いですから」


 それだけ言って、その場は離れた。



 俺たちはキルアネ総督のところにあいさつに出向いた。おかげでようやく女装から解放された。

 総督といっても、軍服が似合う軍人というより、魔法使いだった。四十歳ほどの男で、ヤムサックみたいに髪が長い。


「よくぞ、ここまでおいでくださいました。必ずや、味方の士気も高まるでしょう。これで帝国の軍も恐るるに足りません!」

追従ついしょうの言葉はいりません。現況を正しく教えていただければけっこうです」


 姫の言は鋭い。総督がひるみかけたほどだ。

 本当に姫は立派だ。知性と勇気を合わせ持っている。逆に言えばこんな英明な人が前に立たないと国が危ういほどに、王国に余裕がないということでもある。


「詳しいことはまだわからないのですが」

 総督の声が小さくなる。


「帝国側は、概念魔法を扱う魔法使いを利用して、大掛かりなことをやるつもりのようです。具体的に申しますと、概念魔法コンテイジョンを放つために動いているとか……」


 俺にとっては聞いたことのない魔法だが、姫は顔を歪めた。それから、俺と侍女の二人に説明をしてくれた。


「コンテイジョンというのはいわば疫病を発生させる魔法です。範囲は町一つほどだとか」

 それだけで背筋が寒くなる。なんて、とんでもない魔法だ。


 けど、この世界の町って人口も知れてるし、人の交流も狭いから、まだマシなんだろうか。いや、そんなに甘くはないか。


「それを、たとえば、軍隊が集結しているこのキルアネなどで使われたら……王国の防御は崩壊しますよね?」

 俺の言葉に姫がうなずいた。


 総督が再び言葉を接ぐ。

「ただし、敵国に入っていた商人やスパイから聞いた話だと、すぐに動きがあるわけではないようです。この概念魔法が使える魔法使いは、帝国の中でも隠者の森という中にいる特定の聖職者だけです。現在は隠者の森教会にいる第一巫女のみのはず」


 そりゃ、そんなものを多数の奴が使えたら、とっくに連発してるか。


「第一巫女は魔法の戦争利用自体を教義から避けております。というより、彼らの教会ができた理由が、危険な魔法を集めて管理して封印してしまうことにありました。脅威になる魔法が不断に政治抗争が行われている帝都近辺にあっては国がもたないと考えたのです」


「その話は聞いたことがあります。ですから、かつて偉大な魔法使いが隠者として深い森にこもったと」


 総督の顔がそこで一段階青くなった。


「まだ詳細は確認できておりませんが、帝国はその第一巫女を付近の領主の城に連行して、コンテイジョンを使うように迫っているとか……。やり口も騙し討ちに近く、三十名ほどの高位の魔法使いで抵抗を抑えるという念の入れようとか……。このあたりの数字はどこまで信がおけるかわかりませんが」


 それが事実なら、その第一巫女を解放しないと、かなりよくないことになるかもな。


現在、1月の刊行に向けて作業中です! お待ちください!

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