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赤ペン精霊の神剣ゼミでクラス最強の魔法剣士になれました  作者: 森田季節
第二部 神剣ゼミで剣士に編

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71 訓練場所に到着

 そのあともサヨルは理奈にからかわれていた。サヨルも生徒に好かれることに対する免疫はあまりないらしく、困ったような顔をしていた。

「私、生徒と付き合うってことを考えたことは一度もないしなあ……」

「じゃあ、俺はどうなるんですか」

 自分の顔を指差す。

「あっ、本当だ……。時介は別格というか、特別でしょ……。あくまでも同僚枠ということで……」


 理奈はそんな様子を見て、さらに面白がっていた。こういうのって、あたふたすると余計にいい餌食になるんだろうな。でも、どっしり構える余裕がないのは俺もサヨルも同じだ」


「理奈、ちなみに……俺のこと、好きな女子って誰がいるの……?」

「ちょっと! なんでそんなこと知る必要があるのよ!」

 サヨルに怒られた。もっともだ。浮気しようとしてると思われても文句言えない。

「あくまで、参考にだ……。誰だって気にはなるだろ」

「そんなこと知ったら、授業を公平にやりづらくなるでしょうが。知らないほうがいいのよ」

 それはまったくの正論だ。明らかに自分を好きな生徒を意識してしまう。


「じゃあ、すごく遠いヒントだけ出すね。教師と生徒の関係ってすごく複雑だよね~」

「全然、わからん」

「これ以上は言わないよ。遠いヒントって言ったしね。じゃあ、お邪魔して悪かったから、あっち戻るね!」


 理奈は手を振ってスキップするように足を動かして森のほうに消えていった。よほど楽しかったんだろう。まさにコイバナだったわけだし、しょうがないかもしれない。


「高砂さん、真面目なんだけど……こういう話は教師としてどう接していいかわからないから、大変……」

「気持ちはよくわかる……。生徒と年齢差が近いと、こういう問題があるな……」

 自分なんて近いどころか、クラスメイトだからな。もしかして過去も似たような問題があったりしたんだろうか。


 でも、明確な答えがあるものじゃないし、自然体でいくか。

「集合時間までまだあるし、ちょっと散歩でもしないか?」

 食べ終わったので、サヨルの手をとる。

「そんな……手をつないでるところとか、見られたら、また噂になるよ」

「それだったら心配いらない」


「どういうこと?」

「理奈にばれたんだ。百パーセント、話は広がってる。今更注意しても、すでに遅すぎる」

「そういうことか……」


 がっくりと肩を落としたサヨル。それから、吹っ切れたように笑った。

「じゃあ、時介と森でもぶらつくことにするわ」


 森の散歩はなかなか楽しかった。これまで以上にサヨルとも話がはずんだ気がした。もっとも、色気のある話かというと、全然そんなことはなかった。

「ヒョーノ山って、割とセルティア王国と近いけど、今回って敵が入ってくることを想定しての作戦ってことでいいのか?」

「その可能性が一切ないというとウソになるけど、ヒョーノ山経由の道はそこから先も山岳ルートが続くから主要な道ではないわね。もっと南の低い山からの道が本命。そこには今も砦があって、兵が詰めてるし」


「それでも、訓練には実戦に近いことをさせるって意味があるのは事実だし、生徒も気合い入れてやってほしいけどね。敵が西から入ってくる危険もあるし。あっ、おいしそうなキノコ!」

「気合い云々の説得力もぶっ飛んだな……」

 キノコは素人が選ぶのは怖いので、あまり触らないでほしい。触っただけで手がただれるものもあることにはある。


「難しいところよね。本当はガチガチに締め付けてやったほうがいいのかもしれないけど、王国も勝手に呼び出した負い目があるからね。もっと早い段階で軍人になるか、普通に王国で生きていくか、決めてもらってもいいかもしれないけど、ある程度時間をかけないと素質があるかどうかもわからないし」

「思い出作りも必要だしな。そのへんは俺たちのいた世界の学校も一緒だった」

 遊びと勉強のバランス。何が一番いいかは難しいところだ。


「まっ、教員としては生徒みんなが無事に帰ってくることを願ってればいいんじゃない?」

「おっ! 教官らしいこと言った」

「何よ、その言い方! 教官なの! 生徒が好きじゃなかったら授業を受け持たずに研究だけしてるって!」


 ただ、散歩から戻ったら、その生徒たちに「どっちからアタックしたんですか?」などと早速女子生徒に尋ねられたが。

「本当に、噂が広まるのって速いのね……」

 サヨルがすぐに赤面してうつむいてしまい、さらに格好の的になっていた。サヨルももうちょっと耐性つけないと、今後きついぞ……。



 ヒョーノ山脈には予定通りに到着した。雨が降ることもなくて、よかった。

 生徒たちも、かなり徒歩の時間が長かったのと、ものすごく険しいということはなくても、それなりに登りの山道も歩いたので、すでに疲弊の色が見えた。


 まず、ヤムサックが班ごとに生徒を並べなおさせた。


「よし、みんな今から大切な話をするからな。心して聞け」

 ヤムサックがいつもより心なしか大きな声で言う。


「今日から、模擬軍事訓練を行う。最初の訓練は、この山の中に潜んで、敵の班と戦う。君たちはそれぞれ山小屋を拠点にしつつ、敵と戦ってもらう。各班には旗を渡しておく。それを守り切れ。逆に奪われたら、それまでだ。旗を敵にとられると班員は痛みを感じるようになっている。一種の呪いの魔法だな」


 ろくでもない魔法をヤムサック、旗にかけてるんだな。けど、そういう魔法がないと、斥候に出てたり、攻め込んでる班員が自分のところが負けたことに気づけない。ルール上、必要ではある。


 班は赤の旗と青の旗のチームに分かれる。同じ色で連携しつつ、相手を攻撃していく。


「日限は明日の正午までとする。ラッパを鳴らすからそれが合図だ。負けた側で、かつ、最初に脱落したことがわかった班には池を一トーネル泳いでもらうのでそのつもりで」


 一トーネルというと、一キロだ。かなりハードな内容と言っていい。きつい、三分の一にしてくれといった声が上がる。


「ダメだ。最初に旗をとられたということは、戦場で最初に戦死したようなもの。すぐに死ぬ兵士には価値も薄い。下手をすると、そこから味方の士気が下がることもあるからな」


 ヤムサックの言うとおりだろう。

 訓練が甘々では意味がない。

 こうして、訓練がはじまった。

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