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赤ペン精霊の神剣ゼミでクラス最強の魔法剣士になれました  作者: 森田季節
第二部 神剣ゼミで剣士に編

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55 師匠との稽古

 イマージュとの稽古は俺が弟子になった瞬間から、途端に厳しくなった。


「腋が甘い! そんなことじゃ、付け込まれる!」

「はい! わかりました!」

「あごをもう少し引け! 本番ではそこに刃物がやってくるぞ! 視線も泳ぎやすくなる!」

「はい! 気をつけます!」


 弟子になった以上、タメ口なのはおかしいので、言葉も敬語にするようにした。タクラジュは「あんなのに敬意を表する意味はない」と言っていたが、そういうわけにもいかないだろう。


「剣は基礎はできているが、基礎の基礎しかできていないな。学校での教育はこれぐらいしかやらんのか」

 イマージュは俺というよりは、学校のほうに不安を抱いていた。まともな剣士からすると、すごく生ぬるく見えるんだろう。多分、学生の職業体験みたいなレベルなんだと思う。


「信じられないかもしれないが、こんなものなんです。もちろん、その中でも成績のいい奴が剣士になるわけだから、剣士まで進む奴はもっと使えると思いますけど」

「それにしても初歩の初歩すぎる。そりゃ、農民の徴発兵ぐらいなら勝てるかもしれんが、まともな職業軍人が来たら、即座に斬り殺されるぞ……」


 やはり、イマージュは実戦を前提にして考えている。


「基礎はできていることにする。さて、お前の剣で根本的に欠けているものがあるが、それが何かわかるか?」

「経験とか、ですか?」

「そういう抽象的なものではない。『型』だ」

 ずばっとイマージュは言った。

「いいか? 剣というのはやみくもに相手のもろそうなところをその都度考えて狙うだけのものではない。素人なら、そういうことぐらいしか考えられんかもしれないが、実際には高度に体系化されているのだ」


 遠くで腕組みしているタクラジュがうなずいているので、ここは姉妹の共通見解らしい。


「どういうものか見せたほうがわかりやすいだろう。『雷の運び屋』流第五の型!」


 そう言うとタクラジュはすぐさま流れるように剣を振っていった。


 シュッ! シュシュッ! シャッ!

 剣を振ると当然体が動くが、その動きを利用して次の動作に入る、また素早く剣を薙ぐ。そこで生まれた動きがまた次につながる。文字通り、流れているように一連の動作が見えた。


 最後に下から斬りあげるように斜め上に剣を振るって、イマージュは剣を鞘に収めた。


「おおっ……!」

 思わず、俺は拍手をしてしまった。たしかに学校での剣技の時間とは質的に異なっている。というか、こんなことをやれる敵が出てきたら、生徒は殺されるしかないな……。


「弟子なのだから別に拍手はせんでいい」

「でも、イマージュはまんざらでもなさそうだぞ」とタクラジュが笑いながら言った。

「余計なことを言うな!」

 恥ずかしいのか、イマージュが声を荒げた。


「こほん……。とにかく、拍手はどうでもいい……。型の話をするぞ」

「は、はい」

「剣を振れば、言うまでもなく自分の姿勢はそれによって変わる。ならば、その姿勢からの次に移りやすい攻撃も自然と決まってくるわけだ。盤上で戦うゲームでも、なんらかの作戦に従ってコマを動かしていくだろう? それと同じだ」

 たとえがまずかったのか、姫の表情がぴくっと動いた。俺が勝ちまくっちゃったからな……。


「その姿勢で防御的要素もありつつ、攻撃的要素もある動きがいわば最善の動きということになる。相手がそこからこちらを崩しづらくなるわけだからな」

「そうか。ちゃんと守りも考えてるんですね」

「極論、守りが完璧ならば死なないからな。死なないということは戦場においては負けないということに近い。命をおろそかにする剣は、畢竟、弱い剣だ。そんな剣士は長くは生きられんからな。言葉にすればすぐにわかる道理だろう?」

 俺はうなずく。想像以上に合理的な精神でやってるんだな。


「なので、最善の手を並べていけば、自然と動きは一連の動作にまとまってくる。それを『型』と呼んでいるわけだ。『型』もたった一つしかないということはないから、その場に応じてどれにするか選ぶが」

「『雷の運び屋』流第五の型と言ってましたね」

「そうだ。『雷の運び屋』流というのが私が継承している流派だ。実はタクラジュとは違う。あいつは『翼モグラ』流というしょうもないものを使っている」

 タクラジュが奥で文句を言っている。

 多分、同じのを習うのは嫌だったんだろうな……。


「私の流派は基本の型が七まである。そのあとに中級のが七、上級のがまた七と合計二十一種を覚えることになっている。まずは基本の七つを覚えていけ。それを覚えてきたら、やっと剣士と呼べるものになる」

「わかりました。やれるまでとことんやります」

「ああ、これができないと、お前は剣士じゃなくて剣を振り回しているだけだからな」


 そのあとも体が硬いとか、動きが遅いとか、姿勢が悪いとか、いろいろと指摘されまくったが、初の本格的な稽古だったので気分はかなりノっていた。


 あと、これを続けるなら、剣技の授業なんて絶対に受ける意味がないな……。



「やりたいことがあるので、剣技の授業は省略させてもらってよろしいですか?」

 ヤムサックに言ったら、顔色も変えずに、

「ああ、かまわんぞ」

 と、ものすごくあっさり了承された。


「お前の魔法の能力で、剣技の授業をやるほうが無駄だからな。むしろ、こっちから止めておいたほうがよかったか?」

「いえ、剣技に興味がないわけじゃないんです。でも、授業だとどっちみち効率が悪いなと思って……」

「そうか。無駄と思うならやらんでもいいぞ。そんなもの使えなくても、お前は軍人として魔法で戦うことになるだろうからな」

 この調子だと、俺が剣技をやる気はないと認識されてるな。まあ、イマージュの弟子になったことはいちいち言わなくていいか。そのうち、ヤムサックの耳に入るだろうし。


 ただ、クラスメイトからは「先生、剣技は向いてないからやめたんですか?」と聞かれたりした。

「授業は出ないけど、模擬戦は出るつもりです」

 と正直に答えておいた。


 でも、まさか出るとは思ってないだろうな。

 おそらくだけど、このペースで稽古ができれば、俺が圧勝できると思う。

じわじわ強くなってきました。爆発させるところまでもうしばらくお待ちください!

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