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赤ペン精霊の神剣ゼミでクラス最強の魔法剣士になれました  作者: 森田季節
第二部 神剣ゼミで剣士に編

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74 謎の毒霧

「助けて! 助けてください!」

 はっきりとそんな声がした。


 女子生徒の魚住が走ってきた。命からがらというのがその表情からわかる。くちびるは青くなっている。


「いったい、何があったの?」

 サヨルがすぐに魚住に近づいて、その体を抱えた。かなり魚住は興奮しているし、それを落ち着かせる意味合いもあった。


 俺の頭にすぐよぎったのは、模擬戦が激しくなりすぎて、本気の殺戮戦みたいになったケースだ。

 模擬戦でも真剣は使わずに木剣を使いはする。それでも、野営のためにナイフは持ち歩いているだろうし、魔法の威力が大きければ、それで大ケガをすることだってある。


 そのために回復役の聖職者が巡回するようにしているが、彼らが気づく前に事が起こっていることだってありえた。


 でも、魚住の話はもっと意外なものだった。


「変な霧みたいなのが発生して、その霧を吸い込んだ人たちがどんどん倒れていって……」

「そんな魔法、あなたたちは習ってないよね……? 私も心当たりがない……」

「俺も知らない」

 サヨルも俺もわからないなら、生徒が使った可能性は捨てていいだろう。


「それで、その倒れていったところに怪しい魔法使いみたいな人が来て……これは何かおかしいと思って、口を押さえて、なんとか逃げてきたんです……」


 ぞっとするような話だった。


「ど、どういうこと……? 敵の魔法使い……?」

「サヨル、そういう訓練の一環ってことはないんだよな? ほら、緊急事態に対応するためだとか、なんとか……」

「いくらなんでも、ありえないって!」


 じゃあ、何者かが生徒を襲っているってことか。

 事態は一刻を争う。

「わかった。魚住、君は教官の部屋をノックしてまわって、このことを告げてくれ。俺とサヨルはすぐに現場に向かう」

「は、はい……。場所はまともな道がないからわかりづらいんですが……このまま、まっすぐ行ったら、小さな川にぶつかるんで、あとはそこから川沿いに下っていったあたりです……。でも、霧はもうちょっと広がってるかもしれないけど……」


「ありがと。とにかく、状況がわかるまでは森に近づくな」

 俺とサヨルは夜の森に入っていった。


「時介、これを舐めてて」

 サヨルに渡されたのはおはじき状の飴玉だ。

「それは相手からの魔法の効き目を弱くするの。霧に近づいた途端、動けなくなったら、話にならないからね」


 俺はその飴をすぐに口に入れた。

「こういう魔法ってどう対応すればいいんだ? プロテクション・フロム・マジック? マジック・シールド?」

 いくつか使える魔法の名前を並べた。

「そういうのは、主に攻撃魔法を防ぐものだからね……。広範囲に効き目があるものは具体的な対象を決めていないから、別の防御方法が必要になるの。マジック・クッションって魔法ね」


「ああ、一応記憶にあるな……。詠唱もギリギリ記憶にある」

 無詠唱でやる必要はないので、走りながら呪文を唱えた。膜みたいなものが体を覆った感覚があった。


「ダメ、ダメ! 走りながらだから、効果が中途半端になってるよ!」

 サヨルに腕をとられた。

「私がやるから、そこに少し止まってて! え~と……我を包み込め、神聖なる護符のように、えっと……一枚一枚積み重ねられた薄絹のように……ええと……」

「おい、大丈夫か……? そもそもうろ覚えじゃないか」

「これを使うこと、あまり想定してなかったんだもん……。大丈夫、今、思い出したから!」


 どうにかサヨルは詠唱を最後まで言い切った。

 たしかにさっきよりも分厚い膜に覆われた気がした。


「助かった。急がばわまわれって言うのが正しいかわからないけど、防御は固めてから突っ込んだほうがいいな」

「生徒だけじゃなくて私たちの命もかかってるからね。アンデッドハンターがアンデッドになるようなことは避けないと。それに――」


 森の奥にサヨルは目をやる。

 白い霧がだんだんとこっちにやってくるのが見えた。


「――霧が広がってきてる。魚住さんがなんとか逃げ切れたぐらいだから、毒性が強すぎるってことはないだろうけど……」

「原因不明なのがタチが悪いな」


 俺たちは一度、顔を見合ってうなずいてから、中に入っていった。

 それは覚悟を決める儀式みたいなものだ。


「毒性が弱いっていうのは本当だな。体が動かなくなるってほどのことはない」

 俺たちは霧の中をかき分けるように進む。

「おそらく、ある程度の魔法使いには効きづらいのと、防御手段も講じてるからだろうね」

「これ、自然現象ってことはないんだよな? 毒の霧が出やすいとか?」

「そんなものが出る場所で、訓練なんてしないって!」


 その時、数人が倒れているのが目に入った。

 近くに布が張って、テントみたいになっているから、ここで夜営していたグループがやられたらしい。


「みんな、大丈夫か!」

 動きは緩慢で衰弱しているが、意識はあるらしく、男子生徒の一人がぼそぼそと「動けなくなった」と言った。

「魔法耐性をつける飴が効くかな……?」

 サヨルは順に飴を生徒の口に入れていった。

 すると、気付け薬になったみたいに、少し生徒に生気が戻ってきた。


 ここはまず助けられる生徒を助けるべきだな。

「サヨル、君はこの班員を一度、森の外まで連れていってくれ。俺はもっと先に行く」

「えっ! 一人で行くなんて危ないって!」


「大丈夫だ。まだ霧の影響はそこまで俺に来てないし。あと、教師としてやらないわけにもいかないだろ」

 しばらく迷っていたようだけど、サヨルもうなずいてくれた。

「絶対に戻ってきてね。というか、私がすぐ戻ってくるから」


「当然だ」

 俺とサヨルは別れ際、パンとハイタッチをした。


 飴の袋を受け取って、さらに先へと進む。

 霧はさっきより濃くなっている。生徒の姿はない。それがいいことなのか、悪いことなのかは微妙なラインだ。もっと霧が薄いところにみんないてくれればいいんだが。班で固まらずにばらけて行動しているところもあるかもしれないから、捜索は難しい。

 しかも夜なのがつらい。月明りはあるが、昼と比べればはるかに難易度が高い。


 ――と、何かがごそごそと動いているのが見えた。


「やめて、やめてっ!」

 ほぼ同時にかなりはっきりとした悲鳴が聞こえた。


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