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赤ペン精霊の神剣ゼミでクラス最強の魔法剣士になれました  作者: 森田季節
第二部 神剣ゼミで剣士に編

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72 一つになりました

 生徒たちはそれぞれ自分の持ち場を目指して、山の中に分け入っていった。

 木が生い茂っている中に入っていって、やがて見えなくなる。


「一種の山岳ゲリラ戦をやるってことね」

 サヨルが言った。山中での戦いとなると、そういうことになりそうだ。この立地を有効に使ったチームが勝つ。


「さてと、私たちはちゃんとした宿舎があるし、そっちで休んでおきましょ」

 サヨルが俺の手をとった。


「うん、生徒が実習してる時に休んでるのも罪悪感あるけど」

「その代わり、夜は生徒の応対で起きてないといけないの。今のうちに寝ておかないとあとが大変よ」

「そっか、夜に脱落する生徒もいるかもしれないもんな」

「まだ、今年はたいしたことないよ。来年度はもっと厳しい実習も多くなるから。私も変な野草食べて、おなかをこわした思い出があるわ……」

「そっか、経験者だよな。あんまり、サヨルって先輩って感じがないから」


「……失礼なこと言わないの」

 サヨルにちょっと手の甲をつねられた。


 山の中にある割には宿舎の部屋はこぎれいだった。王都の宿と大差はない。むしろ、景色がいいだけこちらのほうがお得なぐらいだ。生徒たちが散っていった山と逆側は下に川が流れていて、深い渓谷みたいになっている。その景色が宿から見渡せた。


 ただ、そんなことより気にかかることがあった。


「サヨルと同じ部屋なんだ……」

 部屋の配置を見て、びっくりした、たしかに寝室は別々に用意されているが……。


「ここは王都の役人が宿泊するような宿だから、質はいいの。その分、部屋数は少なくて、一人一部屋ってわけにもいかないのよ」

「もしかして、ヤムサック教官が余計な気をつかったのかな……」


 付き合っていることはとっくにばれているから、ありえないとは言えない。


「実は私がお願いしたの……」

 顔を赤くして、サヨルが目をそらしながら言った。落ち着かないのか、左の人差し指で頬をかいている。


 えっ……。それってもっと二人の距離を縮めようってことか……?

 やっぱり、もっとこちらから積極的にいかないといけなかったんだろうか……。急にがっついたらよくないと思って、ライトな対応をしてたんだけど、逆効果だったかな……?


 たしかに付き合ってから、サヨルの部屋に行ったことも二回ぐらいあったけど、すぐに帰っちゃったし……。あれは失策だったんだろうか。


「あの、サヨル……俺、こういうことに慣れてなくて――」

「二人のほうが勉強するのに効率がいいなと思って」


 サヨルの視線の先には何冊も本が置いてあるテーブルがあった。

「こっちの地方だけで伝わっているって言われてる独自魔法の研究資料。勉強会できない、かな……?」

「あっ、そういうことか……」


 ほっとしたような、がっかりしたような。ちょうど半々ぐらいの気持ちだ。

 ただ、もう、意識は独自魔法という言葉に移っていた。

「あのさ、独自魔法っていったい何だ?」

 そう言いながら古い本のテーブルに行って、ぱらぱらとめくる。


「ずっとずっと昔のことだけど、このヒョーノ山のあたりは一種の独立国家だったの。そこに土着の魔法使いがいて、ハルマ王国とは違った魔法を操っていたと言われてる。今はそんな連中は残ってないはずだけど、その魔法についての古写本はなくもないの」

「上手く、それを復元できればいい武器になるってことか」

「そういうこと」


 なんだかんだで、サヨルも勉強熱心だな。

 俺も独自魔法の研究資料をサヨルと一緒に読み進めることにした。


 いきなり、詠唱が載っているだなんてことはなくて、魔法の特徴が書いてある。一種の歴史書に近い。


「ヒョーノ山の魔法使いが声を発すると、兵士達がいきなり同士討ちをはじめた――けっこうえげつないことをやってるみたいだな」

「概念魔法ってほどじゃないけど、広範囲な魔法ではあるみたいね。それと、気になる記述はこれ」

 過去に読んだことがあるのか、サヨルはすぐに違うページを開いた。


「どうも、ここの魔法は人間の感情を利用するらしいの。過去の伝承からそういうことが裏付けられるって、ここに書いてある。極端な思考の人間ほど、強力な魔法が使えるとか」

「片鱗だけだけど、けっこう、ヤバいにおいはするな……」


「今にここの魔法が残ってないのも、そういう理由だと思う。危ないから封印されたんじゃないかな。けど、威力が強いってことは、上手に使えれば武器にもなるから」

「古代魔法の復活か。けっこう、とんでもないこと考えてるんだな……」


 思わず、サヨルの顔を見つめた。

 いつもより、サヨルが大人びて見えた。


「私があまり使えなさそうな魔法まで習得しようとしてたのも、ここと関わってくるの。半端な魔法の中には王都の主流とは異なる伝来過程のものもあるかもしれないから。どこかで別の魔法体系を見つける糸口になるかもしれない」


「正直言って、気の遠くなりそうな話だな……」

「私もそう思う。何度か投げ出しそうになったよ。でも――」

 俺の手に、そっとサヨルは手を重ねてきた。


「時介とだったら、きっと乗り越えられると思うから」

 サヨルの手は少し冷えていたけれど、心はそうじゃないとすぐにわかった。

「お願いします、私の隣を一緒に歩いていってください」


「こちらこそ、喜んで」

 どちらからともなく、くちびるを交わした。

 二人で同じ本を読んでいたせいで、ちょうど近い距離にいられたことを感謝したい。自然とそうするのが正しい気がして、銀色の髪と肩に手を伸ばした。


「サヨルのこと、もっと知りたいな」

 サヨルは目を合わせるのが怖いのか、ちょっとうつむいたようになって、

「いいよ……」

 とうなずいた。


 そのあと、寝室の一つで、ゆっくりと愛し合った。

 お互い、ぎこちないところがあったけれど、愛は深まったと思う。


「サヨルの肌って、本当に白かったんだな」

「男の人に見られたことないから、恥ずかしいな……」

「それだったら、俺も同じだから、おあいこだ……」


 そのまま疲れて、同じベッドで眠りに落ちた。

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