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赤ペン精霊の神剣ゼミでクラス最強の魔法剣士になれました  作者: 森田季節
第二部 神剣ゼミで剣士に編

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52 完走できた

 ちなみに神埼千夏は三度目の授業でも課題をやってこなかった。

「忙しかったんです、すいませーん」

 語尾伸ばしてしゃべるなよと思ったけど、それはどっちでもいいや。

「じゃあ、次は必ず出してね」


「先生、怒らないんですね」

 神埼がこいつ、怖くないんだなという顔をした。ある意味では舐められているわけだけど、とくに腹は立たない。

「俺が神埼さんの親だったら怒るかもしれないけど、最終的に自分の人生をどうするか決めるのは神埼さんだからね。俺には怒る権利がない」

 神埼はまだよくわからないというような顔をしていた。

「たとえば、もし、神崎さんが魔法以外の能力で生きていくつもりで、それで問題ないんだとしたら、それでいいんだ。魔法は生きていくうえでの手段の一つにすぎないから」

「とにかく、先生がいい人っていうことはわかりましたー」


 俺としては生徒に憎まれるよりはマシだなと思って、次の生徒の課題点検に移った。


 三度、四度と授業をやっていくうちになんとなくつかめてきた。

 やる奴はやるし、やらない奴はとことんやらない。課題をこっちが出しても、提出しない。たまに提出したとしても、見てすぐに何か丸写ししたんだと気づく。多分、全然覚えてない。


 教官室に戻った時にサヨルさんにそのことを話した。愚痴という調子ではなく、単純な報告だ。

「あ~、いつの時期もそうなんだよね。私も異世界出身だけど、私の時の代もそんな感じだったし」

「やっぱり、そういう形になりますか」


 これは集団のシステムなんだろうな。やる気のある奴もいるし、やる気のない奴も出てくる。もちろん、罰則が怖ければ最低限のことはやるだろうけど、あくまで最低限のことだ。

 そして、強い罰則を与えるルールは今のところ、国にはない。


 そんなことをしても、おそらく中途半端な知識しか身につかないし、それでは軍人としては役に立たないので、強引にやらせるようなことはしないのだろう。

 それにハルマ王国側からすると、一方的に人間を呼び出したという弱味があるので、強く出れない部分もあると思う。


「しょうがないよね。だって、好きでこの世界に来たわけじゃないし、好きで魔法を勉強してるわけでもないし。無気力になっちゃう人も出るよ」

「ですね。ちなみにですけど、サヨルさんの代でやる気なかった人は今、どうしてますか?」


「よくわからない。だって、学校の人間が卒業後どうしてるかなんて、チェックしてないでしょ?」

「正論ですね……」

 中学卒業した奴がどこの高校に行ってどうしてるかなんて、細かく調べたりなんてしないな……。


「町でどうにか暮らしてるのが大半なんじゃないかな。女子ならそのまま結婚したケースもあったと思うし、そこから先はわからないな……。実力もないのに、軍人にしちゃっても、戦死することが多いみたいだし」

「その人が生きたいようにやらせるってことですね」

「そもそも、全員を幸せにする教育なんてないしね。教師は生徒に寄り添うことはできるけど、寄り添うだけだよ。最後にどうするかは生徒が決めるしかない」


 サヨルさんのスタンスはだいたい俺のスタンスと同じだった。


 あらゆる人間に対応した教育っていうのは世の中に存在しない。だから、どこを対象にしてもそこからはずれる人間が出てくる。

 それをできうるだけカバーするために、個人に課題を出していく通信教育寄りのやり方を導入したわけだ。一定の実績を上げられそうだとは思うけど、それにしてもやらない奴もズルをする奴も出てくる。でも、それは不可抗力みたいなものだ。


 あと、あんまり勉強勉強って言うと、生徒から嫌がられるしな……。俺は生徒でもあるので、そこから離れすぎるようなことはしたくない。

 剣剣の練習はやっぱりまだまだこれからで、課題が多い。イマージュと稽古をつけてもらっているけど、あれはレベルが高すぎて、まだ活用できていない。


「やっぱり、文武両道っていうのは難しいんだな」「逆に安心するよ。全部、島津君が完璧だったら自信喪失するし」


 そんな声をよくかけられる。現状、模擬戦だと、まだ中の下ってところだ。


 ただ、アーシアいわく、まったく気にしていなかった。もともとアーシアは滅多に不安な顔にならないというのもあるけど。

「なるほど~。剣は真ん中より下ぐらいということですね。今はそんなところでいいですよ。焦る必要はまったくないです。走るのも得意になってきていますし」


「俺が教師になってから二か月後に、一度、模擬戦をトーナメント形式でやるんですよ。それで一回戦負けっていうのは恥ずかしいな……。期間は残り四十五日ぐらいですね」

 本音を言えばそこまでにはもうちょっと強くなっておきたい。


「そうですね、それだけあればどうにかなってると思いますよ。とにかく私の神剣ゼミのほうでは走ってもらいます。そこはまだ変わりません。早く一トーネル走れるようになってくださいね。ミス三回以下ならご褒美もあげますからね!」

「じゃあ、それを目当てに頑張ります」

 その日も、そこから演習場に出て、アーシアの出した円の中に足を置いていって、走った。

 全体の七割ぐらい走ったところで力尽きた。


「まだまだきついな……」

「むしろ、これだけ走れたってことは、もうゴールが近いってことですよ。あと三分の一ほどです!」

 プラス思考すぎるだろうという気もしたけど、完走という目標だけならクリアできそうだ。


 その日は思った以上に近かった。

 三日目には俺は一トーネルを走り切った。最後のほうは足がふらついたが、どうにか乗り切った。途中からアーシアの「残り一割です!」という声が飛んできたのだ。そこまで来て諦めてたまるか。「ゴールです!」という声とともに膝から崩れてしまったけど。


「どうです? これで剣士として強くなれてますか……?」

 円の外に出る回数は七回だったけど、この調子なら完全合格でご褒美をもらえる日も近そうだ。


「もちろんですよ! 今の感覚を忘れないように、剣の練習をしましょう」

 アーシアが木剣を渡してきた。

「今の感覚って、走った感覚ですか?」

「ですよ」

 まだ、よくわからないまま、俺は剣の練習をした。

 体力はないから、すぐに力尽きた。


 これ、強くなってるのかな……?

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