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赤ペン精霊の神剣ゼミでクラス最強の魔法剣士になれました  作者: 森田季節
第二部 神剣ゼミで剣士に編

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49 先生に先生を学ぶ

 もう少し詳しく話を聞くと、全授業を俺がしないといけないというわけではないらしかった。ヤムサックが手伝いに来てくれるものもあるし、原則サヨルさんがサポートしてくれるらしい。

 あまりに俺が無理そうだったら、再考もしてくれるという。だって、俺、教官としての専門的な教育とか受けてないからな。知識があっても教えるのが上手かは謎だ。


「その点は問題ないんじゃない? これまでもクラスの子に教えてたりしてたでしょ?」

 サヨルさんの中では不安がまったくないらしく、真正面から応援してくれた。その応援がありがたいような迷惑なような……。


「だいたい、サヨルさんはこれで納得がいってるんですか?」

「どういうこと?」

 あまり具体的に言いたくないけど、言わないと通じないか。 


「いや、ほら……サヨルさんのほうが先輩じゃないですか……。俺が教官になっていいんですかね?」

 サヨルさんは笑って、俺の肩を少しだけ強く叩いた。

「何を言ってるの! あなたのほうが魔法使いとしてセンスがあるのは明らかじゃない。先輩とか後輩とかそんなこと気にしなくていいの!」


「だったら、よかったです」

 なにせ、俺はクラスメイトに憎まれて殺されかけた過去があるからな。

「むしろ、気をつかわれた分だけ、腹が立つかな~」

 にやっと人の悪い笑みになっているから、これはふざけて言っているんだろう。


「すいません、これからも腹を立たせると思います」

 なので、こっちもそれに応酬する。

「そうそう。それぐらいのほうがこっちも気楽だし。それに、そもそも私は教官になるのが夢じゃないから、悔しくもないよ。私の目的は勉強のほうだから」


 そうか。ここに在籍している魔法使いがみんな教師を目的にしてるわけじゃないんだ。教官は魔法使いのポストの一つでしかない。大学教授が大学生に教えたいためだけにやってるわけじゃないようなものだ。


「ということで、島津、頼むぞ。クラスメイトをしごいてやってくれ」

「謹んで拝命いたしますよ」


 そのあと、部屋でベッドにあおむけになりながら、授業でやる範囲を読み直した。たしかに自分では問題なく理解している範囲だ。それ以降の単元も見ても、無詠唱で使いこなせる魔法が並んでいる。


 ただ、教えるとなると、また違う技術がいるよな。それでもやるしかないんだが。どうせ、教えるのが得意かどうかなんてやってみないとわからないことだ。


「こまめに復習なさってますね。時介さんは生徒のかがみです」

 アーシアが顔を出した。

 宙に浮かんでいるので、ちょうどアーシアと目が合う。


「いや~、急遽、教師をやることが決まったんですよ」

「教師? ああ、クラスの方を教えるんですか?」

「そうです、教官助手から教官に昇進というか――――あっ、そうだ!」


 目の前に教師のベテランがいるじゃないか!


「アーシア先生、教師の指導をさせてもらえませんか?」

「えーっ! そんなこと言われたの初めてです!」


 そりゃ、レアだろうな。生徒が教師の勉強を指導してくださいなんて言わないだろう。将来の夢は教師ですっていうのならありえるだろうけど、生徒がリアルで教師になったので指導してくれというのはまずないよなあ。


 いつもなら、「任せてください!」と言うアーシアが今日は少し及び腰だった。表情が困惑気味なのだ。


「う、う~ん……どうすればいいんですかね……。私、神剣ゼミのシステムに則って、教えることはできるんですよ。それが仕事なので。けど、教師としてのあり方となると、よくわからないんですよね。ほら、塾の先生と学校の先生って微妙に役割が違うじゃないですか」

「それは、ありますね」


 塾というのは成績が最優先だし、極論、成績を上げるためだけに存在すると言っていい。けど、学校の先生は人間としてもまともな人間を育てるのが仕事だ。


「だけど、アーシア先生は学校の先生としても一流だと思いますけどね」

「う~、褒めすぎですよ……。私はそんなに万能じゃないですよ……。それに学校の先生ってマンツーマンじゃなくて、多人数を教えますよね。そこでもかなり変わるんですよ……」

 珍しく弱気なアーシア。これはこれでちょっと貴重だぞ。


「先生が普段気をつけてることとか教えてもらえればそれでいいですから」

「わかりました。で、では、いきますね。まず、生徒の前では先生らしく泰然自若とした態度でいましょう

 わざとらしくアーシアは胸を張る。


「次に、これはあくまでも私のやり方なんですけど、生徒がわからなくても叱りません。叱られると、かえって萎縮しちゃう生徒もいるので。何がわからないのか聞きますし、悩みがあれば教えてほしいと何度もお願いしますね」

 そのやり方は俺も教育を受けているからよくわかる。


「あの、質問です」

 俺はメモをとりながら、挙手する。

「はい、何ですか?」


「生徒自体にやる気がなくて、全然勉強しないような時はどうしたらいいですかね? ほら、クラスには一人や二人、そういう無気力な奴もいるじゃないですか」

 どんな進学校でも、何もしないことが目的になっているような奴は存在する。最も教師泣かせな存在と言っていい。

 それは俺の一番の悩みと言ってよかった。やる気のない奴に教えることは簡単なのだ。やる気がない奴をどうやってやる気にさせればいい?


「だから、そういう人の対応は実はわからないんですよ~!」

 アーシアはお手上げとばかりに天を仰ぎ見た。

「先生でも無理なんですか? だったら、もう対処法はないな」


「私はマンツーマンの教え方に特化してるから打開策が作りやすいんです。その子に寄り添うことができますからね。多人数教育だと、落ちこぼれ系の子に焦点を合わせるのが難しいから、どうしてもこぼれ落ちてしまうことがあるはずなんですよ」

「なるほど。言われてみればそのとおりかも」

 どんな名物教師でも生徒を十割まともに育てるというのはきついだろう。


「もし、私が時介さんのようにクラス全員を教えることになったら、できるだけ不公平のないことを心がけつつ、自分がわかりやすいと思う授業をするだけですね。それで一部の人がついてこれないだけなら、補習などで対応してそのまま進むと思います」


「ありがとうございます。気が楽になりました」

 八割が納得する授業でいいんだ。百点満点しか許されない先生なんて続くわけがない。


「よかった……。私もそう言ってもらえて、ほっとしましたよ……」

 今日のアーシアはやけに等身大に見える。

 もしかすると、俺がアーシアと同じ教育者というものになるからだろうか。


 それから先も俺はアーシアにいくつも心構えを聞いた。多分、これでなんとかなるだろう。八割が合格ラインなら道はある。

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