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赤ペン精霊の神剣ゼミでクラス最強の魔法剣士になれました  作者: 森田季節
第二部 神剣ゼミで剣士に編

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76 帝国の計略

 激しい鋼と鋼の音が飛び交う。

 少なくとも押されているわけじゃない。俺の剣はものになってはいる。

 もっとも、成果を感じている場合じゃない。ここで確実に勝てないと意味はないのだ。


『雷の運び屋』流上級第四の型。

 通常の踏み込みの後、さらに一歩踏み込む。

 敵との距離を極限まで詰めて――心臓を刺し貫く!


 ザシュ!

 肉に剣が刺さった、いい感触があった。


 剣士の手から、剣がカランと足元の岩に落ちて、そのまま倒れた。

 どうやら、勝てはしたらしい。

 剣で人を殺したのは初めてだな。特別な感情は何も抱かなかった。それ以上に状況が異常だからだろうか。


「敵の出自は不詳だな……。ただ、亀山一人の単独犯ってことじゃないのは確実か」

 生徒とはいえ、三十人ほどがいるわけだから、敵も最低でも数人で動いているだろう。


「す、すごいね、島津先生……」

 理奈はふるえながら言った。

「よし、先を急ぐぞ。宿までそう距離はないはずだか――」


 また、何かが近づいてくる気配を感じた。

 すぐにまだ血がべったりついている剣を構える。

 どんどん攻め込まれると厄介だな。今は一人ずつ斬ることを考えるだけだ。


 俺が飛び出てくる相手に斬りかかろうとしたその時――

「待って、待って! 私よ、私!」

 その姿はサヨルだった。


「ああ、よかった……サヨルか……」

「こっちも斬られなくて本当によかったよ……。それと、この状態のことが少しはわかったかもしれない」

「えっ!?」


 サヨルは背中にかけているカバンから、年代物の本を取り出した。そこまで重そうではないけど、わざわざこんなところに持ってきたのか。


「なんで本なんて持ってきてるんだって顔してるよね。私だって理解してるわよ……。けど、気に掛かることがあって、あわてて持ってきたの。そしたら、大事な情報が書いてあったのを思い出したわ。気力の弱い者を一時的に衰弱させる魔法がヒョーノ派魔法の中にあるって」


 サヨルが該当ページをめくる。

 たしかにそれらしい魔法についての記述が本にはあった。


「だとしたら、敵はヒョーノ派魔法の使い手か」

 この土地で魔法を伝承していた者がいたんだろう。

「でもね、話はそう単純じゃないの。ここの森にはもう一つ、とんでもない魔法がかかってる恐れがあるわ……」


 サヨルの顔が深刻なものになる。


「魔法が発動しなくなる概念魔法よ」


 俺もそれがどれだけ恐ろしいかということはすぐにわかった。

「かなり高位の魔法使いがここに来てるってことだよな」

「そういうこと。魔法が森に入った途端、使えなくなってる。それも個別に止められてるのとは感覚が違う。それぐらいしか考えられない」


「俺もそれは実感した。無詠唱の魔法がまったく発動してない」

「おそらく、敵は魔法を使えない環境で一気に勝負を決しようとしてるわ。おそらく、概念魔法を唱えてる奴を除けば大半は剣士だと思う。でなきゃ、意味がないからね」


「俺が今さっき戦ったのも剣士だった」

 死体に視線を移す。

「推測だけど、あれはセルティア帝国の剣士ね。山中での戦いだから、薄着にしてはいるけど、それでも上等なものを着てるのがわかる。国の正規兵」

「この土地のゲリラ兵にしては、本格的すぎるってことだよな」


「そこから推測するに、敵の目的もおもむろだからわかってきたよ。この霧は衰弱が目的で、殺すほどじゃない。おそらくマナに恵まれた異世界人の生徒をまとめて連れ去る気なのよ」

「誘拐ってことですか!」

 理奈が声を荒らげた。サヨルは小さくうなずく。


「異世界人の能力は戦争において脅威だからね。それをまとめて連れ去って、自国の軍隊に組み込むことができれば、敵の戦力も奪えて一石二鳥よ。まったく言うことを聞かないなら殺しちゃえばいいだけだし。親族すらこの世界にいないんだから、恨まれる心配もない」


「ひ、ひどい……。理奈たちはモノじゃないよ……。人間だよ……」

 また理奈の心が乱れてきた。恐怖が湧き上がってきたのだろう。


「ヒョーノ派魔法の伝承者が帝国を招き入れた、あるいは帝国に移住した者がいる、どっちかが事の真相だと思うわ。そして、異世界人を誘拐しようと動きだした」


 だいたいの事情はわかってきたが、問題はこれからどうするかだ。


「サヨル、何か策はあるか?」


「時介、ここは今のうちに逃げたほうがいいわ。これが上策ね」

 悩むことなく、サヨルは言った。

「私たちは敵の術中にはまっている。しかも魔法も使えない。無事な生徒だけでも連れて、教官の宿舎に戻るべき。宿舎の中なら剣士の攻撃を防御できるし、あのあたりなら森から離れてるし、魔法も使えるかもしれない。霧も来てないしね」


「上策っていうことは、下策もあるってことだよな」

 俺は剣を構える。

「敵のところに乗り込む。俺は剣士でもあるから、少しは活躍できるだろ」


「自殺行為だよ! 敵が何人いるかわからないのに!」

「このまま生徒がみすみす連れ去られるのを眺めるのは、教官としてダメだろ。のんびりしてたら、連れ去られる生徒の数が増えるだけだ。サヨルは理奈を連れて、戻ってくれ。あと、戦える教官がいたら、加勢をお願いする」


 選択肢は最初からないようなものだ。


「サヨルは魔法でしか戦えないから諦めるのもわかる。けど、俺はそうじゃない。戦えるのに生徒を見殺しにしたような教官に、生徒がついてくるか?」


 魔法剣士というのは、まさしくこんな局面でこそ活躍する存在なのだ。

 ここで戦わなくて、何のために魔法剣士になったのか。


「あとな、俺、亀山と会ったんだ。この作戦はもしかしたら俺を苦しめるために計画された可能性すらある」

 だったら、俺がけじめをつけるしかない。


 サヨルが俺の腕をつかんだ。

「だからって……危険すぎるよ……」

「ちゃんと生きて帰ってくる」

「根拠がないよ。しかも、魔法使いの私は何の協力もできないし……」


 サヨルの苦しみもわかる。逆の立場だったら、とても行かせることなんてできないだろう。だって、一緒に戦うとすら言えないのだから。


「わかってくれ、頼む」

 サヨルは泣きながらうなずいた。

「もし、死んだら許さないからね……」

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