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赤ペン精霊の神剣ゼミでクラス最強の魔法剣士になれました  作者: 森田季節
第二部 神剣ゼミで剣士に編

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86 特務魔法使いの変装

「必ず、ご無事に送り届けます」

 あんまり軽々しくこういうことを言うのもどうかと思ったけど、難しいかもしれないなんて言う権利自体が俺にはない。姫は何があろうと守らないといけない。


「はい、わたくしも信じていますよ」

 姫も俺を言葉のとおり、信じてくれているから大役を任せてくれている。そこにボタンのかけ違いのようなものはない。


「では、島津のためにキルアネという土地について説明する」

 イマージュが地図を広げた。


 キルアネはちょうど帝国領のほうに突き出た台地上に立っている町だった。

 攻めようと思えば、ほとんどあらゆる方向から攻められる。逆に言えば、ここを軍事拠点にできれば、帝国側を威圧する効果がある。すぐに帝国側に、しかもいろんな方向に進撃できるからだ。

 前線基地としては最適の場所だ。


「歴史上の戦争でも、ここの争奪戦が発端になったことが多い。軍隊を入れて、敵に備える」

「わかりました。ハルマ王国の領土を通るなら、そう危険はないかもしれませんが」


 俺の言葉に対して、少しイマージュは黙った。

 その視線は地図の、キルアネの手前、すごく細くなった土地に注がれていた。


「台地に登って来られると、背後から分断されるかもしれない。そんな楽な仕事なら、お前を呼んでないと思ってくれ」

「言われてみればそうですね。この世界はレヴィテーションができる奴ぐらいいくらでもいるんだった」


 いい緊張感が体の中を流れていると思った。


「ちなみにいつから出発ですか?」


「明日だ」

 そう言ったタクラジュは何かかさばる服を腕に持っていた。


「その服は、もしかして変装用のものか何かですか?」

 まさかあからさまに姫ですという格好で移動するなんてことはないだろう。

「お前は頭の回転が速いな。お前もこれを着ろ」


 俺に向かってタクラジュが服を投げる。


 それを俺は両腕で受け取る。布のくせにずいぶんずしりとした感触だ。


「いったいどういう服ですかね。商人? 剣士の姿だったら変装にならないし。農民が長距離移動したらおかしいから、やっぱり商人が順当かな。…………あれ?」


 服を広げて、違和感を覚えた。

 やけにひらひらが多いし、これって……使用人の服。というか、メイド服だ。


「そうそう、お前にはこれも渡さないといけないな」

 またタクラジュが何か投げてきた。それは何かすぐにわかった。


 金色の長い髪のかつらだ。

 うん、つまり、そういうことだな。


「女装しろってことですね……?」

「そうだ。武骨な剣士が横についていれば、貴人をガードしているのが見え見えだからな。ならば、全員侍女であるほうが油断も誘える」

「わたくしも小金持ちの商人の娘という設定で服を替える予定です」


 姫はいつもどおり真面目な顔だから、ふざけた要素はどこにもないんだろう。


「島津さんはどちらかというと中性的な顔ですし、それで誤魔化すことは十二分に可能かと思います。なにとぞよろしくお願いいたします」


「姫のご命令は絶対ですから」


 俺はちょっと引きつった顔で頭を下げた。


 その日、アーシアに女装する羽目になった話をしたら、すごく笑われた。

「なるほど! たしかに時介さんは女装には向いてる顔ですよ!」

 アーシアは本当におなかを抱えて笑っていたので、腹を抱えて笑うという慣用句って実際に起こることなんだなと思った。


「先生、教え子を笑いすぎですよ……」

「すみません、だけど、それって時介さんがかっこいいっていう意味でもあるんですよ。かっこよくなければ、女装も似合いませんし」

 日本でも、男のアイドルが女装させられる企画とかはけっこうあったけど、それと比べるのはさすがにおこがましい。


「まあ、褒めてもらってると素直に受け取ります」


 ちなみにサヨルに言っても、やっぱり笑われた。

「明日から出発だからな。しばらくお別れだ」

「うん。けど、作戦のおかげでしんみりしすぎなくて、よかったよ」 


 だとしたら、女装にもそれなりの意義があるらしい。



 翌日、俺は姫の部屋で変装をさせられた。

 服を着て、かつらをかぶればそれで終わりかと思ったが、そんなに甘くはなかった。

 化粧もイマージュにされたし、歩き方や声の出し方の指導までやらされた。


「女として不自然に見えたらかえって怪しまれるからな。見た目だけは完全に女に見えないと困るのだ」

 イマージュが俺に口紅を塗りながら、そんなことを言った。

「正論だけど、どうも腑に落ちないな……」


 すでに商人の娘の姿になっている姫が、俺を見て、うんうんと楽しそうにうなずいていた。

「よく似合っていますよ。侍女にしか見えません」


 そう言われて、鏡に目を向けたら、たしかに背が高めのメイドが一人、そこにいた。


「美しい……かどうかはわからないけど、思ったよりもちゃんと女に見えるな」

 この顔を見ただけで、女装だと認識する奴はいないだろう。

 肩やノドもメイド系の服だとある程度隠せるので、男の骨格を消すことができる。この服装も意味があるようだ。薄着だと、どうしても男の体つきがわかってしまうからな。


「けど、この格好で帯剣してたら、変だったりしないですかね?」

「侍女といっても、護身用の武器ぐらいは持つ。長い旅路ならなおさらだ。心配するな、我が弟子」


「師匠に女装させられるとは思いませんでした」

「今度、女装術も教えてやる。特務魔法使いには必要な技術だ」


 俺はいったいどこに進んでいくんだろう……。

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