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赤ペン精霊の神剣ゼミでクラス最強の魔法剣士になれました  作者: 森田季節
第二部 神剣ゼミで剣士に編

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51 教育者と成功

 その日の授業が終わったあと、昼食のために教官室に戻った。

 教官の立場だと、教官室に食事を届けてもらえるサービスがある。これまでは食堂で食べていたけど、システムを変えた。生徒の立場になったクラスメイトと食事まで顔を合わせるのは、微妙にしんどい。


「お疲れ様でした。なかなか大変だったみたいね」

 にやにやとサヨルさんが笑いながら話しかけてくる。ちょうど隣の席だ。


「何歳か下とかならいいですけど、タメの元クラスメイトですよ。やりづらすぎますよ」

「そのうち慣れてくるって。ずっと初回みたいに緊張してたら長くやっていけないし」

「そうなることを祈ってます」


 食事はスクランブルエッグに野菜を油で炒めたもの、それとごわごわしたパンだ。健康にはそこそこいいと思う。


 教官助手とはいえ、先輩のサヨルさんと肩を並べているとリラックスできる。

 ただ、あまりくつろいでいる時間はなかった。


「島津先生、教えてほしいところがあるんですけど」

 曽根啓太が教えを請いにやってきた。たしか、元野球部で学校の成績も悪くなかったはずだ。今もこつこつ魔法の知識を積み重ねてる。

「じゃあ、そこの椅子に座ってください。どこがわからないですか?」


 曽根に教え終わったと思ったら、また別の生徒二人が来た。よく教えてもらいに来る高砂理奈とその理奈と仲がいい一宮朱穂あかほだ。


「つまり、こういうことだけど、理解できた?」

「先生、やっぱりわかりやすいよ! 完璧にわかっちゃった!」「また、先生のところ来ます!」

 やたらと褒めてもらえたので、説明には成功したんだろう。


 そのあとも、三人、わからないところを聞きに来た。


 これ、かなりハードワークだな……。この状態で空き時間に魔法と剣技の修練に時間を使うのか……。だらだらしてると、すぐに時間がなくなるぞ……。


「大変でしょ? そうよ、本格的に教官になるとこういうことになるの」

 また、サヨルさんがおちょくってきた。

「教官助手のサヨルさんにこのつらさはわからないですよ」

「あー! その言い方はひどいんじゃない!」

 やられたので、やり返した。


 魔法の実習に関してはサヨルさんとヤムサックに担当をしてもらうことにした。

 でないと、空き時間がなくなる。まだ、魔法は奥が深い。概念魔法というはるかにハードルの高いものもある。敵がそんなもので攻めてきた場合、応戦できないというのでは話にならない。


 具体的に言うと、図書館にこもって魔法に関する文献を読みあさっていた。それと戦争について記した本だ。実戦で何が行われたかを知る必要がある。


「思った以上に、剣士とセットで動いてるな……」

 冷静に考えればそうだ。剣士は接近戦、魔法使いは遠距離の攻撃が得意だ。ならば、魔法使いを剣士が守るような布陣になってもおかしくはない。

 これはかなりタメになるな。戦争に関する本は軍事機密扱いで部屋に持ち込めないものもあるが、できるだけ読み込んでおこう。レベルアップに絶対に必要だ。


「魔法剣士が戦力として素晴らしい意味もわかってきた」

 肩肘をつきながら、つぶやいた。

 自分で自分の身を守りつつ、攻撃魔法を放つことができれば、一個人が与える脅威は増大する。魔法剣士数人で敵の大軍を封じることもできる。その中から英雄が出てくることも道理だ。


「当分は、このまま魔法の教官をしながら、剣技では生徒をやるっていう二重生活になるな」


 その日も、イマージュと稽古をつけてもらって、アーシアの下で大股で走った。


 今日は半トーネルぐらいは走れた。つまり、五百メートルぐらいだ。少しずつだけど、体力はついてきたと思う。とはいえ、やっぱり息が切れて芝生に倒れこんでいるので、あまりかっこよくはない。


「おお! だんだんと足腰が鍛えられてきてますね!」

 わかってることだけど、アーシアは今日も褒めてくれる。この褒めて伸ばすやり方は自分が教える時も絶対に実行しよう。よほどのへそ曲がりじゃない限り、褒められてうれしくない奴はいないしな。

「足腰以上に、体が大股の運動に慣れてきた気がします。ようは、こういう走り方が普通になるかどうかの問題なんじゃないかと」

 アーシアがまさにご満悦といった表情に変わった。


「いや~、教育者冥利に尽きますね~。時介さん、無意識のうちにわかってるじゃないですか。このまま続けてくださいね。きっと、ある時、この走り込みの成果を感じるようになりますよ!」

「アーシア先生、けっこう盛ってきますね。それで、しょぼい成果だったら俺も納得しませんよ」

「大丈夫ですよ。時介さんは私が想像する以上にいっつも進化してきますから」

 よかったところを探すの、上手い人だな。俺もこれぐらい、クラスメイトを褒めたら慕われるだろうな。


「ちなみに時介さん、授業第一回目はどんな感じでやったんですか? これは純粋な私の興味です」

 アーシアが仰向けになっている俺の顔をのぞきこんでくる。

「課題を一人ずつに与えて、それをクリアしていけば、ちゃんと成長できるって教育方法にしました。その分、全体に教える時間は圧縮します。一種の個別指導方式です」

「それはまた学校らしくないやり方にしましたね」

「広く浅くだと、サボる奴が増えるんで。でも、サボってばかりいて、そのまま戦場に投げ出されるっていうのは可哀想だなって」


 なるほどというふうにアーシアはこくこくうなずいている。

「新しいチャレンジですね。私は応援しますよ!」

「はい。どうせ、教育に成功なんて概念があるかもわからないし、やるだけやってみます」

「おっ、『教育に成功なんて概念があるかはわからない』ですか。これは名言ですよ! その通りです。少なくとも教育に完成なんてものはないですからね」

 教官初日からやたらと評価されて、やる気になった。


 翌日。二度目の授業。

 俺は出した課題がちゃんとやれてるか、生徒を見て回った。

 大半の生徒はちゃんと課題をやっていたが、中には明らかにサボってたり、詠唱をやってみろと言われて全然できない奴もいた。惜しいならともかく、全然できないってことは教科書を開きすらしてない可能性が高い。


「神崎さん、出した課題やってないよね」

 やる気なさそうな顔をしていた生徒はやっぱりやってない。

「忘れてました。すいませーん」

「じゃあ、今日はやってきてくださいね。いい?」

「はーい」

 多分やってこないだろうけど、別に怒りはしない。怒ってやむなくやるようなことだと、長続きしないし。

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