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赤ペン精霊の神剣ゼミでクラス最強の魔法剣士になれました  作者: 森田季節
第二部 神剣ゼミで剣士に編

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75 復讐の鬼

「やめて、やめてっ!」

 ほぼ同時にかなりはっきりとした悲鳴が聞こえた。


 俺はすぐにそちらに向かった。敵がいるのはほぼ間違いない。


 理奈がローブをすっぽりかぶった何者かに襲われていた。

 その制服はかなりはだけているというか、明らかに一部が切り裂かれたようになっていた。月明りに照らされて、肢体がほの白く映った。ということは、そこだけ霧が薄くなっているということだ。


「離して! お願い!」

「一発ヤらせてくれたら助けてやるって言ってんだろ! マジでぶっ殺すぞ!」


 どこかで聞いたことがあるような声だ。魔法使いにしては言葉遣いがやけに乱暴に聞こえる。


 何を使う? 攻撃系の魔法だと理奈まで傷つけてしまう。

 いや、水の系統なら大丈夫だ。ハイドロブラストを使えば。


 すぐに脳内に「水」という漢字とその背後に呪文の文句を思い浮かべる。

 これぐらいならすぐに無詠唱で使用することができる。


 ――だが、


 魔法がなぜか出ない。

 なんでだよ! 発動に失敗するような魔法じゃないだろ!


 しょうがない。

 俺はアーシアからもらった剣――精霊剣とでも呼んでおこうか――を引き抜くと、そちらに走る。


「おい、やめろっ!」

 その声にローブの男は「ちっ!」と舌打ちした。


 それから、理奈からさっと離れた。


「いいところなのに邪魔すんじゃねえよ。ったく、なかなか上手くいかねえな」

 やはり、その声には聞き覚えがある。

 しかし、向こうも同時に俺に気づいたらしい。


「ああ、まさかお前とここで会えるとはな。ある意味、ついてるのかもしんねえな」

 男は頭にかぶっているローブをはずした。


 その顔は間違いない。俺がかつて倒した亀山だった。


 亀山はもともと俺のクラスメイトで、成績が上がってきた俺を殺そうと画策した。口をふさいで魔法が使えなくして、リンチを企てた。

 だが、無詠唱魔法が使えなければ死ぬという環境で土壇場で俺は無詠唱魔法を使うやり方を編み出した。あとは亀山の仲間もろとも叩き潰した。

 それから先、亀山たちは退学になっていたはずだが――


「お前がなんで、ここにいるんだ……?」

「島津、お前に復讐するために決まってるだろ。お前の築いてきたもの、とことんぶっ壊してやるからな!」


 亀山の目は爛々と光っていた。何かに魅入られているようだ。かつてのダルそうな態度の人間と比べると別人に見える。しかし、俺に対する敵愾心だけははっきり残っている。


「けど、ここで戦うのは得策じゃねえな。一回、退いてやるよ」

 そう言うと、亀山は背を向けて、森に消えていく。


 追いかけるべきか? いや、その前に理奈を助けるのが先だ。

 理奈は体を隠しながら、泣きじゃくる。亀山が消えて緊張の糸が消えたのかもしれない。


「大丈夫か……?」

「うん、ありがとう……」

 怖かったのか、理奈はそのまま俺にしがみついてきた。時間に猶予はないが、すぐには理奈も心の切り替えができないだろう。しばらくは理奈が泣くのに任せていた。


「この霧について何か知ってたら、教えてくれないか?」

「一時間半ほど前かな……。やけに白い霧が出たなと思って、そばにいた子が魂が抜けたみたいに、がくっと倒れていって……怖くなって霧が薄いところまで逃げてきたんだけど……そしたら、亀山が来て……」


「あいつは何か魔法を使ってたか?」

「ううん……こっちの体もあまり動かなくなってて……力ずくで……」

「怖かったよな」

 俺はそっと、理奈の肩を抱いた。


「怖かったけど……島津先生が来てくれたから……」

 少しだけ、声が明るくなった。

 そろそろ移動したほうがいいな。状況は考えている以上にまずいほうに向かっている。しかも、俺にはっきりと恨みを抱いている奴が関わっている。


「理奈、落ち着いたら服を着て、教官のいる宿舎のほうに戻るぞ」

「それだと、ほかのみんなが助からないんじゃ……」


 たしかに難しいところだが、道さえわかればそう時間をかけずに往復のできる距離だ。

 まずは見つけた人間を確実に届けるほうがいい。

 それと、おそらくだが、戦闘になる危険が高い。

「理奈を助けたらすぐにほかの人間も救助に向かう。だから、今は戻ろう」

「うん、わかった……」


 理奈を連れて、道を引き返す。途中、班がどのあたりに布陣してるかも理奈から聞いた。

まだ理奈の班は近いほうで、もっと遠くにいる班もあるらしい。


 とっとと夜が明けてくれれば、まだ状況が把握しやすいが、夜の間にというのはきついな。

 途中、また霧が濃いところに出た。

「理奈、あまり吸い込むな」

「うん、わかった……」


 この計画、亀山一人での発案だろうか? たしかにこの訓練は年中行事みたいなものだから、場所や日程の把握ぐらいは容易ではある。

 けど、これだけ規模の大きい魔法をあいつ一人が使えるようになるだろうか?

 いくら、熱心に復讐のために努力したとしても無理がある。少なくとも何か師匠のような存在がいるはずだ。


 妙に生々しい気配を感じた。

 覆面をした剣士が俺の前に立ちはだかる。


 相手はすぐに抜刀する。すでに戦う意志は固まっているようだ。


「お前は何者だ?」

 答えるつもりはないらしく、剣を持って、突っ込んでくる。

 俺は再度、無詠唱でパイロキネシスを使おうとした。


 けれど――また魔法が発動しない。

 いつもはあるはずの手ごたえみたいなものがないのだ。


 いったい、どうなってるんだよ!


 その間に敵は距離を詰めてくる。

 しょうがないな。剣士として戦うか。


「理奈は離れててくれ!」

 俺は剣を抜いて、敵と打ち合う。

 すぐにつぶされるなんてことはない。ちゃんと剣で敵の剣を受けられている。

 激しい鋼と鋼の音が飛び交う。

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