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赤ペン精霊の神剣ゼミでクラス最強の魔法剣士になれました  作者: 森田季節
第二部 神剣ゼミで剣士に編

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67 交際することになりました

 翌日の授業では、やたらと生徒に声をかけられた。


「先生、おめでとうございます!」「先生、私に剣技も教えてください!」

「いや、剣技は剣技の教官がいるから、そっちに教えてもらってくれ……。俺もまだまだ人に教えられる次元じゃないから……」

「でも、スイング教官に勝ったじゃないですか!」


 決勝で俺に負けた中山が言った。これまでにないぐらいの尊敬のまなざしを感じる。その視線を素直に受け止められないので、つらい……。


 俺が威張れるほど剣で強いわけじゃないのは事実だ。スイングには賭けに出て勝ったが、あんなものを繰り返せるわけがないし、賭けに出ないといけない時点で自分が不利ということだ。あれが一対一の対戦形式だから勝てたが、戦争でスイング程度の剣士二人に挟まれたら俺は絶対に殺されていた。


 とはいえ、勝ったのも事実だから、あまり謙遜するとスイングがもっと弱いと言ってるのと同じになっちゃうんだよな……。どっちに傾いても、スイングを怒らせそうで怖い。わざわざ教官なんて身内に敵を作りたくない。


 ただ、授業はいつもどおりだった。課題をやる奴はやってくるし、やらない奴はやらない。


 神埼千夏はもうずっとサボっている。完全に投げちゃってるらしい。

「すいませーん、忘れました」

「じゃあ、明日はちゃんとやってね」

 別に神崎が俺を舐めているわけじゃないのはわかる。神崎はつまるところ、落ちこぼれなのだ。一定の割合で落ちこぼれの生徒は必ず生まれてしまう。

 これの問題はヤムサックとでも話しておこうか。


 一方で成績が伸びている生徒は確実に増えている。出されたものをちゃんとやるタイプの生徒には成長できるだけの課題を少し多くても出していた。それについてくるから、実力もどんどんついてくる。


「先生、魔法の演習で上位に行きました!」

 課題の点検中、理奈が元気よく教えてくれた。

「うん、よくできました。これからも魔法伸ばしていけよ」

 戦場でやっていけるだけのものを俺は教えていけばいい。


 師匠のところに行ったら、すごく何か言いたそうな顔をしていた。

「お前な、一人で勝手に帰るようなことをするな」

 俺はイマージュに書いてもらった紙を見せた。

「なっ……。お前、こんなものを……」

「絶対記憶にないだろうなと思って、書いておいてもらっていました」

「ぬかりないな……。さすが、私の弟子だ……」

 むしろ師匠が信用できなかったから、こういうものを用意したんだが。


「昨日、お前は見事な戦果をあげたが、課題も多い。それを克服していく」

「はい、お願いします」

 もとよりそのつもりだ。スイングぐらい楽勝で倒せるようになっていないと高名な魔法剣士にはなれない。せいぜい、ただの器用貧乏ぐらいの立ち位置で止まってしまう。


「それと、『型』を覚えるのと同時に練習試合の数をこなすのが大事だと思った。軍隊の剣士と練習試合をしていけ。すでにこちらから、仲のいい将軍には話を通してある」

「ありがとうございます!」

 正直、俺ももっと試合をやって、実戦の空気を磨きたかった。でないと、習った「型」を試すことができない。

 ただし、その日は練習試合に行く前に、師匠にみっちりしごかれた。


「今日のお前は雑念が多いのか、キレがないな。何かあったか?」

「なくはないです……」

 きっちり剣に出ちゃってるのはまずいな。


 雑念の原因ははっきりしていた。


 その夜、俺は演習場に顔を出した。かなり時間より早く来たのに、サヨルさんは待っていた。

「早すぎませんか?」

「私のせいで来てもらってるのに、待たせたら悪いでしょ」

 サヨルさんは恥ずかしそうに笑った。これで平常心でいろっていうほうが無理だよな。


 俺も決めている答えを言うだけでも、落ち着かない。

 だから、ちょっと思い切った行動に出た。


 サヨルさんの手をさっと握る。


「きゃっ……! 何? 何なの? 島津君?」

「手を握ってくれって昨日、言ってたでしょ」

「あっ……」

 サヨルさんの顔がはっとしたものになる。俺はできるだけ、かっこよく笑いかける。ここでかっこつけないで、どこでつけるんだ。


「付き合いましょう、サヨルさん。それが俺の答えです」

 サヨルさんと二人でもっと高みを目指そうと思った。きっと、サヨルさんなら俺を支えてくれるだろうし、俺もサヨルさんの心が折れそうな時、支えられる自信があった。


「ありがとう、島津君……」

 サヨルさんの目に涙がたまる。声も涙声になっていた。

「二人の時は、時介って呼んでくれませんか?」

「じゃあ、私のこともサヨルって呼んでね。それと丁寧な言葉づかいもやめで」

「サ、サヨル……」

 呼び捨てにするのって、かなりハードルが高いな……。


 この世界の交際がどういうものか、よくわからないので、事前にアーシアにも聞いていた。貴族とか良家の出身者であればたいていは交際も制限されるが、逆に言えばそうでない立場であればある程度の自由恋愛は許されているらしい。

 ただし、それが結婚ともなると、主に財産や地位の問題に直結するので横槍が入る割合も高くなるらしいが、それは当たり前と言えば当たり前だろう。俺とサヨルさんの間にそんな問題は関係ないし、だからこそサヨルさんも告白してくれたはずなのだ。

 ひとまず、一緒に話をしたり、ごはんを食べたり、買い物をしたりしていればいいのだと思う。そこから先は、その場の流れで。


「じゃあ、時介、早速だけど教えてほしい魔法があるんだけど……」

「別にいいけど、いきなりそれっていうのも雰囲気出ないな……」

「だからって、すぐに、と、時介の部屋に行くっていうのも極端だと思うし……」

 俺も顔を赤くしていたと思う。それはあまりに性急だ。


「魔法、教えるぞ……」

「うん、お願い……」


 全体的にぎこちなさがあるけど、これはそのうち解消されるだろう。そう、信じたい。


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